傷痕
よっちゃんが退学になってから、三ヶ月が経った。街はもう、クリスマス一色に染まっている。僕はあれから、もう一度彼女に告白をした。返事は、相変わらずあやふやだったけれど、彼女は言った。
「好きってよく分かんないけど、君とならいいかな」
クリスマスイヴ四日前。僕は、水月と付き合うことになった。
付き合いたてということもあって、クリスマスは一緒に過ごさなかった。お互い用事が入っていたし、どう過ごして良いか分からないというのもあった。年越しは、電話をして一緒に過ごした。
ごくごく普通の、どこにでもいるカップル。ただ、僕の中の気持ちだけが日が経つごとに異質なものへと変わっていった。彼女の周りの男子、日々増える腕の傷、耳の引っ掻き痕。彼女が自分を傷つける理由、それは彼女にも分からないようで。僕には何も出来ないことを知って、自分の腕に傷をつけた。そんなことをしても何も変わらないと知っていながら。
それから、僕の腕には沢山の傷が出来た。その数は二けたを超え、腕からは血の赤が絶えなかった。
ある日、それを見つけた彼女が、大声をあげて泣き出した。僕には訳が分からなくて、おろおろすることしか出来ない。とりあえず彼女を宥め、何故泣いているのか理由を聞いた。すると、彼女にも理由が分からないらしい。僕たちは、傷をつけることをやめる約束をした。
しかし、彼女の耳の引っ掻き痕は治らないままだった。そのことで喧嘩になったことも多い。僕は、彼女が自分を傷つけるのが嫌だった。どうしても、嫌だったのだ。僕はやめるように、何度も言い聞かせた。彼女は、今までただの癖だからと言っていたが、唐突にイライラするから引っ掻いちゃうんだよ……とつぶやいた。それを聞いて、僕はよっちゃんの事を思い出した。もしかしたら、まだ水月にしつこいのではないだろうか、という考えが浮かんだ。僕は彼女の携帯を奪い、メールフォルダを確認した。すると、案の定。よっちゃんからのメールは、僕からのメール数よりも多かった。僕は携帯を彼女に突き返し、彼女をおいてよっちゃんの家へ向かった。
次で完結になります。