ウサギの世界 タイムライン 判別不能
ルールという物が存在しているとすれば、この世界の唯一のルールとは、つまり「入口の先には出口がある」ということだけ。沢山のウサギが何やらペチャクチャ喋りながら、穴と穴とをトンネルで繋げている。しかしよく見るとウサギ達は、互いに話しかけて、会話しているいるのではない。各々が大きな声で独り言を言っている。
「ああ、忙しい。よりによってこんなややこしい場所に穴が空くなんて、面倒くさいったらありゃしない。」
「おいおい、もうちょっと待ってくれよ。そんなにアセんなよ。穴は逃げたりしないからさあ。こっちの都合なんてお構いなしかい!」
ウサギ達はあっちからこっちへ、忙しなく走り回り、時間軸に空いた穴から落ちてくる人々をトンネルの中に導いていく。
オサムとユリの夢に現れたウサギが、穴から落ちてきた二人を見ている。やがて二人はトンネルを抜けて、お互いの出口から新しい世界へ飛び出して行った。新しい世界。そこにどんな未来(過去?)が待っていようとも、ウサギにはどうすることも出来ない。それはウサギの役目ではないのだ。もっとも、自分たちの役目なんてことまでは、ここのウサギ達には考える暇もない。それに、自分たちが存在する意味など、知っても知らなくてもあまり大差はないだろう。ウサギ達はいつもそう考えていた。
しかし、オサムとユリを繋いだウサギは、じっと一人で考え込んでいる。いつもなら、他のウサギと同じように独り言を言いながら、仕事をこなすだけだったが、今回の二人を見ていて、何かが引っ掛かっていた。それが何かを探る前に、もう次の穴が空きそうな気配を見せている。恐らくその答えみたいなものは、この世界にいる限りは、見つけられないのだな。ウサギはなんとなくそう思って、考えるのをやめた。
ウサギだけしかいない世界。「入口」と「出口」だけで繋がれた穴。ほころびも、例外もない。ルールは一つの世界だったが、そのことがかえってその世界をルールで縛り付けている。そのことに、ウサギ達が気が付く筈もない。
「まあいいや。二人は無事に穴に落ちた訳だし、おいらに出来ることは全部やり切った。さあて、次だ次だ。今度はどんな奴が穴を探してるんだろう? 楽しみだねえ。」
いつの間にか、そうやってそのウサギも、独り言を言い始めている。そして、トンネルを繋ぐ穴を探して、忙しそうに走り出した。やがてすぐにそのウサギは、他のウサギ達に紛れてしまい、どれがオサムとユリを繋いだウサギかは、とうとう分からなくなってしまった。