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恋する皇帝は怒る


 リヴァイ皇帝とその一行達の慌ただしい帰還準備をバレリア国王と高位貴族達は不満気に見ていることしか出来なかった。


 帰還の理由は致し方ないと納得したものの、やっと成人を迎えたばかりの私を伴う事には納得しないのだ。


 このバレリア王国には前途揚々な男貴族がウジャウジャいるというのに、其れらを差し置いて18歳の小娘を連れて行こうとするのが気に食わないとは情けなくて涙が出そうである。



 それにしても王家や大臣達の耳に入るのが余りにも早い。

 考えられるのは先程我が家にお越しになったベルガード皇帝に密偵を付けていたのだろうか?


(お父様達と急ぎ要相談ね・・・)


 私は家族達と当家に出入りする者や今一度使用人達を調べるように話さなくてはならないと考えた。

 それにまさかこんなちっぽけな国でも影の者がいるのかと内心驚きを感じている。



 先程、契約を交わしたばかりの私は家族を伴うことも許されず、たった一人で謁見の間へ呼び出され男貴族達に周りを囲まれていた。 私が見る限り女性蔑視をしない優良貴族は居ないようだ。 国王陛下の腰巾着の貴族達ばかり。

 まるで男社会からの一方的な公開裁判だ。


 突如バレリア国王は右手を高らかに掲げた。 

 そして私を怒鳴りつける罵声は謁見の間の隅々まで響き渡り公開裁判という名の一方的な断罪が始まった。


「おい! お前如きが何故、大国ベルガード帝国へ招かれるのだ!? 女は出しゃ張らず男を陰で支えるものだろうが! そんな事も分からないのか! 無能ものめが!!」


(はいはい、そういう無能に仕事を振るのはどこのどいつですか〜)


 私は国王や大臣閣下達のボヤキとも取れる罵声を右から左へ聞き流していた。

 もう慣れたもんである。


 それよりも先程取り交わされた

(仮)が取れて正式になった契約書の書面を思い出しニヤケそうになる顔をなんとか取り繕っていた。

 そんな私の態度が不遜に見えたのかしら?



ーーそれは突然だった!



 唐突に国王が私に突進して何の前触れもなく思いきり頬を叩きつけたのである。

 

 流石に暴力は初めてだった。受け身も取れずに私は派手に転がっていった。


(い、痛ーー)

 口の中に血の味が広がる。頬は腫れ薄い唇の皮膚が少し裂けているようだった。



 国王は血走った目で怒鳴りつけてきた!


「お前はバレリア王国の男を立てるという純然たる歴史を破り反逆の意思を向けたのだ! 愚かなお前に罰を与えねばならん!! 近衛隊達よ、この娘を捕らえ地下牢へ連れて行け!」


 一人で謁見の間に来るべきじゃなかった?

 でもだからってバレリア国王はやり過ぎている・・・

 私は熱を持ち腫れた頬を押さえて国王達を睨みつけた。だが冷静さは失わない。


「国王陛下、私が帰らなければ家族が心配すると思います・・・ましてやベルガード皇帝陛下にはどのような言い訳をされるのでしょうか?」


 国王も其れを囲む大臣閣下達もゲラゲラと不遜に笑った。

 私を服従させる心算だと隠しもしないあけすけな物言いをする。


「わっははは・・・愚か者め! そんなものお前が心配することでは無いのだ! 理由など幾らでも並び立てる事が出来るのだぞ? お前など、ただ己の心配でもしておれば良いのだ!」


 囲んだ近衛兵達は私の腕を強く掴んでズルズルと引き摺ろうとする。


 残念だが、力では到底太刀打ちなんて出来ない。


 こんな瀬戸際の場だというのに何故かベルガード皇帝陛下のお顔が浮かんでくるし? そして初めて通訳をした時の言葉も浮かんできたのだ。


(五月蝿い小蝿達だ・・・全くだわ・・・ふん)


 抵抗なんて出来ない私がほんの数歩引き摺られた時だった。


 大扉が突然開くとベルガード皇帝と屈強な配下達が謁見の間にズラリと入って来た。


 引き摺られる私を見てベルガード皇帝は僅かに眼を細め怒気を溢れさせた。


「ぐぅわっ!」「うおっ!」

 瞬時に私の腕を掴む近衛兵達を抜き身の鞘で叩き込む。


 私の身体は支えを無くしてグラリと傾くのを咄嗟にベルガード皇帝が抱きしめてくれた。

 皇帝は私の顎を持ち上げ小さく裂けた唇に指を這わせて怒りを露わにしている・・・?


「誰がこんな事をしたのだ?」


(何故、ベルガード皇帝がこんなに怒っているの? やはり契約相手だから?)


 相手は口に出すのも憚られる相手だ。 

 私は視線だけをバレリア国王へ向ける。


 バレリア国王とその仲間達は顔色を無くし事態の収拾を図ろうとするのだが。

 バレリア国王が裏返った声で必死に通訳者を呼ぶ。だが・・・返事が返ってこない。


「・・・・・・・・・・・・」


 仕方なしに静まりかえるその場で私が声を発した。


「国王陛下、この場では私しか通訳出来る者がおりませんが?」


 そりゃ旗色が悪いだろう。だからって私の言葉に絶望しないで欲しい。


「お、お前ではダメだ! すぐさま別の通訳者を探して連れてくるのだ! この若造に言い訳が出来る奴を連れて来い!! 早くせよ!!」


 謁見の間は蜂の子を突いたように騒ぎ出して見苦しくバレリア国の男共が右往左往している。

 


 だがその時だった。 威厳と怒気が入り混じる声がその場を静寂にさせる。


「待て! 」

 ベルガード皇帝が地の底を這うような不機嫌極まりない声を露わにしたからだ。

 何より、そのたった一言を聞きその場は完全に凍り付いたのである。

 だってそれは余りにも流暢なバレリア語だったから。



「通訳? ハッ、もともと必要では無かったのだ。さぁ、たかが弱小国の小蠅達よ。言い訳のお時間だ。 

この()()が聞いてやろうと言うのだ。何より許せないのは、代わりのいない存在のネヘミア嬢こそ我が国が歓迎する大切なご令嬢だという事だ! それを知ったうえで敢えてネヘミア嬢に手を出したというのか? 小蠅如きが数々の無礼をしたのだ。 それに対する言い訳を聞いてやろうと言うのだぞ!

さあ、申せ!申してみよ!!」



(ひゃあぁぁ、そりゃあ若造呼びは流石に怒るでしょ。それに私の為にも怒ってくれている? でも余りに怖い)


 青筋を立てて私を抱きしめる皇帝陛下を見つめて思うことなんて唯一つよ。

(うん、怒らせては駄目だわ・・・)

 私は契約者である雇用主を絶対に怒らせないようにしようと固く心に誓ったのだった。






最後まで読んでいただいてありがとうございました。

とても嬉しいです。

明日も引き続き皇帝は怒る模様です(;´・ω・)


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そしてこれからの励みになりますので

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