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魔王の弟様なう  作者: 水溜り キロ
3/4

ほとほと花が落ちて哀し

視点がくるくる変わる。

なんでなんでなんなのここからだがうまく動かないよ助けて誰かおとうさんおかあさんたすけておねがいたすけていやこわいたすけていやいやいやいやあ!!

水を飲み込んだような、いきなり頭を水面に突っ込まれたような衝撃で、私は叫んだ。

さっと体が柔らかいもので包まれて、体が浮ついている。

耳があまり聞こえない。

ぐらぐら視線がまわる。



何が起きてるのかわからないまま、私は甲高い声の中、必死に嫌、嫌と繰り返した。

だんだんぼんやりとした視界から周りがはっきりしてくる。

やわらかい布に包まれて、私は肌色の人影におびえていた。

息がこんがらがるような知らない言葉があちこちからこぼれている。

頭痛い頭痛い。じんじんじんじん


何かが私からすべてを奪おうと頭を覗いている


私の大切なものに手をのばして、盗られたら、それを忘れてしまうのに、いや。

わすれたくない。私は私でしょ。誰なの私に入ってこないで!!



私の中でバチンと何かがはじけた。

そのとたん、なにかはため息をついて帰っていきました。

私は泣いている。

大きな声をあげて。


なのに、私の声が見つからない。




ぎゃあああん

ぎゃあああん




あかちゃんが、私と一緒に泣いているようだ。





なんだかわからないまま、私のまぶたは下がっていく。

あったかくて、なぜか安心できるぬくもりが傍にあったせいで、恐怖の中、ゆっくりと私は眠りに抱き込まれていった。



現実逃避、逃避行。

誰も助けてくれないんだもん。







魔界の城の、一番高い塔の中、町を一面に見られる部屋の中。



そこは妖精のように美しい一人の女とさめざめと泣く使用人たちと、赤ん坊とやわらかいたくさんのシーツがありました。

ステンドガラスに色付けられた光が女にさらさらと降り注ぎ、その光景は一枚の絵にしても語ることはできないでしょう。

女は赤ん坊を産み、もうすぐ力尽きようとしていました。


魔力の高い男とその魔力に満たない女の間に子供を作ると、女の中で高い魔力が生まれる。腹の中で育つうちは徐々に母体が子の魔力に慣れていくため平気だが、産んだ瞬間赤ん坊は母親の魔力を無自覚に奪っていってしまう。これが出産後の魔族の女が死ぬ一番の原因となっていた。


そんなこと十分知っていても、あの人との間に子が欲しかった。



「アルーギヌ、アルーギヌ。可愛い私の子、あの人の子。好きよ。ああ

天に上っても、あなたを愛しているわ。いつだって、私はずっとあなたの側に」



赤ん坊はまだ弱々しく泣き続けている。

うふふと女は幸せに笑い、その口を静かにゆがませました。

子を成さないという約束を破り、置いていく男を想って静かに泣きました。


「モモちゃん、例の手紙、あの方は読んでくださったかしら」

「奥様……ご心配には及びません。魔王陛下は戦地へと赴いたあと、1日の自分へのご褒美として必ず奥様のお手紙を拝見なさります。 しかしあのように手紙にされなくとも、魔王陛下はアルーギヌ様を心から愛してくださるに違いありませんわ。


なぜなら……アルーギヌ様のおぐしと輝く瞳は、奥様にそっくりではありませんか。」


……許してね、ごめんなさいね。みんな。

許してね。

どうしても、どうしても諦められなかった。

冷たくなる体に震えても、こんなに満たされた心地になるのは、久しぶり。


モモは潤む瞳をこらえ、長年仕えてきた主を見つめ返す。

妖精が光の粒に帰るように。人魚が泡になり消えるように。薄いベールが一枚一枚天に登り、徐々に姿が薄れて行く。

その姿を、見逃すまいと彼女ら使用人は見つめていた。





「無事天にお帰りになられたか……」


だれかがため息と共にそう言った。

ベッドに残ったものは、すやすやと眠る赤ん坊と、柔らかな日差しだけであった。

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