4.
「っふう…やっぱり寒くなってきたな…」
季節の移り変わりを感じ、師走が近付く…そんな時期に同期と任務で発見した幼児の王を抱え佐都は廊下を歩く…
「古見、起きたら飯行くぞ。」
「んん…」
半ば放り投げられる形で古見は仮眠室へ直行、医療班のバイタルチェック音を背に佐都は―――
「―――貴様あぁァ!!」
「うわっ!」
一息付く間もなく、冠の外れかけた王の殴りを鼻先で交わす。
「なんたる不敬!無礼極まる愚か者が!不躾な非礼者め!礼儀と行儀を知れたわけ!」
「お、落ち着けよ…!もう正直言ってお前とは関わりたかねぇんだよっ…!」
「なに…?相分かった殺す、良し殺す、直ぐ殺す!」
…ご乱心の王は、留まることを知らず人間に堕ちてしまったせいか感情的に"科学部"という名札が付いた部屋の前で怒号を吐き散らす…
「なンだ全くうるさいぞ…っや!?佐都くんじゃあないか!」
「うっわ…」
「?なんだ。」
"科学部室長"の名札を白衣の内側に付け現れるは猫背が特徴的な佐都の旧き友人、能戸 雨眠
「やぁやぁ佐都くん!丁度私の愛と神秘が詰まった滋養強壮drinkが完成した所でねぇっ…!」
「あーくそ!めんどくさいのが増えやがった…!」
「…神秘、だと?貴様、それが何か分かっているのか。」
「おや…?そこな人間の幼体くん、私の研究が気になるのかな?」
続く王の疑問、それに全て応えるように薬品の匂い漂う髪を靡かせ興奮気味に雨眠は口を開く。
「神秘とは…そう、謎!」
「…ほう?続けよ、許す。」
「私が思うにエントロピー最低の時代は概念が一点に纏められ神秘という膜で包まれ…」
「あここで言う膜はブレーンワールド仮説の話ではなくてだね?例えば知性という概念があったらそれを内包する為のプレゼントboxが神秘という訳でだね?それで…」
雨眠が熱く口を、舌を走らせる機を伺い佐都は逃走、王は静粛し吹聴。
「…あー、つまり神秘というのは…人間が触れていい物ではなく、もしその神秘を操れたら無限に近い技術が手に入って、でそれを研究しているのが私、という訳さ。」
「ははっ…!良い…お前、名は?墓碑に刻んでやる」
「フフフ…私こそが!テット科学部が誇る能戸雨眠室長さ、君は?」
ぴしゃりと、電流のように背中越しから聞こえる会話に佐都は足を止める
「…?余は王だが?」
…佐都は歩み始める。
「おやそうか…では名前を付けよう!君神秘に興味があるようだから…ぁー…」
「なに?お前が?」
「不満かな?だが許してくれ、君はもうテットの管理下オブジェクトだから所有物扱いで君が死んだら器物破損になるんだよ。」
…それは、法律で決まっている絶対の規則、しかし相手は法を超越する王。
「戯れはよせ、余でなくともその"おぶじぇくと"とやらには意思宿す者もあるな?」
「ああ勿論、普通は呪いとか残留物なんだけどたまに人型とか動物の形を取って…」
「一つ忠告だ、人、あるいはそれに準ずる者の意思を尊重しろ。」
侮蔑にも近い発言に、名も無き王は自身ではなく他者を顧みた。
「ふぅン…その心は?」
「確かに、魂とは物質界に非ず…貴様ら人間共が軽んじ、無いと断定するのも理解しよう。」
「だが、理解とは慈悲に非ず、例えそれが自らに仇なす者であろうと愚弄は看過出来ない。」
迫り来る雷光は、王が人に堕ちる際与えられた3つの財が最後の剣、正負剣の顕現を知らせる。
「貴様は因果や空力では手に負えん…」
「…おお!それが君の神秘かい!?いいねぇいいねぇ…!」
「いざ嘶け、正負剣ラメド。」
王の持つ剣には、概念が宿っている。
それもそのはず、原初の爆発時に散らばった概念が物質に宿ったのだ。
「ラメド…!正義が私を罰すると!?素晴らしいッ!」
「これは裁きでも選定でもない、余が私情によって行う業である」
刀身の片方は正の、治療や回復を表しもう片方は負の、破滅を表す…
「ほう?興味深いねぇ…現実の安定性がその剣にだけ集中している…」
「遺言は唯それだけか?」
正に表裏一体、真に調和と不和が交じる剣が今、王の手に…
「言わない、第一私は君に負けない。」
「恵まれた知性を疎かにするとはな…?」
圧倒的な存在感が空気の層となり、向かい合う2人を渦巻くように廊下は突風に包まれていく
「第二、私は頭が良い、君のような定数程度予測済みさ。」
「っな―――」
神秘は秘匿性によって成り立つ、では露呈した神秘は何か?
「―――目標ロック、制圧弾照射!」
浮遊する冠を撃ち抜くように、ゴム弾が王の後頭部を襲う
「きっ緊急事態により駆け付けました!えと、拘束します!」
「ナイスタイミングだ、相原くん…」
空気の層は解け、それに伴うように王の意識も消失、残るは露呈した神秘の象徴、技術の粋を着た相原という男と笑う雨眠。




