嫉妬
梅雨が過ぎ、夏の一歩手前。僕の学年は、二泊三日で研修に行くことになった。
研修と言っても、特に何をするでもなく、クラスのみんなでオリエンテーションをして、寝泊りして少し遊ぶ程度のものだ。
夜、入浴を済ませた後はみんな私服で一旦集まり、それぞれの部屋に戻って就寝までの時間を過ごす。僕は、入浴後の水月を見るのが少し楽しみであった。普段学校で見られない私服姿、といってもパジャマのような簡単な服装だが、その姿はそうそう見られるようなものじゃない。
それは、普通の男子高校生が好きな女子のいつもと違う恰好を見たいという、特に何の不思議もない思いだった。
クラスごとに夕飯をとり、十分という短い時間での入浴を済ます。僕は、クラスメイトより少し早く浴場を出た。
日が沈み、気温が下がり過ごしやすい時間帯。浴場の熱いお風呂で火照った体を冷ますように、僕はゆっくりと部屋への道を歩いていた。男子の浴場は女子の浴場よりずっと奥にある。僕は、もしかしたらお風呂上りの水月に会えるかもしれない、なんて淡い期待を抱いていた。
蛍光灯は少なく、その内の数本はチカチカと点滅してしまっている。
少し先にある自動販売機の明かりが、人の影を伸ばしている。その影は、よっちゃんのものだった。僕は、自販機で飲み物を買っている彼に声をかけようと思った。ゆっくりとした歩調で、自販機へと進む。彼は自販機が吐き出したペットボトルのキャップを開け、少し飲んだ。
よっちゃんの長く伸びた影を踏み、少しずつ近づいてゆく。すると、自販機のすぐ近くにあった女子の浴場から、水月が出てきた。髪は濡れ、首にタオルをかけている。僕は、足を止めた。彼女は、浴場の近くにいたよっちゃんに気が付き、声をかけた。僕の位置から、二人の会話は聞こえない。ただ、時折二人の笑い声が聞こえてきた。
何を話していたのか、彼女はよっちゃんが口をつけたペットボトルを受け取ると、キャップを開け、飲んだ。
間接キス……。
彼女は、よっちゃんにペットボトルを返すと、後から出てきた友達と歩いて行ってしまった。僕は、よっちゃんに近づくと、肩を叩き声をかけた。
「おぉ、お前もはえーな。風呂でるの」
「そうかな。でも、よっちゃんほどじゃないよ」
「そうか? つか、いてーよ。肩強くたたきすぎだって」
彼は笑いながら、肩をさすった。
「あぁ、ごめん。ところでさ、水月と付き合ってんの?」
僕は先ほどの二人を見て、気になっていた事を聞いた。
「いや、付き合ってねーよ。でも、可愛いよなー。狙ってはいる」
彼は、また笑った。
そういえば、言ってなかったな。僕が水月の事好きなの。勝ち目、ないよな。僕とよっちゃんとじゃ。
僕は、「そうなんだ、頑張って」と言って立ち去ろうとした。しかし、彼に止められてしまった。
「部屋同じなんだから、一緒に行こうぜ」
断る事が出来なくて、僕は仕方なくよっちゃんと部屋に向かう事にした。
実話が混じっているとこがあったりします。懐かしいなぁと思いつつ書きました。