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皇帝の契約書はラブレター?


 ネヘミア嬢が私の前で美しいカーテシーをして挨拶をしていた時だった。



「陽光の道標ベルガード皇帝陛下に申し上げます!」


 常時冷静な配下の只事ならぬ登場はその場にピリッとした緊張感をもたらした。


「どうしたのだ?」


「恐れ多くも、財務大宮が政務中に頭を抱えた後に突然逝去されたとの報せが届きました!! 今、ベルガード帝国で全ての財務が滞り落ち着きを無くしているとの事です! 宰相閣下より至急お戻り願いたいと帝都から早馬で報せが参りました!」



 私は天を仰ぎ見た。


(これも空にいる父上からの思し召しなのだろうか・・・ネヘミア嬢を連れて帰る口実が出来たのだから)


 私はネヘミア嬢に座るよう促した。


 私の言葉に素直に従ってピュリモンド侯爵夫妻の隣席に座るネヘミア嬢。


 顔には困惑の色を隠せず、今この事態が全く飲み込めていないようだった。


(両親の前だからなのか、いつもより幼く感じる。表情も豊かでそれも良いものだ)


 屋敷に帰ればベルガードの皇帝と居合せた事に驚いただろうな。ましてや急を要する事態に遭遇して気まずさもあるだろう。


 私はピュリモンド侯爵夫妻へ一瞥して先程の言葉の一部を実行に移す事にした。

(今はまだ色恋なんて不躾も良いところだろう)



「ネヘミア・ピュリモンド侯爵令嬢。私はこのバレリア王国滞在中、其方の細心の配慮と通訳のお陰で快適に過ごす事が出来た。そして失礼を承知で其方の事を調べさせてもらったのだ。それについてはどうか許して欲しい。其方は学問全般、それも政治経済がずば抜けて優れていた。それでどうだろう? 今の急話を聞いてどう思った? 私は其方を我がベルガード帝国の財務大宮に推薦したいと思うのだが?」


 流石のネヘミア嬢も驚いている。大きな目がパチパチと瞬いていた。だがしかし黄金色の視線がゆっくりと私へ向く。


「あのう、発言よろしいでしょうか?」


 私は快く許可を出す。


「ベルガード帝国ほどの繁栄と豊穣の大国に次代の財務大宮は居ないのでしょうか?」


 至極真っ当な質問もネヘミア嬢らしいと言えばらしいか。


「残念ながら、そっくりそのまま代わりになる者は居ないのだ。大国ならではの悩みだな。少し力の及ばない輩がうじゃうじゃ居るという方が正しいか。その有象無象が足を引っ張りあっているのだ・・・元々私が歴訪を終えた暁に次の財務大宮を選定する予定だったのだが・・・」


 尚もネヘミア嬢は困惑の色を隠せない。


「お調べになっているのなら、ご存知かと思いますが・・・私はまだ18歳でございます。数多の優秀な方々を差し置いてしまう事を、果たしてベルガード帝国の貴族や民達が認めてくれるでしょうか?」


 私は要点を瞬時に理解し己れの立ち位置すら解して真っ当な答えを返すネヘミア嬢とのやりとりが心地良いと感じた。


(やはり連れて帰りたい。そして行く末は・・・)


「ネヘミア嬢、其方はこのバレリア王国の不当な男社会の中で埋もれて生きたいのだろうか? どんなに努力してもこのバレリア王国ではいずれ全てが覆い被されネヘミア嬢の真価は発揮されないだろう・・・

我が帝国へ来てくれ!其方を掬い上げてみせる」



 配下に筆記具と紙を用意させた。

 私は迷う事なくサラサラとペンを走らせ契約書の下地になるものを作った。


 数枚に渡る未完成の契約書に目を通して納得すると、私はネヘミア嬢の座るテーブルの前にずらりと並べた。ネヘミア嬢を獲得する為には幾らでも後から修正可能な契約書だ。


(さぁ、どう出る? ネヘミア嬢・・・)




 ネヘミアは(仮)の契約書から目が離せなかった。


(凄い!凄すぎる!)

 私は目の前に並べられた破格の条件に生唾をゴクリと飲み込んだ。


 人様の死の上に成り立った条件に戸惑いが無いと言えば嘘になるけど、自国であるバレリア王国で生きている限り二度と巡り会えない好機なのだから心が躍ってしまうのは仕方がない事なのだ。


 家族は何も言わない。私の意思だけを尊重しようとする思いが痛いほど深く伝わってくる。


 私へ当てられる破格の給金を家族に送れば領地民を守りながら他の領地へ移住をさせる事が出来るだろう。

 そして領地民の心配が無くなれば安心して静かにピュリモンド侯爵家を閉じる事が出来るだろう。


 今の私は家族あっての私だ。


 私の力で少しでも恩返しが出来るなら戸惑ってなどいられない。



 御前のリヴァイ皇帝がクックッと笑い私に挑戦的な言葉を放った。


「ネヘミア嬢、其方には大いに期待しているよ。私の期待を裏切らないでくれたまえ」


(ああ、はいはい・・・是非ともお給金の分だけ働かせてもらいますよ。3年働けば両親の元に帰してくれるという条件も良い。働きながら引き継ぎを無事済ませれば大手を振って両親の元へ帰れるのだ)



「皇帝陛下、謹んで承ります」


 立ち上がった私は片手を胸に当て仰々しく頭を下げた。


(さぁ、これで満足かしら? 皇帝様・・・)


 その場は三者三様、各々思うところが有るだろうが和やかに書類が飛び交い、署名がなされベルガード皇帝はホクホク顔でピュリモンド侯爵邸を後にした。


 

 だか、私はすんなりと無事にバレリア王国から出国する事は叶わなかった。





最後まで読んでいただいてありがとうございました。

少しずつ進展するお話を楽しんでいただければ嬉しいです(^^♪

明日もよろしくお願いします。


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