三十一話目 魔法少女は託したい
◇ ◇ ◇
遊びに行くといって、ショッピングモールに来た私達三人は、各ショップをのんびり回って遊んでました。
美羽さん、もうちょっと服とかおしゃれに興味を持ちませんか……? 私よりも流行に疎かったんですけれども。もうちょっと、その、大学生ってそういうものじゃないんですか?
なんてやり取りをしつつ、楽しい時間を過ごしてた。
今はお昼にフードコートで三人のんびりご飯を食べ終わった後。
少し水を入れ直しに席を立っただけなのに、戻ってきたら席に残ってたのは彩花さんだけだった。
「あれ、美羽さんはどこですか?」
「ん? ちょっとお花摘みにね、行かせた」
行かせたって、本当にこの人は……。
美羽さんちょっと単純なところあるし、今のうちにとか言われたんでしょうけど。
……どうせ行くのなら、絶対この水飲んでからの方が良いと思う、うん。
「それで、何の話ですか?」
「おっ、話が早いね」
「そりゃあ、チャットで散々やり取りしましたので」
彩花さんについては、おおよその人柄は把握できてる。
人を煽ったり、からかったりしていますけれど、この人を表す言葉としては不十分だと思う。
この人を言い表すのなら――観察力のお化け、かな?
一言二言交わすだけで、こっちが何を思っているのか丸裸にされた気分にさせられちゃう。
腹の底が見えなくて怖い。それが、正直な今の私のこの人に対する感情。
普段おちゃらけてるのも、わざとな気がして、どこまで本音なのかもわからないし。
「美羽さんを追い払って、二人きりで話がしたかったんですよね?」
「追い払うとは人聞きが悪い。これからの話は聞かない方がいいだろうなって、親切心だよ」
本当にああいえばこういう人だなぁ。
美羽さんはどうしてこの人と友達になろうなんて考えたんだろう。
馴れ初めを聞いても、はぐらかされるばかりなんですよねぇ……。
「あっちもそんな長々と時間はかからないだろうしね、簡潔に伝えるよ」
「……?」
些細な違和感。彩花さんは、こんな前置きをする人だったっけ?
疑問に思って目を見ると、思わずびくりと体を振るわせてしまう。
だって、普段あんなにもニヤニヤしているこの人が、目に何の感情も浮かべてないんだから。
「しばらくの間、積極的に美羽の側にいて支えてあげて欲しい。ここ数日、明らかに不安定になってる」
「――っ!」
思わず上げそうになった声を、必死に堪えた。
美羽さんが不安定? それは、どういう意味で?
私には、何も変わらないようにしか見えなかったんですけれども。
いえ、それよりも、それをどうして私に?
「どうして、ご自身で対応なさらないんですか」
「私はちょっとしばらく忙しくなりそうでね。申し訳ないけど、こっちまであんまり手を回せそうになくてさ」
「……どうして、私に?」
他に頼める先があるのでは?
確かに弟子だけど、それこそ他の友達だとか、家族だとか……。
彩花さんの目は、そんな私の考えも見透かしているみたい。
「いないよ」
「え?」
「今のあの子に、頼れる人間はいない。はっきり言ってしまうと、私にすら壁を作ってる」
これもまた、驚く。
流石に意味が分からない程、私も馬鹿じゃない。
美羽さんが? ご両親と、仲が悪いとか?
確かに、家には他の誰かの痕跡はありませんでしたけれど。
「んで、あの子の事情を知っている人となると、まあ候補は少ないんだ」
事情。ルミコーリアのことかな。
確かに魔法少女の事を知らなければ、付き合いはとても大変になっちゃう。
私も最近それで友達付き合い悪くなって、少しギクシャクさせちゃってるし……。
「……ひょっとして、私を呼びだしたのって、そっちが本題ですか?」
「それもある。ただ、美羽がどのぐらい君に気を許してるのかを改めて確認したかった」
やっぱり。となると、やっぱり私が美羽さんの家の近くに来てたことも知って連絡してたんだ。
どうやって知ったんだろう? 監視カメラ……いえいえ、町中ですし、犯罪だよね。
「で、どうだったんですか」
「はっきり聞くね。怖くないんだ」
「怖いですよ。でも、美羽さんのため、なんですよね?」
はっきり言ってしまうと、私はこの人が嫌い。怖いし、からかってくるし。
同時に、凄い人だとも認めてる。気に入らないけど。
ほんっとうに悔しいけど、私よりもよっぽど頭がいい。気づけないことにも気づくし、見えてなかったことも見てる。もちろん年の差ってのはあるんだろうけれど、そのうえで勝てる気がしない。
魔法少女ルミコーリアと対峙した時と似たような、敗北感すら感じない劣等感。
もはや、諦められちゃうぐらいの差が、私とこの人の間にはあるから。
「教えてください、どうすればいいですか?」
「おや、なんで、とかは聞かないんだ」
「聞く意味あります? 教えてくれないってことは、そういうことなんでしょう」
わかってるね、みたいに笑わないで!
本当にどうして美羽さんみたいな優しい人が、こんな人と友達なんだろう。美羽さんやっぱり騙されてません?
それでも違和感がないのが、美羽さんらしいけれど。
「……私が君に求めるのは二つ。一つ、なるべく美羽を一人にしないこと。二つ、ルミコーリアを出撃させないこと」
数度瞬きをして、何とか言われたことを咀嚼する。
一つ目は分かるよ。さっきも言われたから。
でも、二つ目は一体? 美羽さんに戦わせるなってこと? それとも、ルミコーリアに変身すらさせるなってこと?
「納得できてないって顔だね」
「でも、私が呼び出された意味は分かりましたよ。プリズシスタでなくて、私な理由が」
いや、そもそもあの子の連絡先を知らなさそうだとか、そういう意味ではなくて。
この人は必要なら絶対に調べてる。そんな信頼はあるので。
一体何を企んでいるんだろうか。
「んで、引き受けてくれる?」
「……美羽さんのためになることなんですよね?」
「もちろん、保証する」
引き受けるかどうかで言えば、引き受けるしかない。
だって、美羽さんのためになるんだから。やらないって選択肢は、最初からないのと同じ。
その前に確認するべきことがある。
「確認させてください。その間、彩花さんは何をしてるんですか?」
前提として、私に任せたのは、たぶん自分でできないからって理由だけ。
彩花さんは、彩花さんよりも私の方が相応しいと思って選んだわけじゃない。
なら、彩花さんにとって美羽さんよりも優先することがあるってことだから、それは知っておきたい。
「賢いねぇ、芹香ちゃんは」
「誤魔化さないでください。教えてくれないと、返事はできません」
「しょうがないなぁ。美羽には秘密だよ?」
最初っから話せない内容の話してて何を!
ちょっとイラっとしましたが、流します。
「ところで、最近の魔法少女界隈の動きはどう思う?」
「質問に質問で返さないでほしいんですけど」
「まあまあ怒んないでって。関係ある話なんだから」
はぁ、本当にこの人は。
どう思うって言われても、ぶっちゃけ私はわかんないですよ。
私にできるのはヒロインであり続けることで、そういうのはプリズシスタの方が詳しそうですから。
そう伝えると、ニンマリと凄いご機嫌な笑顔になったので、思わずドン引きです。
「気持ち悪っ」
「ははは、私に言わせれば、今は時期が良いんだよ。これ以上を考えられないぐらいに」
「?」
何を言ってるのかわからない。
時期が良い? まるで、ずっと何かを待ってたみたいな言葉ですね。
「魔法少女の数も増えた、認知度も増えた、支援の手も増えた」
「それが、どうしたんですか?」
「芹香ちゃんは知らないだろうけどね、昔の魔法少女の環境ってのはもっと酷いものだったんだ」
昔の話は、確かに、深く調べたことないかも。
ルミコーリアについて調べた時に、少し目にしたぐらい?
「まあ、深く詮索しないでさ、少しの間は任せたよ。もうちょっとで、それこそ時代が変わるんだから」
「?」
……なんかいいようにはぐらかされた気がする。
もっと細かく話してもらおうとしたところで、彩花さんがそっぽを向いた。
なに、私にこれ以上話すことはないってことですか?
「おかえりー、美羽」
「あれー? 二人仲良しだね。私がいない間、何話してたの?」
気が付かなかった。美羽さんが戻ってきてただなんて。
ちょっと距離はあったから、話してた内容は聞かれてなさそうだけれど。
危ないところだった、のかな?
「んー? 美羽の恥ずかしい話」
「ちょっと!?」
嘘だよねって顔で慌ててこっちを見てくる美羽さん、可愛い。
彩花さんと視線が合う。ウインクされる。話を合わせろってことですか。
「……美羽さんはすごいかわいいと思いますよ!」
「年下にすごい気をつかわれた気がする!?」
なんか、最初から予定通りみたいで癪ですけど。
今は話にのっておきましょう。
直感ですが、その方が良いと思うので。
駄目だったならば……その時は、燃やさせてもらいますね。彩花さん。




