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第14話 最終話

翌週、翔子は秘書課に異動になった。

「そんで仕事どーなの。」

壮太に聞かれて、翔子はちょっとげんなりしたようだった。

「大変。今はまだ星野さんについて教えてもらっているけど。立ってること多いし。」


とりあえず基本的に会長のお供、それ以外は秘書室勤務である。

それでも、前に比べれば生き生きしている。

顔色もいいし、目がきらきらしている。

まるべく目立たないようにしていた頃しか知らない者が見たら、別人のように見えるだろう。

翔子を見るために、彼女の出社時間に合わせて出勤してくる男共が増えた。


ついこの間も、一階のロビーを通りかかったら、おそらく藤沢商事の取引先であろうおじさんが

「会長に、こんなきれいで優秀なお孫さんがいらしたとは。」

などと話していて、硬直する受付嬢の前で翔子が

「ウフフフ。私なんてぜーんぜん!ほかの社員が優秀過ぎて、私なんか虫扱いですよ。」

と白々しく笑っているのを見た。


「前の総務課と比べてどうよ。」

「あ、それは全然楽。変に気を遣わなくていいから。みんな優しいし。」

総務課では、森田主任が広報課に異動・降格になった。それに伴って中堅どころの橋本が主任に上がったらしい。しかし結果的に二人、課員が減ることになったので、総務課は大変になった。

総務課長ももう少しで左遷になるところだったが、減棒と厳重注意で済んだとのことである。翔子への暴言に対して、涙ながらに反省の弁を述べたらしい。

「どうする?直接謝らせる?」

と亜希子に聞かれて、

「いえ、もう会いたくないし。私は、自分が異動できたらそれでいいので。」

と翔子は答えた。

総務課の河野は、服装を厳重注意された。半年間、制服での勤務を命じられて凹んでいるらしい。

バーバリーのおしゃれなデザインだが、ベストにリボンタイがついているので、夏場は暑苦しい。


営業二課では、誠司が原と田村にきっちり釘を指した。

営業の戦力として頼りにはしているが、同じ社員としてそれ以上にはなり得ないこと。

まして人を指さして笑うような下品さは、見ていて大変不快であり、そのような態度はぜひ今後改めてほしいこと。

柔らかいが、有無を言わせない口調に、二人ともひたすら頭を下げ続けたとのことである。


「そっか。楽しくやってるならいいんだ。でもこっちに土日来るの、大変じゃねぇ?」

「うーん。二日続けては辛いかも。土曜日起きられない。」

お疲れ気味の翔子に、マスターがコーヒーを淹れてくれた。


「無理しなくていいよ。そりゃ翔子ちゃん来てくれたら助かるし、みんな喜ぶけど。翔子ちゃんが元気なのが一番だから。」

「そうそう。翔はなんも言わずに我慢するだろ。ひどい顔色だったぞ。」

「え。そうかな。あんまり考えたことない。」

深く考えると大体傷つくだけだから、人のおしゃべりは全て聞き流す。もう癖になっているので、よほどの事がない限り心を動かされることもない。自分ではそう思っている。


翔子は、自分用のブレンドを飲んで、あーやっぱりおいしいな、と思う。

外は目が眩むほどの暑さだ。セミがうるさい。

「夏休み、どっか行く?」

「ん?」

「ほら、お盆休み。来週からじゃん。てかもう八月じゃん。まあ、どっこも混むけどさ。なんか遊園地とか行きたくないか?」

「えー。だってそーちゃんいっつも、サービス業は人が休みの時が稼ぎ時って言ってるじゃん。いいの?」

壁にかけてあるカッコウ時計が、2時を鳴らし始めた。

カッコウ、カッコウ。音が低くて心地いい。


「たまにはいいだろ。だってバイト代も出ないんだぜ、ここ。休んだって、文句を言われる筋合いはないって。」

壮太の主張に、マスターは肩をすくめる。

「文句はないさ。何だったら、泊まりで行ってきてもいいぞ。」

「だからさ~、なんでそんなこと言うかな。」

真っ赤になる壮太に、翔子は小首を傾げた。


「そう言えば、和にぃも温泉行きたいとか言ってたし。みんなで行く?京都の貴船とか。」

みんなで、と言われて、壮太は一瞬言葉に詰まる。

「遠いな!」

マスターが、向こう向いて笑っている。翔子にはまだまだリハビリが必要らしい。

壮太との恋も先は長そうである。


<完>


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