14.
「…これだけ学習し14の言語、やはりあの時に袂を別けるべきではなかったか…」
幾つ日が落ち闇夜が昇ったかは図書館の閉鎖空間にて認知は不可、しかし理解し得るのはそれが何百も行なわれた事だ。
「塔の話かい?よく覚えてたねぇ」
「密集した知は誤りと迫害を生む、だからこそ居住地を分けたが…全く。」
何千年前か、未だ地球の観察を従者と共に行っていた頃である
"主"誕生前の万年にも遡る時刻にて、王は知性の保持を人類に許していた。
「原罪の果実を食したのはまだ良い、だが肝心なのはその後である。」
「善悪と羞恥の獲得、別に許しても良かったんじゃない?そもそも服は防寒対策を―――」
「―――慎め、それが如何なる事象であれ余が許していない。」
天衣無縫の言葉を紡ぎ、その姿実に剛毅果断。
しかし人の身に堕ち、似姿は幼童精神性は未熟そのものであった。
「余は行く、手配せよ。」
暴君か、はたまた覇王か…
正当性を超越した圧倒的な力は、時に民を子羊ではなくただ自分という強大なる光が作る影の一部として従わせる。
「…美に会ったら、少しは穏やかになってほしいよ」
「…はっ、余は王ぞ。」
無限の図書館、空間を超越せし超立方体が閉じる
『微睡は溶け、毛布は引き剥がされる。』
誰の言葉か、何の言葉か、何処の言葉かすら分からず王は黙して腕を組む。
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「…?」
「コピー、ランディングゾーン確認、対地速度、降下率共に安定、ギアダウン。」
建部の声が機内に響く、余りにも無機質で、しかし聞き取りに関しては余すことなく伝わる声色で
「こちらテット、ブードゥー1着陸する。」
「…おい」
雲が流れ、翼のフラップが低い唸りが機体を包む
長い空の旅が車輪の地上を探す音で静かに地上へと戻っていく。
「ローカライザー補足、グライドスロープりょうこ…あれ、起きてたの王様…もう着くよ〜…」
「…麗人は。」
「ciao re in miniatura. ジェットラグは大丈夫か?」
座席の後ろから、柄だけの剣を背中に構えたリーヴィアが自信満々に口を開く。
「良い、では余にも其を寄越せ。」
指差す先には黒眼鏡。
遮光のレンズに高級感漂う金と黒の装飾が付けられた物。
「断る、これは私の所有部だ、私が死んだらお前にやってやるさ。」
「もー…はい、わたしの貸してあげるから…」
掛けられた黒眼鏡は、少し不相応だったが遮光には最適であった。
タラップを降りると、まず飛び込むのは強い本物の日差し、そして…
「Alla fine, l’estate del mio paese è la migliore.全く日本の夏は何故あれまでに湿っている…」
アスファルトの熱気、人工的ではない気圧と新天地であった。
時は昼間、快晴の水都ヴェネツィア現着である。
「ええとー…でもリーヴィア、今の湿度はななじ―――」
「―――そんな事はどうでも良い!早く聖遺物喰らいを殺しに行くぞ!」
「…落ち着きのない女よ。」
事実、白い建物が立ち並び逃げ場のない湿気は都市中に拡散している、が何処か異様に乾いた熱気を3人は感じていた。
「もー…取り敢えず最寄りのテット施設いくよー…」
「相分かった、sbrigati! 行くぞ王とやら!」
陽射しが肌に痛いほど突き刺さる感覚、しかしそれよりも王は異質、異物、異様、怪異…その気配を掴んでいた。
「…居るな。」
目線は遠く、精神は揺るがない。
水の都、人栄えし芸術と力の都市その奥深く、神性に仇なす存在は水面下にて潜伏している…
「今行く、風を持ち涼を運べ、命令ぞ。」
王はそう睨んでいた、しかし同時に背後の二人もまた、何者かの存在感を感知している。
「エアコン…きーてるといいな…」




