11.
「…中で暴れちゃだめだよー…」
補給を済ませ、小振りな航空機へ搭乗する3人。
「空の旅だ、行くぞ"王様"」
「ああとも、"麗人"」
エスコートは順調、その引かれる手は気品を溢れさせていた。
「…あてんしょんぷりーず、立ったりしないでね〜…」
チャイムの後、直ぐ側に居るというのに流れる機内アナウンスは窓の外、その景色を見送る。
「テットイタリア支部、チャーター便しゅつびん〜…12時間掛かるよぉ…」
対地速度良し、天気良好、バードストライク確率0.2%…
12時間のフライトは、エンジン稼働音と共に始動した。
「…さて、機内食でもどうだ?」
「…余は食事など取ら…おい勝手に装うな。」
通路を隔て、座席に座った王の文句を無視し切り分けられたパンとワインが注がれる。
「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ…私の国でも、世界でも有名なヴィーノだ、一口ぐらい飲め」
「あむ…おいし〜よ…おなか減ってないの…?」
操縦室から顔を覗かせる建部は既にパンを口に咥えつつノールックで操縦していた。
「ガーネットの宝石に例えられた色、チェリーとブラックベリー、ドライハーブの香りは最高だぞ?」
「低俗だな、だが…他の物よりはマシだ。」
グラスを傾け、少し口に含む…人に堕ち、初めての飲食である。
「salute.」
「さる〜て〜…」
見つめ合い、杯を交わす3人。
杯を乾かす、それが乾杯の語源である。
「ふむ…酸味はしっかりと立っているな、果実とスパイスの味は良質に近い。」
「ビステッカやチーズも用意したかったが…トバが予算を下ろさなかった、全く…」
その赤き液体は、重厚だが重たい訳ではなく骨格がきちんとあり背筋の伸びる、甘くも濃くもない静かな力を感じさせる。
「どうだ王様?ここはゆっくりと時間を掛けようではないか…」
「さんせ〜…まぁ、わたしは飲めないけど…」
「良い、これだけの葡萄酒を前に愉楽を尽くさんのは礼儀を欠いているだろう。」
日本海上空、高度約8000mの空飛ぶ人類の作り出した鳥の中で、王の一行は酌を楽しむ。
「…頃合いだ、今回の任務、その目標と詳細を話すとしよう。」
「ほーこくしょ配るよ〜…」
数十分間、杯を交わした所で鳥羽の報告書ではない複数枚の紙、そして解像度の粗い写真が配られる。
「今回発生した敵対存在はその特性から聖遺物喰らいと名付けられた…」
「ほんとーならもうテットのイタリア支部がやっつけてるんだけど〜…」
「…奴はナポリにて発生、守護聖人である聖ヤヌアリウスの凝固血液を喰らった。」
火山の影と海の光の狭間で、歴史と混沌、そして情熱が渦巻く都市ナポリ…大聖堂のある都市に聖遺物を喰らう者が出現した、つまり…
「取り込み、その奇跡を己が物とした。」
「そうだ、忌々しい…!私を呼んでいればその場で殺していたというのに…」
凝固血液、それは黒ずんだ液体、しかし数年に一度液化する伝承が残された奇跡…ミラコロを起こす遺物である。
「全く…上層部の奴らはティファレトの事で頭がいっぱいの鈍い木偶の坊だ…!」
「他にもたくさん食べられちゃっててね〜…?もう水都とローマしか残ってないんだよ〜…」
それ程までの遺物を喰らい、どれだけの進化をしたのかは写真を見れば明白…
「異形、だな。」
紅のローブ、その奥は宵闇。
写真越しだが異様で異質な雰囲気を漂わせるそれは、正に怪物…
「でだ、今回はこいつ…聖遺物喰らいを駆除、そして聖遺物の取り返しを目標に動く。」
「良い、実に賢明だ…いやしかし余の気に止まった箇所がある」
報告書を翻し、王元来の目的である"ティファレト"その名をリーヴィアは先に発言したのだ。
「今回の任務において、ティファレトとは会えるか?」
この質疑が投げられるのは自然である、しかし…
「…うん、会えるよ…でも―――」
「―――断る。」
その答えは、好意的な物ではなかった。
「私情、そうだな?」
「ああ、私情でだ、もし合うとしたら私の居ない所にしろ。」
この時だけは、建部も顔を覗かせるのを辞めわざとらしく操縦桿を握っていた
「…まぁ、良い、お前が如何なる理由であれ断り、譲歩したのならそれを尊重するが人の上に立つ王である。」
「ふん、では私は民か?それとも取るに足らない道化か?」
「いいや、お前はお前だ、お前自身の強さ、お前だけの美しさ、お前の生き様はお前にしか存在しない。」
目を見開くリーヴィア、その瞳にはしっかりと、濃淡な蒼が宿っていた。
「…もういい、私は…!寝る…」
苛立ちか、羞恥か、驚愕か、はたまた別の何かか…リーヴィアはその瞳を隠し、刀身が収納された光圧体ブレードの柄を抱く…
「全く、不相応に堂々としおって…愛らしい愚かものだ、お前は。」




