7.
「良い、話せ、先の名を。」
「先の名…?あぁ、なるほど…」
王の耳に留まった名はティファレト、古代の神秘思想において"美"と訳されるこの世を形成する9つの樹の丸である。
「話しても良いが…まずこの16マイクロシーベルトの放射線を抑えてほしいねェ…」
「…現界に応じ世界が負荷に耐えられなかったか…気にするな、貴様ら人間如きなぞ威光が無視するわ」
「ほぅ…?生体に危害を加えない放射線ね、興味深いが…」
雨眠は、瞬時に自身のやるべき事、やれる事を理解する。
「君、私を殺すつもりかい?」
「…聞いて何になる。」
横目でモニターを見る…
映る相原の這いつくばる姿。
「いや、死の恐怖はとうに克服した、だがまだ研究が…」
「杞憂だな、余は貴様を殺さない、これで満足か?」
企むは時間稼ぎ、しかしそれも…
「っ…じゃあなにを聞きたいのかな?」
「話せ、先の、名を。」
長くは続かず、雨眠は王の威厳に冷や汗を隠せない。
「て、ティファレト…イタリア半島、フィレンツェに住まう歴史上最も美しいと呼ばれた者だよ。」
「ほう…?続けろ。」
「その圧倒的なまでの美貌は世界の99%を担っているという噂があって…」
「余が続けよと申したのはそのような与太話ではない、二度は言わない。」
遠方にて、急ぐ古見
王の耳に入るは創世記以前とは全く違う印象。
「ほ、本人は無気力に近い性格で、基本的な外交は側近が…」
(無害とはいえ恐らくあの距離で食らった相原くんはかなり重傷…話を続けるのもあと数分が限界…一体いつ来るんだ猫塚古見…!)
「その美貌は神秘に最も近く黄金の夜明け団…GDに勧誘されて、3つある団に所属せずセフィラの名を与えられてだね…」
死の警告を鳴らす神経質なガイガーカウンターは沈黙した、が未だ場には舌を鳴らせる雨眠が居た
「もう良い、直に会う、それと…」
清聴する王は話を切り上げた、が…
「技安だ!扉を開けろ!」
「っ雨眠ちゃーん!助け来たよ!」
「…無神経な来客、のようだな?」
「…そのようだね?」
やはりまたこの女史である、古見の声は鶴のように壁越しですらお構いなしに響き渡り、空気を裂く
「ゃ!相原くんはもっ救助行ったよ!今度はなにゃすれば良い?!」
「…全く、君はそういう神秘でも持っているのかい?」
「へゃ?神秘?あれ?さっきまでの雰囲気は…」
割れた防弾ガラスの破片を払い、王は貧相な椅子へ腰を降ろす
「もう良い、それよりも、イタリアとやらへ行く、迅速に移動手段を用意しろ」
「ぁー…?い、一体何があったの?」
「…さぁな、私には彼の気持ちが分からない。」
一瞬にして解かれた緊張を前に雨眠は全ての警告を鳴らす機器を黙らせる
「まぁ…相原くんも無事医療班が到着したし大丈夫だろう…はぁ…疲れた。」
「あの…雨眠室長、我々は…」
「もう帰っていいよ、てか帰って、早く。」
テットの技術安全チームは基本的に科学部の下部組織、その広い業務内容は雑用に使われる事も多い…
「はぁ…ですがそちらのオブ―――」
「―――っとぉ!?あー!こんな所に私の開発した触れるだけで心拍が500を超える薬が!?あぁ、実験体が欲しいなぁ〜!?」
「…はい、じゃ帰りますわ、お前ら、行くぞ…」
雨眠の迫真の棒読みに技術安全チームの隊は背を向け、部屋を後にしていく…
「…もう良い、些細な事で憤怒する余が稚拙極まっている事象を認知した、人間にも慣れた、今より多少の無礼は許す。」
「…なんだよ…もう私疲れたから寝ていいかい?というか、寝るよ。」
「ぇゃ、雨眠ちゃん…ね、寝てる…」
堕ちた王は座して沈黙を貫き、雨眠は理性を捨てその場に突っ伏す、古見はというと…
「ひや〜…ど、どうすりゃいいんかね…?」
「…其奴は所詮人の身だ、疲れもある。」
当事者であるはずが、全く状況を理解出来ていない
「それよりもだ、コミ、航空機であろうと船艇であろうが構わん、美が織り成す半島へ余を運べ。」
「ぅ、今から…?」
「即刻だ。」
しかしいくら古見と言えども、時間帯もあり移動手段を用意するのは容易ではない…
「やっ、古見さん…何かお困り事かな?」
「っぎゃうっ…!?」
気配無く、古見の肩に手を置いたのは強かな印象を抱かせる細身の淑女。
「…誰だ、申せ。」
「…へぇ、この子が新しい…って雨眠さんはお眠のようだね。」
外見だけで見れば弱者
しかしその内に秘めたるは強者の風格
「とっ鳥羽さん…びっくりしちゃったですよ、毎回気配消して後ろに立つのやめてよ!」
「ははっ…いや、君の反応が面白くてね、それよりも…」
髪は不自然に浮いており、まるで山羊の角のように丸く歪曲していた
「君かな?新しい…子、は…」
「…?なんだ、きさ…」
両者共に不動を貫き、沈黙に乗じ視線を交わす
「バフォメット?何故ここに…」




