十六話目 魔法少女は輝きたい
「あら、遅かったですわね」
「ごめんごめん。……あれ、そちらの方は?」
練習場までやってくると、そこに待っていたのは環ちゃん、ともう一人の魔法少女。
環ちゃんは変身してないけれど、変身済みで待機してるその子は……?
メイド服みたいな感じの服装してるけれど。
「ああ、紹介しますわ。こちらはトリムシスタ」
「初めまして、ルミコーリア様にクリムセリア様。私、プリズシスタにお仕えしておりますトリムシスタと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。二人はデュオってことでいいのかな?」
「おおよそその認識で間違っておりません」
なるほど。全戦全敗なんて言われてるのに環ちゃんが無事なのは理由があったわけか。
少し見た感じ、トリムシスタもそんなに強くはなさそうだけれど。特訓前のクリムセリアと同じぐらいかな?
まあ、それで魔人に対抗できてたのならいいのかな?
というか、お仕えって……。もしかして環ちゃんってすごいお嬢様だったりする? 口調もそうだけれど。
「プリズシスタよりお話を伺いまして、厚顔ながら、もしよろければ私も鍛えていただけないかと」
「ん、大丈夫だよ。よろしくね、トリムシスタ」
「……また人が増えた」
芹香ちゃんが恨めしそうな眼で二人を見てるけれども。こらこら、姉弟子として優しくしてね?
「それじゃ、さっそく変身して練習始めようか。変身、ルミコーリア!」
「燃え盛れ、紅の誓い!」
私とクリムセリアはさっさと変身を済ませる。
ただ、環ちゃんは何かを誇らしそうにしてまだ変身をしていない。
「環ちゃん?」
「ふふふ、ご覧になってください、わたくしの変身を!」
高らかに宣言し、彼女は一歩前に踏み出す。
「一つ! 輝きを放ち!」
その一歩に合わせて、靴が変わる。黒のひざ下まで覆うハイヒールブーツに。
「二つ! 世界を魅了し!」
次の一歩で、プリズムカラーの光が彼女の体を包み込み、豪華な金色を基調として輝くドレスを形作った。
煌びやかなプリズムが、アクセントとして散りばめられており、より高貴さを際立たせている。
「三つ! 正義を飾る!」
最後に、髪の色が光の反射によって色彩が変わるプリズムカラーに切り替わった。
「魔法少女プリズシスタ、ここに見参ですわー!」
「…………」
「流石ですお嬢様。いつ見ても素晴らしい変身です」
「そうでしょうそうでしょう!」
なんか、ジャンル違くない? なんて言葉は無粋なのだろうか。
口上が長いからそう感じるのかな。私の感性は古いのかもしれない。うーん、クリムセリアは何も感じてなさそうだし。
しいて言えば、変身口上が長くて大変そう。これってどうやって決まるんだっけ? ポムムに今度聞いてみよう。気にしたことなかったや。
「えーと。それじゃあ二人の魔法を見せてもらうことってできるかな?」
「構いませんわ!」
「じゃあ、プリズシスタから」
ふふふと含み笑いをした後、高笑いをするプリズシスタ。
テンション高い子だねぇ。お姉さんちょっと若さについていけてないかも。
「いでよ我が僕たち!」
「おおっ!」
プリズシスタの掛け声と同時に、光の兵隊たちがずらりと彼女の横に並ぶ。召喚? 具現化かな? 分類はよくわからないけれど、光の兵士を出す魔法ってことでよさそうかな。
すごい見た目は派手だし強そうに見えるけれども……見た目だけは。
「……えい」
「ああっ!」
ちょいっと光の兵隊の一体を小突くと、それだけでふわりと消えてしまう。まるで幻覚だったかのように。
ひょっとしなくても、光の兵隊を出す魔法じゃなくて幻覚を見せる魔法だったりする?
「はい、正確には幻覚ではなく幻影、偽りを見せる魔法とでも言いましょうか」
「ちょっと! トリムシスタ!」
「これから教えを乞う相手に正確な情報を渡さないのは如何なものかと思います」
「あはは……」
やっぱりそうなんだ。幻覚、の中でも視覚にだけ左右させられる魔法かぁ。凄い使い勝手悪そう。
そして、魔法が戦い向きじゃない。ということは、実際には肉弾戦することになるんだけれども……肉弾戦って、それこそ魔力量と魔力制御力が物をいうんだよねぇ。私がそうだから詳しいけど。
殴る瞬間に魔力を集中させたり、防御の時も魔力で膜を張ったり。何というか、面倒くさい。
攻撃魔法をポイって投げて倒せるほうが遥かに楽だと思うんだよね。
「トリムシスタの方の魔法は? デュオなら、二人とも先に知っておいた方が良いかなって」
「私ですか」
「うん。大丈夫?」
「大丈夫です。では、的を用意していただけますか? 壊れても良いものでお願いいたします」
待機している政府の係の人に話をして、人型のマネキンを持ってきてもらった。よくこんなの常備してるね。ちょっとびっくり。
「それでは、失礼しまして」
トリムシスタは一礼して、すっと指先で宙に線を引くように、斜めに腕を動かした。
何をしてるんだろう? 指先でずっと、何かを描くようにしている。
「“トリム”」
その一言と共に、マネキンがばさりとバラバラにその場に崩れ落ちた。
何が起きたのか見てみると、どうやら四肢や胴体が切断されたみたい。この距離から? 間違いなく、魔法の影響だ。
「……私の魔法は、空間をトリミングする魔法だと解釈しております」
「トリミング? って、毛をカットする奴? それとも画像加工の奴?」
画像加工の方ですと補足される。クリムセリアはわからないのか首を傾げてた。
トリミングは本来整えるっていう意味で、彼女の場合、意識した部分を整える。切り離すことができるんだと思う。とんでもなく強力な魔法だ。
これなら、プリズシスタが負けた後に無事だったのも納得できる。初見でこれを喰らって耐えられる自信は私にもない。
感心しているところ、視界の端に困ったように笑っているトリムシスタが見えた。
どうしたんだろう?
「実は、そこまで使い勝手が良い魔法でもないのです。第一に、格上には通じませんし、規模が大きくても無理です。例えば、鉄筋ビルを切り取って見せろと言われてもできませんので。なにより、見えてる範囲に限られますし」
「その言い方だと、他にもデメリットがありそうだね」
「はい。先ほど言いました通り、空間を切り取るという仕様の都合上なのですが、相手に動かれると狙いが定まらないのです」
なるほど。狙うのに時間がかかると。
大規模にするのも被害が大きくなるし、相手が強いと通じない。
改めて、クリムセリアの魔法の汎用性の高さがよくわかるね。見た目も良いし、使い勝手もいい。顔役に持ち上げられるのも納得だ。
「ううん。どうしよっか」
「ルミコーリア……」
「ん? どうかした? クリムセリア」
この二人を強くするとして、どうするのがいいのか悩んでると、クリムセリアに袖を引かれた。
何だろう?
「あの、あくまで一つの意見として聞いてもらいたいんですけど……」
「うんうん、なんでもいいよ。言ってみて」
「この二人って、相性終わってませんか?」
幻影を出す魔法に、見えてる範囲を切り取る魔法でしょ? 幻影で足止めしようにも、視界を遮るから……あっ。確かにそうかも。
いや、でも幻影で足止めしてる隙にっていう考え方もできるから、一概にそうとは言えないかも。
ううん、難しいね。
ただ、私の中で一つだけ確定していることがある。
「とりあえず、二人ともにやってもらうことがあります」
「はい!」
「なんでしょうか」
私は二人の側に行って、二人の肩にそれぞれの手を置く。
二人は不思議そうな顔をしているけれど、これはクリムセリアも通った道だからね。
「二人には、全力で魔力制御の練習をしてもらいます」
「はい!」
「では、何をすればよいでしょうか」
あっ、クリムセリアが微妙に後ずさった音が聞こえた。
私が今から何をするのか理解したんだろうね。そのうえで、その反応かぁ。
私は体験したことないからわからないけど、そこまでするほどかね。それほどなんだろうね。
「耐えてください」
「はい?」
「え?」
ぐっと、肩を掴む手に力を籠める。二人が逃げられないように。
「これから二人に私が魔力を流し込んで、魔力制御の感覚を体で覚えてもらいます。なので、耐えて、感覚をじっくり味わってください」
「それがどうして耐えるというお話に……んひぃ!」
「くっ、あ、はっ」
奇声を上げる二人を逃がさないまま、私は静かに魔力を流し続けてた。
こら、クリムセリア。二人分も同時にできるの……? ってドン引きしてる呟き聞こえてるからね。
結局、魔力制御を一通り体に教え込み終わるころには、二人は疲れ果ててその場に倒れてしまった。
倒れなかったクリムセリア、本当に優秀だったんだねぇ。




