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0話


 ぼくは、だれ。

 わたしは、だれ。

 このちは、このたましいは。

 このきもちは、このこころは、なに。

 あぁ、でもあなたのことだけはわすれたくない。

 あなたは、ぼくの





 悪魔。それは神に敵対するものを指し、天使と対を成す存在。人間に悪事を働き、時には言葉巧みに騙し、蹂躙する。【天使】と【悪魔】には相容れない関係にあるが、両者共々最も近い存在という説もある…。




 痛み。全身に走る痛み。頭で響く耳鳴りが収まり始め、同時に痛みを思い出すように感覚が持ってきた。ぼんやりしたままの頭で現状を思い出そうとする。


 バキッッ!!!


 音がする。何かが壊れる音。木材を…踏み潰す音。それは、目の前の長椅子を踏み潰す音だった。


 〈オォォォォ…〉


 目の前には私の体を容易に踏み潰せるほどの巨体がいた。牛頭のデーモン、そう呼ばれている【ケモノ】。

 名前の通り牛の頭をした大柄な二足歩行の化け物。黒く大柄な肉体と自らと同じサイズの大斧を振り回し、特殊な呪術を操る。そんな奴が3体、装飾品を踏み潰しながらゆっくりこちらに近づいてくる。

 逃げなきゃ…でも体が動かない。ケモノが私の首を狙って振りかぶっている。右から左へ断頭を、避けるのは…無理かな…。

 もうだめ…でもおねえちゃんを助けないと…。その時———。


 ゴゴゴオオオオオオオオッッッ!!!


 衝撃。飛びかけた意識を現実に戻してくれたのは、耳元で爆発物を起爆させたような衝撃だった。

ステンドガラスが、天井が崩れ落ちた。いや、天井から何かが降りてきた。瓦礫と土埃が漂う視界の悪い中、それだけが周りのどの存在よりも浮いていた。浮いていたのだ。

 舞い降りてきた人影。綺麗な翼。人間と同じ形、容姿のはずなのに異様な雰囲気を纏っている。神々しい存在。あれはなに…?

 私とケモノの間に、猛禽類のような翼を生やしたヒトガタがゆっくりと瓦礫の下敷きになったケモノの上に着地する。土埃が完全に晴れると同時に、崩れ落ちた屋根から蒼い月の光がヒトガタに照らされる。私と同じぐらいの小柄な体系。雪のように白くて綺麗な白肌の素足。黒く、美しい翼。先ほどまで私を襲っていたケモノでさえ、距離を取り視線を向けさせる魅惑の容姿。まさに“天使”が降臨した。


 「…」


 天使がゆっくりとこちらに振り向く。その瞳は虚ろで、光が宿っていないように見えた。まるでなんとなく、気まぐれでここに立ち寄ったような。興味がないのかこちらの顔を少し見た後すぐにケモノ達のほうへ視線を向ける。ケモノ達は威嚇するように咆哮を上げる。それが威嚇に見えたのは、ケモノ達を見下す天使に対して圧倒的力の差を感じ取ったからだろう。

 天使は手を挙げていた。大きく黒く染めた、影のような大きな腕。幼児のような体系からは考えられないほど異形化した影で出来た腕。

次の瞬間、ケモノ達は上半身を礼拝堂ごと消し飛ばされていた。崩れた礼拝堂全体が、月光によって青白くに照らされる。黒い羽が強調されるように照らされる。ケモノが塵になって消えていく。


 「…怪我はない?」


 天使がこちらへ振り返り、手を差し伸べている。

 今、私は夢でも見ているのだろうか。金縛りでも掛けられているように、自由に動かせていた身体が動かない。そんな私に手を差し伸べている天使様。私はその手に取り、立ち上がる。


 「…天使様…なのですか…?」


 わたしの口はひとりでに動いていた。天使。私たち、聖職者が崇める偉大なる神の使い。その者が現れるとき、救いがもたらされると言われている。そんな神話の存在がいま、私の目の前に———。

 が、天使は困った顔をし、大きく翼を広げたあと、答える。



 「僕は———悪魔だよ?」



 ———これは、一人の聖職者と一人の悪魔が出会った奇妙な話。私だけが知っている語られない、とある異世界の話。一冊の本は必ずどこかで語られるもの。ならば私がその語り手になりましょう。“役者”も“語り手”もしてきたけど“お客様”がいないと寂しいものです。それではまた、のちほど———。



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