三十三話目 魔法少女はたどり着きたい
◇ ◇ ◇
「……大丈夫でしょうか」
切れてしまった通話の向こう、一歳年下の友達の事に思いを馳せます。
わたくしよりもしっかりものだと思う反面、直情さから不安定な一面を持ち合わせている彼女。暴走したら止めてくれる人が少ないという意味でも、少しだけ心配ですわ。
「お嬢様、用件は伝えられたのですよね?」
「ええ」
山のように積もった書類を前にしながらも、千恵が淹れてくれた息抜きのためのお茶のおかげで心安らかですわ。
……ごめんなさい、嘘を申しました。とてつもなく疲れましたわ。これこそ児童労働というものではなくて?
後継者教育の一環? 左様ですか。
やりがいはありますけども。少なくとも学校の勉強よりかは楽しいですわ。
「実際のところ、お嬢様的にはどれ程だと思っていらっしゃるのですか?」
「これはお父様と考えを共有しているのですが、正直そんなには彩花さんを疑ってはいません」
わたくし一人の考えならば疑心暗鬼にもなりますが、お父様も同じ考えなら自信が持てますわ。
彩花さんは、十中八九敵側ではないと。
芹香さんへお願いではなく、相談だったのもこのためです。
「では、なぜ先ほどのような電話をなさたのですか?」
「理由は二つあります。一つは、敵である可能性を否定しきれないからですわ」
可能性は低いといっても、否定はできないのです。
ならば、ケアはするべきというもの。
「もう一つは、本当の敵に動いてもらうためですわ」
どれほどこちらの状況を掴んでいるかは存じませんが、政府筋からも睨まれながら、敵は未だ無事に逃げおおせています。どこからか情報は漏れていると考えてよいでしょう。
ならば、それを利用させていただきましょう。間違った情報を流し、状況を誤認させることが、有効打になりえるのですわ。
敵からすれば、こちらが勘違いしていると思えば、動きやすくなるでしょうからね。慎重になり機を逃してくれるならば結構、逃してくれないのであれば、痕跡を掴みますわ。
ふふん。しっかりと学んでおりますのよ。わたくしは成長できる子ですので!
「明日からまた学校ですもの。このタイミングで芹香さんが動いてくだされば、熱心な方々は働き時というわけですの」
「左様ですか。ですが、それを芹香さんにお教えしなくても良かったんですか?」
「本気で彩花さんを疑ってくだされば、それはそれでよいのです――だって、彩花さんが非正規魔法少女の可能性が高いのは本当ですもの」
美羽さんの近くにずっとい続けているお方、星乃彩花。
彼女が元魔法少女であるという裏付けは取れております。本人が隠す気がなさそうなのもありますが。
「正直に言ってしまえば、敵であれ味方であれ、わたくしは彼女が一番恐ろしいですわ」
これは本当に、心の底から思います。
魔法少女たちと繋がって、魔法少女の事を知って、魔法少女の歴史に詳しくなればなるほどに、彼女の異質さが際立つというもの。
「お嬢様たちがそこまで恐れるだなんて。そんなにも恐ろしい方なのですか、彼女は」
「……魔法少女、ステラフィクス。かつて、ルミコーリアの代わりに表舞台で一線級の活躍を示していた方です」
もしも、彩花さんが魔法少女だったとするならば。候補は他にはありえません。
ルミコーリアと同年代で、ここら周辺で活動していた魔法少女。かつ、ルミコーリアと親しい可能性があるとすれば、彼女しかいませんもの。
となれば、警戒はしなければなりません。下手したら、クリムセリアを混ぜたわたくしたち三人でかかっても勝てない可能性があるぐらいの魔法少女なのですから。
「今のクリムセリアのように、人気を博していた魔法少女ですわ」
「……ならば、魔法などもご存じなのでは?」
静かに首を振ります。
当時はまだ魔法少女アプリもなく、お互いの魔法を共有する試みもなかったと聞きます。
故に、ステラフィクスの魔法は不明。でありながら、戦績ばかりは語られる。
これを恐れずにどうしようというのでしょう。
「調べてみて明らかになったことですが……知名度の割に、知られていることがなさ過ぎる。明らかに隠されていたルミコーリアよりも、遥かに不気味な存在でしてよ」
「当時はまだ報道規制とかも緩かったんですよね? ならば、資料も豊富に残っているはずですよね」
「はい。もちろん調べましたわ。そのうえで、わからないことがわかったのです」
ルミコーリアの教えを受けた今ならば、当時ステラフィクスが魔法を使わずにどうやって戦っていたのかも予想ができるというものです。
彼女を支えているのは卓越した魔力制御技術に違いありません。
ルミコーリアを知っていますので、さほど驚きはしませんでしたが……あまりに異常が過ぎるというものでしてよ。
だって、もしもこの仮説が正しいのであれば、彼女は魔法少女になってから常に、意図して魔法を隠していたことになるのですから。
魔法を隠すぐらいならば、一体どうして魔法少女になったというのですか? 動機が、わからなさすぎますもの。
魔人と戦うわけでも、人々を守るために全力を尽くすわけでもない。
ならば、どうして。不気味というほかありませんわ。
「ですので、芹香さんには是非彼女についてよく見ていただきたいのですわ。クリムセリアの才能だけが、辛うじて対抗できる可能性があるのですから」
多少強くなったことで理解したことですが、クリムセリアは才能だけならとびぬけたものがあります。
わたくしや、千恵とは比べ物にならない程、彼女は魔法少女に向いていますわ。可能性があるとすれば、その伸びしろだけでしょうね。
「ルミコーリアを頼らないのですか?」
わたくしは静かに首を横に振って拒絶します。
千恵の発想は、もっともですわね。どんな魔法少女が相手でも、きっとルミコーリアにはかなわない。
ですが、それではいけないのです。それではダメなのですわ。
「千恵は、わたくしと戦えと言われて戦えますの?」
「っ!? それは、失礼いたしました」
「美羽さんにとって、彩花さんは数少ない気心の知れた相手ですもの。あの人はとても優しいお人ですから、例えどのような形になったとしても、心苦しい結果となってしまいますわ」
例え可能性の話であったとしても、美羽さんには聞かせたくありません。
どれだけ傷つくことになるか。
本来なら、疑うことすらしたくないのですけども。
……人を気遣うというのは、難しいですわね。どこまでが心配で、どこからが失礼なのかは、まだわかっておりませんもの。
「何よりも、わたくしたちが導くと決めた魔法少女たちの未来を、美羽さんの力で実現するのは違うのではなくて?」
「……おっしゃる通りですね。失礼いたしました」
「いいえ。それよりも、使われている魔法の推定は終わりまして?」
「はい。机の上の資料の、三列目のものをご覧ください」
指定されたものをパッと手に取って、目を通します。
おおよそ使われたものは、隠ぺい系の魔法ですわね。人払い、認識誤認、細かいところまでは特定できてないようですが、そのような魔法が使われているようです。
加えて、複数の魔法少女が関与してる疑いもあり、と。
「……やっぱり、非正規魔法少女は関わってそうですわね」
「やはりですか」
「ええ。少なくとも、活動が確認できてるうちで、妨害行為に参加できる余地があり、これらの魔法を持っている魔法少女はいませんもの」
魔法少女アプリ様様ですわね。魔法が確認できるおかげで、こういった調査もスムーズに進められます。
「うぅ~。わけがわかりませんわ~。どうして魔法少女のためになることをしているのに邪魔されなければなりませんの~」
思わず愚痴として漏れてしまうほどに、この言葉はわたくしの本心です。
いえ、理解はできますわ。きっと、魔法少女の待遇が良くなることで損をする人がいるのでしょう。
一体誰が? と言われましてもわかりませんけど。
「お嬢様……」
「いえ、諦める気は毛頭ありませんわ。全戦全敗と呼ばれても魔法少女の座に食らいついた諦めの悪さ、舐めないでほしいですわね」
反骨心もありましたが、今ならば自信をもって言えます。
わたくしは魔法少女なのです。人々を守り、戦い、導く魔法少女なのですわ!
「とにかく、まずは敵の尻尾を掴まなければ!」
意気込みを新たに、資料の山との格闘を再開します。
……途中、疲れ果てた心をセレネシアに癒していただいたりしながら、それでも、本日の進捗は殆どない結果に終わってしまいましたわ。
うぅ……頼みましたわよ芹香さん。どうか、解決のきっかけを見出してくださいませ!




