プロローグ、ある娘の夜
この主人公は、精神は女です。そしてオタクです。でも体は男です。そのため、これってボーイズラブだろな感じです。よって、受け付けない!と思った方はすぐにでもほかをお探しください。それでもいいという方はどうかごゆっくり小説を読んでください。失礼しました。
「ふふんっ、それでさあ、聞いてよ!なんたって今日は、徹夜で済ませてしまおうと思うのだ!」
とっぷり暮れた夜の部屋で、女友達にテンション高めで電話する娘が真子だ。小さめの彼女の部屋には少年漫画やギャルげーやらちょっと大声では言えない薄い本なんかが固まって置いてある。それ以外はかわいらしい、普通らしい女の子の部屋で、ベッドの横には白いテーブルの上にミシンと選びぬかれた布が丸まっておいてある。真子はベッドに胡坐をかき、雑誌を持った片手に視線を移したまま話す。
「んで来週までにコスプレ衣装完成させて初お披露目!」
「それ真子的に大丈夫なのか?」
「うん、あとくるみんのエプロン縫うだけだし、小物は明日作るし」
くるみんとは、真子が今愛でに愛でている胡桃沢みなととゆう美少女キャラである。キメ台詞に吐く「身の程を知りなさい!」がとてもきゅんきゅんなのだ。彼女は戦うメイドとして朝の七時から画面の中で活躍中している。ひらひらと輝くエプロンに魅了されるのは世の男たちだけではない。
「まじか。さてはお主、夏休みの宿題はこつこつと済ませて最後の週は遊びまわるタイプか!」
「いや普通に最後まで引きずって最終日に友達に見せてもらう派ですが」
「なにそのコスプレに対する執念。超こわい」
「オタク魂ってやつさ」
はっはっはと笑って見せた真子に「出来たら写真取らせてね」といつもはクールな友達も声を弾ませて、楽しげに言うもので。雑誌の中のメイドたちを見ながら真子はニヤニヤがとまらない。
「任せとけ、じゃあまた明日」
「ばいばい」
切った電話をベッドに放ってそれでは仕事にとりかかる。ひだの多いこのエプロンは縫うのが一苦労なので真子の顔も真剣そのものだ。
カタカタカタカタ。布を縫い付ける音と、カチカチ時計の時間を刻む音。部屋からその音しかしない。
どれくらい時間だたったろう。
ふと見ると、時計は七時を指していた。真子は出来上がったエプロンを満足げに眺めて、そして後ろのベッドに倒れ、ため息をついた。
目を瞑っておきたら、まずご飯を食べて、友人の家をたずねよう。
ああ楽しみ。楽しみだ。
真子はそのまま眠って、息苦しさに飛び起きた。
……はずだった。
「うっぎゃあああんああ!むみゃあああんにゃあああん!」
うっひょおおおおわああ!さむさむさむここはどどこじょおおーっ!!
間違ってもこんな叫び声で起きるつもりなんか、さらさらなかったんだ。