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オサムとユリ  タイムライン 新しい過去

 バスの中は、昇り始めた日の光で、随分と明るくなっている。ユリはその光に射抜かれて、眠りから目覚めようとしている。インターを降りて、市街地に入るバスの外には、雪一色の田園風景が広がり、遠くには巨大な鉄塔が、たゆんだ送電線を中継しているのが見える。反対車線をすれ違う車の上にも、雪が残り、ワイパーが重たそうに落ちてきた雪を掻き分けている。車の窓の奥に見える人々の口元は、笑い、囁き、皆それぞれ幸せそうな顔をしている。きっと色々なことを、誰もが抱えて生きている。そうだとしても、バスから見える人々の顔は、幸せそうに見える。

 ユリは目を開けて、その風景を眺めた。そして隣の席に座る、オサムの手をしっかりと握った。オサムもその手を握り返した。繋がり合った手と手の間に、温もりが生まれる。きっとそれは、すれ違う車の中の、幸せな温度と同じなのだ。あと一時間もすると、バスは金沢に到着する。

「ねえ、オサム。私たちの未来は、もう決まっているのかしら? 穴が完全に一つの流れなんだとしたら、私は、そう長くは生きられないってことになるわよね。それは怖いことだわ。」

「どうなんだろうな。流れているなら、その未来も同じ早さで流れてくんだろ? だったらそこには、永久に追いつかないってことなんじゃないのか?」

「いいの。いまここに、二人でいることだけを信じていたい。私にはそれだけでいい。」

 そう言ってユリは、オサムの肩に頭を預けた。

 車内放送が流れて、到着時刻がアナウンスされた。眠っていた他の客たちも、背伸びをしたりして、準備を整えている。

 これからどこへ行けばいいんだろう? オサムには、何も考えることができない。しかし思えばこれまでだって、何も考えずに、流れるままに生きてきた。ただ、今はその流れの中にユリが含まれている。そして自分もユリに含まれていると感じる。

 気まぐれで不確かな世界なのであれば、せめてその感覚だけを頼りにするのも、悪くはないな。そう言いかけて、オサムは思い留まった。言葉になど、する必要はない。

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