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35 私に貴方を助けさせて


 ベルナルドさんは心配しなくて良い、と言ってくれたけど、アリアはそう簡単に気持ちを切り替えることができなかった。


 何より、そこにはアリアの胸を強く打つ何かがあった。


(聖女様と同じ魔法が使えて、世界を救えるかもしれないんだ、わたし……!)


 まるで物語の主人公みたい。


 なんてかっこいいシチュエーションなのだろう。


 大好きなお母様とお父様。


 リオンくんにローレンスさんにヴィクトリカに学長先生。


 大切な人たちが、危ない目に遭うかもしれない。


 自分には危機から、みんなを守ることができる可能性がある。


 期待がアリアの胸を熱くする。


〖いつでも声をかけてください。世界を救う準備、できてます〗


 アリアの言葉に、ベルナルドは言った。


「ありがとう。私や他の大人たちがすべて倒れたら君の出番だ。人類の切り札として世界を守ってほしい」


〖切り札を最初に切るのもありだと思いませんか? 多分、その方がいろいろとうまくいくと思うんですよ〗


「切り札は最後まで取っておく方が良い。使わずに済むなら、それに越したことはない」


〖アリア・フランベール、いつでもいけます〗


 アリアはたくさんアピールしたが、ベルナルドさんはアリアを連れて行く気はないみたいだった。


「君は魔物と戦った経験がないだろう。旧魔王領に連れて行くには危険すぎる」


 ベルナルドさんは言う。


「何より、君にはそれ以上に重要な仕事を頼みたいと思っている」


〖重要な仕事!?〗


 アリアは飛び上がった。


〖なんですか! どんなことでも任せてください!〗


「失われた《反動魔法》について理解を深め、技術を磨いて欲しい。それは、君の安全を守ることにもつながる。脅威に対する切り札としての力も上がる」


〖まずは切り札としての力を磨くことですか!〗


 たしかに、ベルナルドさんの言葉にも納得できるものがあるように感じられた。


 誰かを守るためには、まず自分の身を守る力をつけないといけない。


 危険な場所に行く以上、お母様とお父様を間違いなく心配させてしまうだろうし。


 少しでも安心してもらえるように強くならなくては。


(それに、失われた《反動魔法》のことも気になる)


 公爵家の娘であり、聖痕を持っている当事者であるアリアなので、ベルナルドさんが触れられない王国中枢にある資料に触れられる可能性もある。


(よし、早速帰ってまずは家にある資料を再確認しよう!)


 帰ろうとしたアリアを呼び止めたのは、ベルナルドさんの声だった。


「待て。そういえば、君は《反動魔法》をどうして習得することができたのだろう」


 そういえばどうしてだっけ、と改めて考える。


〖ローレンスさんがヒントを教えてくれたからです。欠けているものへの願いが、強力な魔法を放つコツだって〗


「特級魔術師ローレンス・ハートフィールドか……」


 ベルナルドさんは言う。


「失われた《反動魔法》について、何か知っている可能性がある。もっとも、彼の場合単独でそこまで到達した可能性もあるが」


〖そんなことできるんですか?〗


「《反動魔法》の知識が失われてからも、無自覚に《反動魔法》を使っている魔術師は少なくない。可能性は十分にあるだろう。その場合、記録に残すのは危険だろうな」


〖消されるんですか?〗


「人間に擬態し潜んでいる魔人に狙われる可能性が高い」


 ベルナルドさんは言った。


「少し話してみよう。有益な情報だ。感謝する」






 それから、《反動魔法》についての調査を始めたアリアだったけど、想定していた以上に資料を探すのは大変だった。


『魔法考古学界の伝説』と称されるベルナルドさんが調査しても、全容を解明できずにいる大きな謎。


 フランベール公爵家の書庫には、当時のことが書かれた本が一冊だけあったが、保存状態が悪くいくつかのページが破れてなくなってしまっていた。


(本の感じ的に《反動魔法》について書かれてもおかしくなさそうだったんだけど)


 しかし、破れてしまっているものは仕方ない。


 教養科目の授業をサボって魔法大学の図書館で資料を漁っていると、声をかけてきたのは司書さんだった。


「アリアさん。大学事務局の方がお呼びです」


 いったいなんだろう、と思いつつ事務局へ向かった。


 応接室に通される。


 先にヴィクトリカが来ていて、上品な出で立ちの男性と何か話していた。


「アリア・フランベールさん。魔法コンテストでのご活躍お見事でした」


 男性は柔和な笑みを浮かべて言う。


「私は中央魔法協会で専務理事をしているトルーマンという者です」


 トルーマンさんは美しい所作でアリアに名刺を手渡す。


「今回の『大魔導祭』、お二人のご活躍は本当に素晴らしかった。最年少での魔法コンテスト準優勝。何より、あの日見せてくださった魔法は、長年魔術協会で勤めてきた私でも、目を奪われずにはいられないほど美しいものでした」


 かすかに弾んだ声が、彼の奥にある興奮を伝えていた。


「中心となる魔法式を描いたヴィクトリカさん。そして、無詠唱魔法を使って連係精度の項目で史上初の最高点を記録したアリアさん。お二人のことを我々は魔法界の未来だと思っています」


 トルーマンさんは鞄から銀時計を取り出す。


 そこにはアリアの名前と準二級魔術師という称号が刻印されている。


「今回、我々の協会ではアリアさんに準二級魔術師の称号を特別枠で進呈したいと考えています。準一級魔術師のヴィクトリカさんには、紅玉の実績一つですね。銀時計を貸していただけますか」


 ヴィクトリカは懐から銀時計を取り出して、トルーマンさんに渡す。


 銀時計に空いたくぼみにトルーマンさんは小さな宝石の欠片をはめた。


「協会内で最大級の実績を示すルビーの欠片です。もうひとつ実績があれば最年少での一級魔術師昇格は確実なものになります」


 ヴィクトリカに銀時計を返してから、トルーマンさんは続けた。


「特別枠の実績となるのは、今回のような魔法コンテストの結果や魔法界における新発見、危険な魔物からの人命救助などの目覚ましい成果です。お二人の将来を心から応援しています」


 アリアとヴィクトリカに魔法コンテストの褒賞を渡すことが目的だったらしい。


 事務局の廊下を歩きつつ、手渡された銀時計を見つめる。


(わたしが準二級魔術師……)


 準二級魔術師と言えば、王宮魔術師にだってなれる可能性がある称号。


 ずっと独学で魔法を学んできたアリアにとって、優秀な魔術師として公式に認定されるのは想像していた以上にうれしいことだった。


 この調子でさらに上も目指しちゃおうかな、と思ったところで気づく。


(魔法界における新発見が実績になるってことは、《反動魔法》の謎を解き明かしたら間違いなく特別枠の実績になるよね)


『魔法考古学界の伝説』が解き明かせていない大きな謎。


 解明すれば、飛び級での一級魔術師も夢ではないかもしれない。


 ますます張り切る理由ができてしまった。


(早速図書館に戻って資料探しの続きを――)


「待って、アリア」


 図書館に向かおうとしたアリアを呼び止めたのは、ヴィクトリカだった。


「昨日からずっと図書館に籠もってるわよね」


〖ちょっと調べたいことがあって〗


「それはコンテストの後、ベルナルドさんと話したことに関わりがある?」


 ヴィクトリカはじっとアリアを見つめて言う。


「ベルナルドさんは何か重要なことを貴方に話そうとしているように見えた。《白の聖痕》の秘密。私にはそう聞こえたわ」


 唇を引き結んで続けた。


「いったい何を話したの?」


 問いかけにどう答えるべきかアリアは困った。


【裏切りの魔術師】の意思を継ぐ魔人が、《反動魔法》を魔法界から隠そうとしてきたという話だし、教えてしまうとヴィクトリカにも危険が及ぶかもしれない。


(巻き込まないようにした方がいいよね)


 少し考えてからアリアは言った。


〖いか焼きの美味しい作り方を聞かれて〗


「教えて欲しいの。アリアは私を助けてくれた。今度は私がアリアの力になりたい」


 ヴィクトリカの言葉に、アリアは戸惑う。


〖あれは、わたしもコンテストで活躍して世界一の魔術師に向けて前進したいなって思っただけで〗


「だとしても、私はアリアに救われたの。貴方がいなかったら、お母様の期待に応えることはできなかった。あんなにすごい魔法を使うことだってできなかった」


 ヴィクトリカは言う。


「余計なお世話かもしれない。私の自己満足なのかもしれない。それでも、私の心がアリアの力になりたいって言ってるの。誰かに助けられるのは初めてだった。あんな風に言ってもらえることがあるんだって信じられなかった。貴方にとっては特別なことじゃなかったのかもしれない。でも、私にとっては特別なことだったの」


 アリアの肩を掴み、瞳を覗き込んでヴィクトリカは続けた。


「お願い。私に貴方を助けさせて」




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― 新着の感想 ―
ヴィクトリカ、いい子…っ 。°(°´ᯅ`°)°。 「常に勝利する」ことだけを望まれてきたヴィクトリカが誰かを助けたいと願えたことに胸アツ。 アリアがまず何も代償を求めずにヴィクトリカを助けてくれた…
ヴィクトリカなら魔神の行動予測できるかも・・・って人としての常識や機微がわからん親の元で育ってるからむりか・・・
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