16.
―――午前13時、昼過ぎのとある路地にて…
「…くだらん。」
王は迷子になっていた。
―――そして同時刻、リアルト橋付近…
「ああリーヴィアや、ちょいと手伝ってくれないかな?」
「リーヴィア!今日こそはお前に飲み比べで…」
「リーヴィアお嬢や、お前に似合う装飾が…」
「………ふん。」
リーヴィアは故郷の知り合いに囲まれ、未動きが取れなくなっていた。
―――更に同時刻、サン・ザッカリーア地下聖堂、テットイタリア支部…
「うん、手配しておくねー…うん、あ、ちょっとまってねー…後で折り返すよー…」
二人が去った作戦室の中にて、建部は寝る暇もなく多忙を極め世界中からの電話を捌いていた。
「pronto, sono tatebe chi parla?…pronto?」
電話の相手は黙っていた、幾ら名を名乗ろうと用件を聞こうと、沈黙が流れ建部が受話器を置こうとしたその時。
『ciao…』
低い、男の声が響いた。
『キキ…私こそがOnorevole Dante Scarlatti…始めまして建部…』
ダンテ・スカルラッティ、そう名乗る男の声に建部は冷や汗を伝わせる。
「だ、大統領…なんでわたしに―――」
『―――キキッ!そうだ…私こそが大統領であり上院議長であり下院議長であり官僚評議会の議長…!』
イタリアは、共和国制度である、しかし実態はというと3つの派閥に分けられ、熾烈な政治を繰り広げていた。
一つは北の風、キアラを崇拝する狂信に近い集団、ムゼオ・ヴィヴィーオ派…
2つはリーヴィアが単独にて放浪し、力のある者のみを集めたアルマ・ルパ派…
『私の事は知っているだろう…テットのプラクティカスが乙女。』
「…た、たった2度の演説のみでイタリアのトップまで上り詰めた―――」
そして現在の政府を担い、莫大な資本と人を惹きつける思想にて"イタリアを再建した"とまで謳われるダンテ派。
『―――そうだ!今宵は共に話そうではないか、後に私の使者が向かう、待っていろ。』
外交や輸出輸入、表向きの実務を全て受け持つ男が、テット職員である建部に一報を寄越し、嵐のように去っていった。
「な、なんなのー…」
聞くだけで姿勢が正される声、命令に近い会話方式、相手の言葉を耳に入れない傾聴…
「…はっ!り、リーヴィアぁー…」
一瞬で作られた緊張が刹那にて瓦解し、建部はリーヴィアへ連絡を飛ばす。
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「ああリーヴィア…君の瞳はまるで太陽のように…」
「…待て、電話だ。」
口説きを押し退け、リーヴィアは携帯電話を耳に当てる。
「私だ。」
『りっリーヴィアぁ…お、王様は…!?今すぐ呼ん…っひゃう!?』
「…タテベ?」
電話越しの血気迫る声は遠く、物音が響いた後建部の代わりに静寂が無言の応答を繰り返していた
そして…
「おいそこの、貴様だ貴様。」
「んぇ?あたしっすか?」
「ああそうだ、聞く耳があるのなら聞け。」
王は、下が和服で上が柄付きシャツの帯刀した不審者に話し掛けていた。
「貴様ここらで黒眼鏡を掛けた女を見たか?余は其奴を―――」
「ちょちょっ…まっ待ってよ!キャラ濃すぎるんですけど?!」
しかし、その不審者もまた尊大な態度を取る幼童という不審者に話し掛けられていた。
「…申せ。」
「まず名前!ね!あのー…あたしはみょうち…じゃなくて、ひまりって名前!あんたは?!」
「…王だ、名なぞ無い。」
数秒の沈黙の後、ひまりと名乗る者は呟く。
「あー、話通じないタイプね、はいはい。」




