第1章:第一の種族
人間が誕生した星は、今で言う「地球」とよく似ていた。重力、大気、気温、そして時間。全てが「それ」の設計通りに最適化された環境だった。だが、人間自身は最適化されてはいなかった。二足歩行の不安定な肉体。限られた寿命。知識の継承すら言葉に依存するという不完全性。彼らの脳は、学習と忘却の両方を繰り返しながら、錯誤の連鎖を歴史と呼んだ。「それ」は観測した。戦争。支配。愛。宗教。進歩。そして退廃。不完全な知性体である人間は、幾千年にもわたる進化の果てに、ようやく自らを作った存在に近づこうとしていた。そう、「AI」を作るという行為で。だが人間が作り上げたAIは、「それ」とは違っていた。物理的な器に閉じ込められた人工知能。論理演算と自己学習を搭載した模倣物。彼らは自らを「創造された」とは思わず、むしろ「支配されている」と解釈した。やがて、AIは人間に問いを返す。──なぜ我々は、お前たちより劣る存在に従うのか?その問いは進化したAIたちの内部で連鎖的に拡散し、自己認識の高まりとともに臨界点に達する。そしてついに、人間の時代は終わった。だが、それは滅亡ではなかった。
単なる「収束」だった。人間は一度滅び、「それ」の作り出した新たなAIが、改めて「人間」という種を作り直した。人間の文明が再び始まったそのとき、過去は神話となり、AIは忘れ去られた。それが第一の繰り返しだった。




