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5話




能力値、戦技について:


武器には補正値があり振るう者の能力値によって補正がかかる。能力値はそれぞれ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の8種類存在する。能力補正はEからSの6段階あり、段階が上がる度、能力補正による威力上昇がかかりやすくなる。


武器には、持ち主の思いと記憶が込められてるとされている。振るう者のステータスが一定値を満たしている場合、扱うことが出来る技のことを戦技という。使用には意思の力、精神力を消費する。一つの武器に二つの戦技があるとされ、それはその振るった者の二面性を現している。






 街から西に、数キロ先に例のプラネテスの墓地があるという。歩けば歩くほど、目的地に近づけば近づくほど草木が灰色へ変わっていく。景色がだんだんと、生気を失っていく。赤く染まって、枯れ木が広がり、穢れが漂う道は廃村へつながっていた。たしか墓地の手前に廃れた村があると聞いた。であれば墓地はもうすぐだろう。

 廃村へ入るやいなや、穢者が二体、這い出てきた。見た目はボロボロの衣服を着た爛れた死体のようだ。しかし、手足の爪は発達した様に鋭く見える。ただそれほど脅威に思えない。振り払おうと力を使おうとしたとき、ルピナスが飛び出した。


 「はぁぁっ!!」


 瞬く間に穢者二体の首を跳ね飛ばし、とどめを刺した。その光景は鎌鼬かまいたちを見ているようだが、どこかルプスの剣技に思わせる動きだった。完全にルプスの剣を使いこなしている。ルプスを鎮圧し、剣を継承してから半日も経っていないのにあそこまで、それも剣術まで自分のものにできるのか?彼女に聞いてみた。


 「その動き、まるでルプスに似ている」

 「え、えぇ…姉妹ですし…。それに一緒に剣技も学んでいましたから似ているように見えたのかもしれません。それでも剣だけに人生を捧げたお姉ちゃんには敵いませんが…」


 剣を携え更なる襲撃に警戒する様は、初めて出会った頃のか弱い修道女ではなく、覚悟を決めた聖者そのものだった。姉の死を境に心情に変化があったのだろう。しかし、僕にとっていまだ脆弱な人間という印象だ。人間は丁寧に扱わないと壊れやすい。聖者が一般人より身体能力が優れているといっても所詮人間。危険と判断したら僕が守らないと…。


 「この人たちも、元は人間なんですよね…」


 自ら切った穢者を見つめて、表情が沈むルピナス。まだ割り切れていないのか、煮え切らないでいる。何か声をかけた方がいいのだろうか。少し考え、彼女に一言声をかける。


 「穢者から人間へ戻る方法がない限り、殺しだけが救いになる。重要なのは弔う心だと、僕は思う」

 「そう…ですね」


 納得したような、少し振り切れたようなそんな顔になった。でもこんな言葉に心なんて籠ってないんだ。一時的に快楽を得るような、ただの偽善に過ぎないんだ。僕のここに———なにも入っちゃいないって知ったら…君は悲しむのだろうか。

 廃村の奥へ穢者を倒しながらゆっくり進んでいく。鉈を持った者。槌を持った者。薪割りに使うような手斧を持った穢者もいた。同じような個体が何体もいること、そのボロボロの容姿からここにいた元住民とみて間違いないだろう。朽ちた小屋。暖炉にある燃えカス———というより家も牧場と思われる場所も燃やされた形跡がある。それとここにいる穢者の様相が“ある特徴”が共通していることがある。獣だ。顔、手足、体毛が異常に発達して、獣の毛皮のように身体を包んでいる。爪も鋭く、犬や猫科のような形をしている。獣に成り代わっている。しかし、理性を持った者はおらず、依然と穢者であると思わされる。

 降りかかる火の粉を振り払いながら散策していく。何体の穢者を殺しただろうか。数えてなかったが多分二十二、いや二十三体は殺しただろう。血の匂いが穢れの瘴気が混ざり合う。


 「天使様、もう少し歩けば例の墓地に入ると思います」


 剣についた血を落としながら、ルピナスは言う。いつでも守れるように立ち回っていたが、もはやその必要はないような気もしてきた。やはり聖者は身体能力がかなり高いように思える。それと聖者の力はそれだけではないと、僕は思う。あの時、ルプスと戦った戦った際、影の腕にあの剣を刺され明らかな痛みを感じた。それこそ天使が撃ってきた矢———聖なる力と同じ類の物に感じた。あの剣に備わっているのか?それとも聖者と呼ばれる者達がその力を行使できるのか?

 様々な疑問が浮かぶ中、大型の穢者が二体現れた。あれは…最初に遭遇した牛頭のデーモンとかいう個体だ。大きな足音を鳴らしながら、こちらを認識して歩いてくる。一匹は大斧を。もう一匹は…薙刀———グレイブか?黒い岩のような材質に見える。ルピナスはやる気満々だ。


 「天使様、私にやらせてください」

 「…片方だけ。もう片方は僕がやるから」


 僕は左の———大斧を持っている個体を、影の腕で奥に殴り飛ばす。剣を握り、過去の自分に復讐するように決意を固めているルピナス。これはきっと、彼女にとっての試練だ。姉に守られていた自分への試練なのだろう。聖者見習いから一人前の聖者になるために。

 ルピナスが剣を顔の前に掲げ、脱力した様に剣先を地面へ。ルピナスは見ている。真っすぐ、穢者を。穢者も見ている。脅威と感じたのか、鼻息を鳴らして唸り声を静かに上げる。


 「気をつけて」

 「天使様も、お気をつけて」


 危険と判断したら駆けつけるため、必ず適度な距離を保とうと僕は頭の隅で考えた。僕は殴り飛ばした個体を追いかけていく———。




 天使様が、任せてくれた。これは私への復讐。無力だった、守られるだけの存在だった自分への復讐。これ以上、足を引っ張るようなことはしちゃいけない。お姉ちゃんの剣を自在に扱えるように強くならなくちゃいけない。お姉ちゃんのような、被害者を増やしてはいけない。そのためにはあいつなんかに———デーモンなんかに負けてられない。逃げるだけで必死だった私は、過去を振り切る様に前を向いて走り、デーモンに剣を向ける。

 この個体はグレイブを持っている。長いリーチを使って刺突、斬撃による攻撃が特徴。槍とは違い、刺突の攻撃が主だけどグレイブは薙ぎ払いによる斬撃が主。それ故に、力が伝わりやすく、あの巨体が振り回すとなるととてつもない力が働く。あの猛攻を捌くには、受け流す流水の技が適している。私たち姉妹が教わった流水の技とは、流れのように連撃を加え、逆らう流れを受け流す、攻防一体の技術。相手の攻撃を崩し、その一瞬を光の速度で連撃を行う姉の姿を何度も見てきた。私もお姉ちゃんのように…。

 穢者の力強い攻撃を防ぎ、受け流しつつ、隙を伺う。大振りな縦斬りを避け、すれ違い様に首元を狙い切り払う。しかし、その肉厚が分厚いのか、間合いを見誤ったのか、与えた傷が浅かった。もう一度、攻撃しようと接近しても穢者の振るう得物のリーチが、それを許さない。だめだ。もっと速く———素早い連撃を繰り出せるようにしないと。私は穢者が武器を振り下ろす前に接近する。そして三、四、五連撃、穢者の胸を貫いた。

 穢者は前のめりに倒れ込み、塵と消えていく。逃げるしかできなかった私が、お姉ちゃんの剣を受け継いで、真正面から倒したんだ。

 ()()()()()()()。それは、刺突と斬撃を可能とした軽大剣を刺剣のように極限まで細く加工した一品。刺剣にしては重く、軽大剣にしては細い。しかし、その重量と熟練された技で瞬く間に蜂の巣にする。お姉ちゃんはこれを自在に操り、私を———皆を守ってくれた。今度は私が、聖者として守る番だ。




 ルピナスの戦いに巻き込まないために牛頭のデーモンを吹き飛ばしたはいいけど正直相手するほどでもない。最初の個体と大差ないのなら影の腕でその上半身事吹き飛ばすだけだ。しかし、それだけじゃ意味がない。いつしかあの天使とまた遭遇———強襲されるかもしれない。そんなことになったら次生きているとは限らない。僕は恐れている。死の天使を。あの圧倒的力を。そのために力を高めないといけない。そのヒントは僕の力だ。影。その力の源が何か存在するはず。僕の記憶にその答えが。そのためにはもっと穢れに触れなければならない。黒い森の入り口の破片。これが反応するとき、強く濃い穢れに近づいている。ならば穢者を殺して殺して、殺しまくって———この心が満たされるまで殺し続ける。心とは感情であり記憶と類似している。感情が、心が満たされれば思い出せることがあるかもしれない。だからこのデーモンには死なないように痛みつけ、仲間を呼ぶように仕向ける。丁寧に、丁寧に傷をつける。しかし、一向に仲間を呼ぶ気配はない。穢者同士、仲間意識はないのか?それならこの行為に意味はないのか。僕はデーモンを抉り続けることをやめ、力を凝縮したエネルギー体———暗く虚ろな光線で跡形もなく消し飛ばす。すさまじい轟音と共に、地形も少し抉れてしまったがそんな些細な事気にしなくていいだろう。…そういえば無意識にしたがこんな力、()()()()使えたのだろう…。

 そんなことよりルピナスは大丈夫だろうか。急いで彼女の元へ戻ると、既に戦闘は終わっていた。穢者の肉体を串刺しにし、首を斬り落としていた。どうやら杞憂だったようだ。彼女は聖者として一人前と自分を認めることが出来たのだろうか。それでも彼女は剣を振るうのだろう。聖者として穢者を消すために。


 「天使様、お待たせしました。行きましょう」

 「…そうだね、行こうか」


 僕たちは黒い森の入り口を破壊するために、改めてプラネテスの墓地へ向かおうとすると———。


 バアァン!


 爆発音が鳴り響いた。これは———銃声だ。聞きなれない音を聞いた僕たちは、走ってその銃声の発生源へ向かった。たどり着いたそこは墓地という名に相応しい、墓が連なる場所だった。蠟燭の街灯に囲まれたそこには、小鎌と銃を携えた、赤い頭巾を被った人型が穢者———ではなく人間の頭に銃口を突き付けていた。誰だ…あれは…。そこで、僕は街で話していたことを思い出す。〈西にある門の先、プラネテスの墓地に向かった“狩人”が帰ってこない〉。あの話が正しければもしかしてあいつは狩人を殺している?赤い頭巾を被った人型は追い討ちをするように、銃の引き金を引き、銃声を響かせた。


 「あれは…赤頭巾の狩人…?」

 「赤頭巾の狩人…?それがあれなの?」

 「狩人を殺し続ける狩人がいるという噂が度々上がっていました。その情報の共通点は狩人の武器を持っていること、狩人を狙っていること、そして———赤い頭巾を被っていること。私も実際に眼にするのは初めてです」


 赤頭巾の狩人。ということは今この瞬間にあの狩人を殺し終えたということか。危険人物———。僕はそう判断し、戦闘態勢をとる。影に隠れたその赤頭巾の中からこちらを睨んでいるのがわかる。そのとき———。


 ワオオオーーーン!!!


 どこからか、狼らしき遠吠えが聞こえてきた。ハッとしたように赤頭巾は遠吠えに反応したのか跳躍し、飛び去って行った。僕が赤頭巾の後を追おうとしたとき———。


 「待ってください!天使様!」


 ルピナスの声にハッと気づく。狩人が———撃ち殺された死人が立ち上がり、人の形のままこちらを見ている。まるで、醜いケモノを見ているように。


 〈ガァアアアッ!!!〉


 咆哮と共にこちらに飛び込み大斧を振り下ろしてきた。さっきまでボロボロだった人間の動きじゃない。まるで穢れに侵されたルプスの———完全に穢者となった異形の動きだ。異様な金属音と共に、狩人の武装は変わる。両手で振るう大斧からか手で十分振るえる手斧に、左手に牽制の銃を携えている。これが狩人か。ルプスとは違った、異様な動きに、合わせる様に猛攻を躱していく。柄の長さが伸び縮みする斧———仕掛け武器というべきか。そして、大振りな斧の隙を消すような牽制の散弾銃。それを獣のように動き回りながら扱う器用さ。狩人は自ら穢者を狩る者達だ。その名前を自称する者達の、納得の俊敏さと剛力。大斧を振り回す度、周りの墓石が次々と薙ぎ倒され、壊されていく。しかし、大振りな分、隙は見える。僕は斧を振り切る前を狙って影で殴り飛ばす。体積が軽い分、狩人は大きくよろめいた。すかさずルピナスが間に入って素早く4、5回刺突を繰り出す。援護が素早い。いいタイミングだ。僕の戦闘に邪魔にならないように動きまわってくれている。この間に影を武器に変える。今度は曲剣ではなく刀のように鋭く、長く。ルピナスと入れ替わる様に斬撃を上半身に駆けて切り上げる。手応えあり。

 狩人の体は勢いよく血を吹き出す———が、傷が塞がるようにすぐに出血が止まる。というか今の血は見たことがある。穢れの霧のような血、穢れの罹患者———ルプス同様の穢者特有の血だ。この狩人はもう、穢者になっている。


 「驚いた。いい援護だけど、気を付けて。この狩人、すでに穢者化してる」

 「…そのようですね。安全第一でいきます」


 それにしても穢者を狩る狩人が、狩るべき対象になり果てるとは…。穢れとは人間に感染する疫病のようなもの、とルピナスは言っていた。聖者は穢れに対する耐性があり、似たような効能を持つアクセサリも存在している。そんな環境の中、狩人は穢れに対して対策があるとしたらアクセサリぐらいだろう。しかしそれだけでは聖者でも完全には穢れを対策することは出来ない。聖者であり穢れに侵されてしまったルプスがいい例だ。穢れにはまだなにか、異様なものがある気がする。病とかそういうレベルの話じゃないなにかが。

 僕たちの攻撃によって傷だらけになった狩人は、まだ立ち上がり、こちらを睨みつけている。しぶといな。やっぱりさっさとあの首を飛ばした方が速いか。それとも心臓を貫くか…。とにかく隙を見て急所を狙う。短期決戦だ。こちらから接近し、攻撃を誘う。狩人の縦振りを避けながらルピナスと挟み撃ちになる様に狩人の背後に回る。明らかにこちらを危険視するように狙っている。追いかけてくるように飛び込んできた。力強い猛攻を刀で受け流し続け、隙を窺う。斧と刀の刃がぶつかる度、火花が散り、金属音が鳴り響く。刃に反射するように、夕日が目に映る。攻防を繰り返していくうちに、慣れてきた。今ならいける。大きい縦振りを受け流し、素早く連続で切りつける。反撃しようと狩人が動く瞬間、それに合わせる様にルピナスが後ろから突き刺す。そして、隙を晒した首へ刀を突き刺した。

 狩人は血だらけになり、膝をついた。その瞬間、突然、咆哮を上げだした。耳がキーンとするほどの音量と圧に押され、僕とルピナスは後方へ吹き飛ばされる。狩人は身に纏っていたその装束を突き破る様に肥大化し、体毛で覆われた獣と化した。これは、既視感がある。穢れが濃くなり、姿が変容する。まるでルプスと同じだ。しかし違いはある。ルプスは今まで抱え続けていた穢れの反動で恐ろしい穢者となってしまった。だがこの狩人はどうだ。あの赤頭巾の狩人に殺されたかと思えば起き上がり、我々との戦闘の中で穢者化が悪化し、あの姿は獣そのものだ。穢れとは死人にも影響を与えるというのだろうか。

 狩人は僕の方を睨みつけ、大きな右腕で引き裂いてくる。とっさに刀で受け流すが左腕で後方へ殴り飛ばされてしまった。


 「天使様!!」


 ルピナスがこちらを心配してか叫んでいるが、幸い物理的痛みは感じなかったため体勢を崩した点以外、問題はない。ただ、相手———結構タフな気がする。ルピナスとの攻撃で人間なら致死量の出血をしただろう。それなのに穢者化が悪化するほど、どんどん動きが機敏になっている。穢れが濃くなっていく度、狩人の動きが本能的というか、野性的というか、より———()になっていく。なんだかこの穢者化に違和感を抱いてきた。


 「ガァアアッ!」


 さっきからこの狩人、僕の首や人間の身体でいう致命傷になりうる場所ばかり狙ってくる。意図的———いや、本能的で狙っているのか?猛攻を避け、すれ違い様に斬撃を加え、また避ける。どれだけ血を流させ続けても、どれだけ体力を使わせても猛攻は止まらない。

 ———はぁ。()()()()()。もう、この戦闘終わらせても問題ないか。ルピナスから一定距離、離れた時を狙って———いや、別の方法でやればいいか。空に撃てば二次被害はないだろう。僕は戦闘の中、先生の言葉を思い出しながら頭の中で整理する。隙を見て狩人の懐に入り、腕を影で纏い撃ち放つ。

 条件は、相手を確実に消す質量攻撃による手段があること。それを行う距離に相手がいること。そして最後に、本能の赴くままに。


 「対虚無(ヴォイドアウト)


 莫大な爆発エネルギーと衝撃で狩人の上半身は消し飛び、まわりの墓は自分を中心に瓦礫と化した。これは昔、先生が大きなドラゴン相手にやっていたことの猿真似だ。先生が使った魔法と規模は大きく違うが、やっていることはほとんど同じである。圧倒的エネルギー体の凝縮し、相手にぶつけると同時に破裂させ爆発させる。それは自分と同じような()()でさえ消すことが出来るだろう。実際、加減を間違えたせいで撃ち放った右手が少し欠損している。ズキズキと、欠けた右手が痛む。黒い血のようなものが垂れている。ドロッとした、ペンキのような、オイルのような。これが私の中に流れているものなのか———。

 …なんとなく、嫌なものだ。


 「大丈夫ですか?」

 「問題ない」


 欠けた手を見ながら適当な応答をする。この傷、修復はできるのかな。意識したことはないけど時間をかければできる気がする。景観のいい墓場が血と穢れと瓦礫でぐちゃぐちゃだ。あれだけ暴れてもらっては仕方ないか。

 穢者、濃い穢れにのまれるほど比例的に脅威度は上がっていく。ルプスのように濃い穢れに曝され続けるほどその姿は歪に変化する。この世界の人間は穢れに対して非力であると同時に穢者になる、僕からしたらただの厄介者だ。このままじゃ穢れに世界が飲まれていくのは時間の問題だろう。掃うなら早い方がいい。この欠片さえあれば黒い森の入り口の特定は可能だ。欠片が反応する方向へ———穢れの濃い方向へ進もうとすると、ルピナスが狩人の死体へ近づき、なにかを弄る。そして、死体から何かを取り出した。少し錆びた、十字架の形をしたペンダント。なんとなく、それに目を引かれた。


 「それは?」

 「狩人証です。本人の証明するものでもあります。持ち帰ります」

 「…それ見せて」


 なにか、欠片を拾ったときと同じような違和感を抱く。なんとなくペンダントに気配を感じる。僕は吸い込まれるようにその狩人証に触れた。


 「———ッ!!」


 ()()が雪崩れ込んできた。戦った狩人と、女性と小さな子供が一緒に過ごしている、光にあふれた眩しい光景。食卓を囲んで、家族に囲まれて、この狩人は家族との時間を大切にしていたのだろう。持ち主の強い思いがあの狩人証に込められ、それに触れたためこの記憶を見ているのだろうか。その光景は小さな塊のように少ししか見えなかったが、持ち主にとってはとても大事なものだろう。覚えておこう。———まぁ、()()()()()()()だけど。


 「天使様、どうかなされましたか?」

 「いや、別に」

 「一度、帰りましょうか。天使様」

 「わかった」


 赤頭巾の狩人の行方はわからないまま、僕らは一度、聖堂街へ帰ることにした。




・悪魔、エミィ・ディア

異世界パンドラに迷い込んだ悪魔。黒く前髪長めのショートヘア、黒目をした十代の子供のような容姿をしている。焼け跡がない魅惑的な白い肌をしており、黒く大きい翼を背中から生やしている。

影の力を身に宿しており、身に纏う影を時には大きく変形させ、時には武器として具現化させる。取り戻しつつある記憶をもとに力を引き出しているが、それは力の一端でしかなく、本人は認識していないが、本能はそれを常に理解している。使わぬ理由も、使えぬ理由も。



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