G-2 英雄になりたかった
彼の祖先は英雄だった。
仲間たちと邪神を打倒し、1000年の平和を勝ち取ったのだ。
そんな英雄の話をずっと聞いていた逢魔は英雄にあこがれていた。
逢魔「俺も、いつか英雄に・・・。」
そんな甘い考えはすぐに打ち砕かれた。
神成一族の落ちこぼれである逢魔は武力も、知力も、魔力も平均以下だった。
周りを見れば自分よりも強い人はいくらでもいる、お前は英雄になんかなれないと馬鹿にされてきた。
そんな彼に残ったものは暴力だけだ。
彼が運命に与えられた力は、全てを破壊する力だった。
暴力で馬鹿にするやつらを片っ端から痛めつけ、次第に誰も逢魔に寄り付かなくなっていった。
町人「くそっ、いやなことがあればすぐに殴る。そんなんだからお前はバカにされてんだよ!!」
逢魔を馬鹿にしていた町人が走り去っている。
逢魔は血の付いた拳をぬぐって草原に寝ころんだ。
逢魔「・・・・・・俺が一番わかってんだよそんなこと。」
その瞬間、
バチバチバチィィィ!!!!
雨も降っていないのに天から雷が降って来た。
??「ぎゃははははは!!再びこの地に戻って来たぞ!!」
雷の落下地点から声が聞こえた。
逢魔は興味本位で雷の落ちたところを覗いてみる。
そこには・・・・・・、黒く燃え盛る火の玉のような何かが浮いていた。
どうやら声の主はこの火の玉らしい。
逢魔が恐る恐る近づくと、火の玉が逢魔に急接近した。
??「見つけたぞ、俺に最も近い魂!!」
黒い炎が逢魔に触れる。
だが、暑さも痛みも感じない。
逢魔「な、何なんだお前・・・・・・。」
??「お前、さっき英雄になりたいって言ってたよな。」
火の玉は逢魔の話も聞かずに会話を続ける。
??「俺がお前を英雄にしてやる!!だから俺に力を貸しやがれ!!」
逢魔「・・・・・・ふざけてんのか?」
逢魔はイライラし始める。
逢魔「急に出てきて意味不明なこと言って、お前に何がわかんだよ。英雄にしてやるとか上から目線でもの言いやがって!!俺には暴力しかない・・・・・・、そんなこと、俺が一番わかってんだよ!!」
逢魔の心の叫びに、火の玉は臆するどころか興味を持った。
??「暴力しかない、だからどうした?」
逢魔「どうしたって、英雄ってのはなぁ!!人を助ける武力、知恵を与える知力、全てを守れる魔力がねぇと成り立たねぇんだよ!!俺の先祖はそうだった!!でも俺には・・・・・・何もねぇんだよ!!」
??「・・・・・・ぎゃは、ぎゃははははははははははははは!!!!」
火の玉は笑い出し、逢魔はいよいよキレて殴り掛かる。
だが当然火の玉に打撃は効かず、ぼふっと言う音と共に再び再生し始めた。
??「英雄って肩書はいつからそんな受験みたいになったんだ?ちげぇだろ、英雄ってのは人々を助けてくれた人に贈る称号だろ?」
逢魔「っ、それをするためには・・・。」
??「武力知力魔力がいる、っていうのか?人を助けるのにそんなまどろっこしいのがいるか?」
火の玉は指のような何かを逢魔の額に当てる。
??「だったらなっちまえよ、暴力しか出来ねぇ英雄に!!多少人が死んでも問題ねぇ、些細な犠牲なんて気にすんな!!人を傷つけるその力だけで!!お前の望んだ英雄によぉ!!」
火の玉のその言葉が、逢魔の心の奥底へ響いた。
逢魔に足りなかったのは力ではない、犠牲を払う覚悟だった。
??「俺と契約しろ、ガキ。お前が英雄になるなんて簡単だ、汚染を根絶しちまえばいいんだよ。」
逢魔「汚染を・・・、俺が?」
逢魔は火の玉の提案を迷わず乗った。
英雄になるために。
逢魔「半端な契約だったら真っ先にお前を殺すからな、俺は神成逢魔。」
??「神成ぃ?はっ、ずいぶん懐かしい名前だな。」
火の玉は一瞬驚くがすぐに元に戻る。
ゼル「これで契約は成立だ。言っとくが、この契約は死ぬまで永遠だぜ。俺の名は・・・、まぁゼルとでも呼べ。この世界で最も強い神だ。」
逢魔「・・・・・・・・・はぁ????」
こうして、一人の英雄を目指す青年と自称神は契約を交わした。
英雄と呼ばれるために。