18.
「なっ…!?私の剣を止めた…!?」
違う、止めたのではない。
それは、余りにも無謀な身体の反射である。
「痛いなぁ…ま、おあいこ…かな?」
斬られるその刹那、イナの手は反射的に動き、リーヴィアの光圧体ブレードを肉を裂きながら止めたのだ。
「熱いね、これ。」
しかし表情は変わらない、表面温度約75℃の刀身が手袋毎焼いているというのに。
「貴様…!っ抜けん!?」
「はい余所見ー」
左手の殆どが裂かれ、焼かれているというのに困り眉の笑みを浮かべイナはその拳をリーヴィアへ向ける。
「ぐッ…ごッ…!」
「っほらほらーっ…剣抜かないと…っ倒されちゃうよー」
圧倒的な暴が、軍隊に仕込まれたかのように正確で重く速い拳がリーヴィアの脇腹、顔へと襲い掛かる。
「ッでぇいっ!」
「いたっ…!?」
無理矢理引き抜かれた光圧体の刀身には、焦げた肉の匂いがこびり付いていた。
「ぁああッ!!!」
再び振りかざされる刃、荒い息遣いの両者。
残り僅か数cm、その瞬間
「そこまで。」
低い男の声が湿った空気を伝う、そしてリーヴィアの腕には、覚えのある感触が勢いを殺す。
「あわわわ…!な、なっなにしてるのー!」
灰桜色の、もふもふとした繊維、そして聞き覚えのある緩い声…
「………あっ!こんにちはダンテさん!」
「…タテベ?」
イナと同じコートを上から羽織っただけの服装のダンテ•スカルラッティに抱えられた建部である。
「………っだ…あ゛ぁ゛…!」
「…イナ、消毒液は少しで良い、全て掛けるな。」
「あっ!ごめんねリーヴィアちゃん…」
リーヴィアの憤怒がヴェネツィアの空へ響く、それもそのはず、怪我の処置があまりにも杜撰であったからだ。
「例は詫びよう麗人、私の部下が粗相をした、すまない。」
「…随分と好戦的な奴を雇ったな、ダンテ…!」
「わっちょっま…!まずお話聞こ?ね…?」
建部の制止は数分のうちに何度も繰り返された、それ程リーヴィアとダンテの仲は悪いのだ。
…しかし今回は、建部を抱き締めるイナに殆ど怒りの矛先が向かっていた。
「…で、貴様の私兵が聖遺物喰らいにやられて、私に協力を仰いだ訳か。」
「キキっ…そうだ、だが…イナが勝手に突っ走った。」
どうやら聞くところによると、ダンテの私兵部隊が聖遺物喰らい討伐任務に向かったものの、力不足で殆どの隊員が重傷を負い帰還したのだと。
イタリアでも屈指の実力を誇るリーヴィアに協力を仰ぐ為、まず建部と接触、そこから位置を聞き出す…はずであったのだが。
「全く…あのダンテともあろうものが、人1人御せんとはな。」
「わー…!あなたお名前は?すっごいもふもふだね!」
「りっリーヴィアぁー…たすけて…」
この有様である、一言で言えば重度の人格破綻者であるイナが、指示にない動きをしたのが騒動の実体だった。
「キキッ…!言っておくがリーヴィア、あやつは"人"という括りでは管轄出来んぞ…」
「ああ知っている…!戦ったからな…!それでこの状態だ!」
互角に近い戦い、しかし底知れない強者が為、どうなっていたかは未知数…
思えば強者同士の争いは、調停者によって決着の瞬間に止められる、そうリーヴィアは包帯を巻かれている最中空を見つめ想う。
「…イナは、ドイツから取り寄せた"Gespenst des Großen Krieges"部隊…GGKの隊員でな、私であっても少々意思の疎通が難しい。」
「GGK?あの大戦の亡霊を?貴様正気か…?」
大戦、偉大なる争い、第一次世界大戦とも呼ばれる塹壕と感染症の時代、ドイツではとある部隊が作られた。
如何なる物にも怯まず、あらゆる環境において、四肢がもげようとも動くガスマスク小隊、その残骸を"Gespenst des Großen Krieges"大戦の亡霊、と呼ぶのだ。
「形骸化を拒み、百年も前の塹壕に取り憑かれた人間達のうち1人だ、あやつは。」
"GGK"と略された小隊、闇渦巻く実態の中から這い出た存在、それがイナ•フォン•ホルマンである




