朝早く、リュックサックを背負って
朝早く、リュックサックを背負ってとぼとぼと道路を歩いていたら、足元から「えんそくですにゃ?」って声がしたので、見下ろすと一匹の三毛猫がなんだか期待に満ちた眼差しでこちらを見上げていた。
「えんそくならおやつあるにゃ? なんかくださいですにゃ!」って言うので「……遠足じゃないんだ、ごめんね」って答えたら「おなかなでてもいいですにゃ。なんかくださいにゃ」って道路に仰向けになってのどを鳴らし始めたのでしょうがないのでしゃがみこんでおなかをなでてあげた。
「ごめんね、ほんとうにおやつないんだ。遠足じゃなくて、家出なの」って言ったら「……じゃあ、かわりにそこのうちの子になってもいいですにゃ?」って三毛猫が言ったので、ちょっと考えてあんな親でも僕がいなくなったらちょっとは何か思ってくれるのかな、って思いながら「……いいよ」って答えたら「どこですにゃ、あんないしてほしいですにゃ」って言うので、しょうがないので三毛猫を家まで連れて帰ったら玄関におかあさんが立っていた。
「おかえりなさい、早かったわね」っておかあさんが言って、三毛猫の頭をなでて、それから知らない人でも見るかのように僕の顔をちらりと見て、ちょっと会釈してからおかあさんと三毛猫は家の中に入っていってしまった。黙ってそれを見つめていたら、なんだか急に悲しくなってきて、思わずぽろりと涙ををこぼしてしまって、「やっぱりだめ、返して!」って叫んだら、細く開いたドアから三毛猫が出てきて「にゃー」と鳴いた。
それから猫のくせに小さく笑って、「だいじなものは、かんたんにひとにあげちゃだめにゃー」って言って、塀の上に跳び上がって、あっという間にどこかに行ってしまった。
うちに入るに入れないでいると、急に中からおかあさんが出てきてぎゅって抱きしめてくれた。
「ごめんなさい」って謝って、それから三毛猫、わざとだったのかなってちょっと思った。




