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思い付き  作者: Blue_lobster
13/13

13.

『やぁ王様、息災だったかな?』


「…お前は」


『このままで良いよ、何より君には目も四肢も無いんだから。』


その者は旧知であり、聡明かつ思慮の深い声色は即座に五感を包み、空間を変容させる。


『…ふぅ、ようこそ、バベルの図書館へ。」


「無限を内包し得た書物庫…なるほど…!」


中央に聳える通気孔、上下に際限のない六角形の閲覧室、4つの壁、5段の本棚、各段には32冊ずつの本…


「コクマー…!」


知恵の名を冠し、そう訳されし人格、コクマーが無限図書館に王は眠りの狭間で誘われる。


「久しいね、財物の回収はどう?進んでる?」


「久しいだと?笑わせる、138億年ぶりだぞ。」


「あ、そう?私は40年も前にはここに居たけど」


閃光に近しい直感、その者は司祭の座へ向かう。


「…何故お前がここに」


「いや、ちょっとね、君今困ってるでしょ。」


「…なに?」


黒色の司祭服を身に纏ったその者は、身体を得ていない王に書物を差し出す


「言語さ。」


「………。」


「君も知ってるだろ?ここには無限のパターンと記号の羅列が存在する、これは…教科書みたいな物かな」


題名は"fzkg?ij!"

1ページ目には、英語で全ての言語理解を習得し得るレベルの学習科目が記されていた。


「ここに大体の言語、その教科書が載ってある、君はこれから世界中を旅するだろうから、お供にどうだい?」


「…時間は。」


「大丈夫、ここではアスト…いや、君の領域と同じ時間連続性だよ」


濁った言葉、あくまで彼の者は知恵に過ぎず、それを翻訳するのは本来"理解"の役目である…が


「私はここでずぅっと本を探しているから、好きに使ってくれよ?」


彼なりに、人の身に堕ちた王という体系化された知性に伝達されるよう意訳していた訳である


「何百年、何千年…幾ら掛かってもいいよ、そもそも君は無限とか有限とか、そんなの関係無い時から居たし我慢強さはあるだろ?」


「全く、くどい、お前はその冗長な口調を直す本でも探していろ。」


「はいはい、王様…」


突如として無限図書館へ学びを得る機会を取得した王、しかしその胆力は一切の動揺もな


「おい、マルクト。」


………『はい、何か御用でしょうか。


「不快だ、空調を管理し代わりに紙面を捲り余の肩を揉み外界の様子を伝え即座に…」


要望を伝られ、従者は忙しなく動く

叡智たる者は一瞬硬直する

遅れて、ようやく状況を呑み込み、少し笑う。


「仲が良いね、昔っから。」


「そう言っていただけると光栄でございます、私めと致しましては、我が王の側に存在を許されているその一点のみが至福、至高でございますが故。」


「おい、次だ、早く捲れ。」


「失礼を詫びます我が王、身体の形成は此方で受け持つ所存故、御安心を。」


紙面を捲る、それはただの所作だ。


それは当たり前の定義だが

目の前のそれは異なる。


紙面が捲られる。


「ああ、なるほど…そういう訳なのですね」


これは所作などではない、知の救出と補完だ。


「英語はもう良い、次にラテン、ギリシャ、イタリアを寄越せ。」


それはまるで並ぶ豪勢な食事、その皿を取り分け丁寧に噛み砕く一流の美食家


「はい、我が王…」


_______________


どれ程の時間が経っただろうか、外界では未だ航空機の中である。


「…あぁそうだ、私はいつでも君の夢に出れるけど…もう一つの至高の角は向こうじゃないと会えないよ。」


「…なに?」


名をビナー、至高の知を理解せしめる翻訳者…その所在地は正に物質界、それも王と同様に人の身へ堕ちていた。


「イギリスの、劣化した私の無限図書館に引きこもってるよ、まぁいずれ会えるさ…」


「良い、それぐらいは余で探すわ。」


王、知恵、理解、この関係は正に至高、その完全性と完璧は最も美しい図形である三角にて訳されるが…


「差し支えながら、何とも遺憾とだけ…」


「ああ、今や均衡は崩れ、慈悲も峻厳も、果てには倫理すら廃れ力に溺れし魔術のみが跋扈している。」


勝利、栄光、基礎…人類が欠損した知で形成した文明はどれも荒み、しかし突出して成長を遂げた


「まずは美…ティファレトの回収だ、何をするにもまず均衡、それが定理である。」


「嗚呼、なんて素晴らしきお言葉、我が王よ…」


割れた境界、止まらない争い、広がる格差…

王の嘆きと行動の宣言に感嘆する従者を、慧智たる者は見つめる


「…仲が良いというより、崇拝に近いね。」


「僭越ながら、私と致しましてはただ事実を述べているに過ぎない所存でございます。」


忠誠からまろび出た言葉、しかし王の言葉は妄信者にしか通じないそれではなく、事実である。


「何を成すにもまず均衡…そもそも当宇宙や空間が成立したのは、熱的生の爆発からでございます。」


「今や空間の向きが3個にも増殖した、全く余の財物庫の管理はどうなっている…」


「…ひ、非常に慚愧堪えず、忸怩たる想いでごさいます我が王…」


噛む下唇すら従者には存在しない、今にも謝意のみで身を、心を滅ぼしそうになっていても紙面を捲る動作は止まらない。












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