殺し屋
一流企業の社長を務めている山田は、朝刊を読むのは日課になっていた。気に入っているのは『おはよう新聞』その名の通り、朝にふさわしい、明るい話題が載っている。
山田は、広告の欄に目が行った。
『殺し屋』
山田は思わず目を疑った。そんな会社があるのか。
一応、詳細を読んでみた。
「殺したい人がいるなら、ココですよ! 詳しいことはサイトで!」
と書いてあり、URLが載っていた。
「見るだけ見るか……」
山田の朝は暇だ。時間の余裕はある。
サイトは、デコレーションがされていて、やけに派手だった。『殺し屋』のタイトルの隣に、ハートマークが付いている時点で、真面目な会社ではないだろう。
ところが、山田はある欄で目が止まった。
「殺したい人の氏名と殺したい時間、殺したい病気を指定していただけたら、当社で殺します」
「病気?」
山田はうなった。どういうことだろう。
「詳細は当社へ、お出向きください」
やけにもったいぶるな、この会社。しかし、山田は興味深かった。指定された住所の所に行くことにした。
着いたのは、ビルだった。しかし『殺し屋』という会社は見当たらない。住所の場所は『K.Yカンパニー』と言う所だった。
空気読めねぇの? なんて思いながら、山田はその会社に入った。
「おはようございます。何か御用ですか?」
受付嬢の女性が聞いてきた。
山田は、印刷した『殺し屋』のサイトのページを見せた。
「あぁ、それでしたら、三階へお出向きください」
はい、と返事して、山田は階段を上った。
三階に着くと、確かに『殺し屋』と書いた部屋があった。
「あのぅ……」
山田は声を出した。
「何か?」
受付にいた、男性が聞いてきた。
「誰か、殺したい人でも?」
男性はしつこく聞いてきた。山田は冗談半分で「はい」と言った。
「じゃあ、これを書いて下さい」
男性は一枚の紙を渡してきた。
山田はギョッとした。
「殺したい人物(氏名)」
と書かれていたのだ。まるで、病院の問診票みたいだ。
「佐藤ブスコ」
と書いた。佐藤は山田の会社のライバル会社の社長だ。だから書いてみた。
「殺害時期」
と次に書かれていた。正直、どうでも良かった、
「八月二日」
と明日の日時を入れた。
次に書かれていたのは、
「殺害方法(病名)」
だった。山田は病気に詳しくない。
「心筋梗塞」
と適当に入れた。
どうやら、問診は終わったようだ。山田は受付に提出した。
「確かに受け取りました。この後、診察がありますので」
男性はにこやかと答えた。
数分後、山田さん、と呼ばれた。返事して、診察室に入った。
中では、色々と説明を受けた。動機や時期、方法などだ。
なぜ、殺害方法が病名なのかというと、この会社で病気を起こせる薬を開発したらしい。どんな病気でもいいそうだ。
しばらくして、帰っていいことになった。なんだかんだ三時間もかかった。人を殺すから当然か。
最後に会計をした。値段は二十万と高かったが、社長の山田にとっては紙くず同然だ。
二十万払って、帰ろうとした時、呼び止められた。何かと思ったら、ただの飴玉だった。それを舐めながら帰ることにした。
美味しいじゃん、と山田は思った。山田の会社はお菓子会社だ。この『K.Yカンパニー』も買い取ってやろうか……。
その時、胸が苦しくなった。息が出来なくなり、山田はあっという間に死んだ。その後、彼の家族が聞いた病名は、心筋梗塞だった。
「しかし、良かったですね。警部」
受付の男が言った。
「あぁ、君もなかなかの、名演技だったよ。佐藤巡査」
「これで、人を殺したいと思っている者を、食い止めましたね」
佐藤は『警部』に言った。
「あぁ、それもこの、薬のおかげだ」
そう言って、飴玉を指差した。
「しかし、使うことになってしまいましたね。その薬」
佐藤はそう言って俯いた。
「仕方ないだろう。我々は民間人を守る。それが仕事だ。わかっているだろう? 殺人者の命より、民間人の命の方が大切だからな」
「もちろんです。警部」
佐藤はそう言って敬礼した。
警察官こそ本当の殺し屋かぁ?
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こんな薬、出来ませんように……by作者