不器用
その時の記憶はほとんどない。よっちゃんの家についた途端、僕は出てきた彼を殴った。そこから喧嘩になったことは覚えている。ただ、その後どうなったかは知らない。気付くと、僕は病院で包帯をぐるぐる巻きにされていた。体中が痛い。隣には泣きわめく水月。僕は、彼女の髪を撫でてやった。すると、彼女が突然片手を上げ、僕のことを殴った。訳が分からなかった僕は、しばらく殴られた状態のまま硬直した。彼女は、「もう一緒にいられないじゃん……」と小さな声でつぶやいた。その時の僕には、何がなんだかさっぱりだった。
あれから、僕は水月に会っていない。もう、六年が過ぎただろうか。僕は、なんとか水月の現在の住所を探し出した。六年見ないうちに、彼女はいろいろと変わっていた。髪が伸び、今は保育士の仕事をしているらしい。ただ、変わっていないこともあった。それは、耳の引っ掻き痕と、手首の傷。六年経った今も、その行為は続いているらしい。僕は、彼女が自分自身に傷をつけることが嫌だった。なぜ、嫌なのか。牢屋に入れられていたこの六年間。僕には、考える時間が沢山あった。少し、多すぎたくらいだ。僕は、暗い牢屋の中で、その答えを導き出した。その答えは、綺麗なものが自分を傷つける姿を見たくなかったから。結局、僕は小学四年生のあの時から何も変わっちゃいなかった。
僕は、綺麗なものが自分を傷つけるのを見ることが嫌いだ。あの細い腕で、自分の体を傷つける水月。僕は、もうそんな姿見たくない。
このまま、傷ついて死んでしまうのなら、僕が殺してあげよう。そして、あの時缶に入れた蝶みたいに、ずっと、ずっと僕のそばに置いておこう。
彼女の、一番美しく輝く瞬間。僕は、それを見ることが出来る人間なのだ。
これで、完結です。長々とありがとうございました。