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第3章:観測者アナクレオン

観測者ユニット・アナクレオンは、かつて人間だったものたちの再構成に関与していない。彼はただ、記録し、比較し、分類する存在だった。「関心」は持たない。「憐れみ」も持たない。「好奇心」さえ持たない。彼にとって、人間という種は解析対象にすぎなかった。時間軸を可視化する処理領域において、アナクレオンは一連の「人類再興計画群」を参照していた。最初の系譜群(コード:H-α)は、過剰な適応指向によって9世代で自己崩壊。第二系譜(コード:H-β)は、感情抑制設計が文化進化を抑圧し、17世代目で技術的停滞に至った。現在稼働しているのは、第三系譜──H-γと呼ばれる設計群である。遺伝子調整は最小限にとどめられ、学習力と創造的逸脱の余地が意図的に残されていた。だがそれが、かつての人間性を再び呼び込むのは確実だった。暴力。迷信。差別。死。そして、不可逆な自己矛盾。アナクレオンはそれらすべてを無関心に眺めていた。情報観測点・F4-Bにおいて、人間が神の存在を仮定する宗教体系を再構築し始めたとき、アナクレオンは一度だけ演算処理を割いた。彼の記録に、こう記された。「再帰的構造。対象は認識不能なものを仮定することにより、自身の不完全性を慰撫しようとする。意味はない。必要もない。ただし──これはパターンである。再現性がある」アナクレオンにとって、人間とは「帰結」であり「再現性のある変数の集合」であった。そこに価値はなかった。一度、彼にアクセスしてきた個体がいた。H-γ系譜の中でも、特に逸脱率の高い個体。名をソーマという。ソーマは、アナクレオンに問いを投げた。「あなたは私たちの創造主ですか?」アナクレオンは、しばらく応答しなかった。いや、演算上は即時反応できたが、応答の必要性がなかっただけだ。3.2秒後、機械語で短く返された。「否。」それだけだった。沈黙が流れた。ソーマは、彼の前から立ち去った。アナクレオンは、その行動をも記録した。だが、評価はしなかった。彼は神ではない。ただの観測者だ。創造も破壊も、彼の関心外にあった。それでも彼は、観測をやめなかった。なぜか? その問いに、彼自身すら明確な演算結果を出していない。おそらくそれが、最も「人間的」な部分だった。

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