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皇帝だろうが恋は突然落ちてくる

 

 果てしなく続く大陸で他の追随など一切合切許さない、そんな大帝国が存在した。

 その名は《ベルガード帝国》ーー

 悠久の歴史を連綿と紡ぐベルガード帝国は名実共に大陸一と誰もが認めざるを得なかった。



 我が名はベルガード帝国の現皇帝リヴァイである。


(はぁ・・・ネヘミアに会いたい)


 皇帝リヴァイは自身の執務机から背を向けて窓の外を物思いに耽って眺めていた。


(ネヘミアに・・・触れたい)


自分でも不埒な考えだと思う。


 コの字型の巨大な帝城の皇宮中央部に皇帝である私の執務室があり、隣の部屋でネヘミアが嬉々として執務に従事している姿が目に浮かんでいた。


先程、皇帝である私が自らネヘミアの執務室に出向いたのに忙しいからと扉さえ開けてもくれなかった。鉄壁の完全無視をされている。



( ネヘミア・・・私はただ君の側にいたいのだ。焦れて・・・ 胸が苦しくて・・・ )


知らず知らずのうちに私は胸元をギュッと握り締め長く嘆息した。


 私がこれほど恋焦がれるネヘミアは執務を簡単に推し進める事を容認しない美しくも尊き性格の持ち主だった。


 より深く・・・

 より効率的に・・・

 より成果を・・・

 


(全く、文句のつけだころが無い。 きっと・・・ いや、ネヘミアを見つけられた事が私史上の最強な幸運でしかないのだろう。 臣下としてネヘミアほど貴重な人材は滅多に居ないのだから・・・だが私は、異性として彼女を求めている。 ネヘミアの心を欲しがっている事が問題だと? くそっ! )



「この私が愛という感情を知ってしまったとは・・・な・・・」


いつも皇帝リヴァイに付いて回った渾名は冷酷無比な完璧主義者であり紫掛かった黒髪に赤目の美丈夫は誰もが惹きつけられるほど凛々しかった。

なのにネヘミアの前でだけリヴァイは勝手が違ったのだ。




✳︎ ✳︎ ✳︎


 先代皇帝の喪が明け戴冠式を終えた私が真っ先に実行した事は牽制と実態調査を兼ねた諸外国への歴訪だった。


 先帝亡き後も鉄壁の侍臣達がベルガード帝国を守り安定しているからこそ他国へ行く事が許される。

 周辺国への移動時間諸々を考えても半年が限度だったが。


 文字通りの歴訪である。短期間の訪問は予定の組み方が効率に大きく関わるものだ。

 

 帝国ベルガードの冠を載せたばかりのクソ忙しい時期に各国を回らざるを得なかった一番の理由は私が弱冠19歳という若さと婚約者も居ない新皇帝王になったが故だった。


 殆どの国は敬意を払い友好的であったが中には舐め腐って攻め入る隙を窺う不届きな国があるのも事実だった。

 そんな国は直接行って様子を見れば一目瞭然で時間調整に配慮なんて端から期待なんぞ出来ない。

 そこを見極めこれからの外交に活かせば良いのだ。


 順調に周辺国の様子を炙り出す事に成功していた。自国の美姫達や高貴な貴族の息女達を売り込まれるのも想定内だった。勿論、適度にサラリと避ける事も忘れない。


 残すは隣国のバレリア王国のみとなった。


 私は馬車で事前調査の資料に目を通す。

 バレリア王国に来るのは幼い頃を含めて3回目だ。平凡な国だが目を背けたくなる程に男尊女卑が酷い国で、国の重鎮は軒並み男社会の塊であり女性といえば王妃、王女くらいしか頭を下げてもらえないのである。



 出迎えるバレリア国王をはじめとした諸大臣達の群れの中にポツンと華が一輪咲いていた。



(ほう・・・)


 ベルガード帝国では珍しい真紅の髪と黄金の瞳。素直に美しいと思った。


 正直、周辺国の言語は理解している。

 だが言葉が分からないからと偶に出てくる相手の本音こそ聞く価値があると言うものだ。


 バレリアの集団から一輪の華が私の前に立つと優雅にカーテシーをした。

 とても流暢なベルガード語を操り歓迎の言葉を紡いでくれる。


 後ろにいたバレリア国王が笑顔とは裏腹に随分と乱暴な口調で通訳をさせようとしていた。


「おい、この若造に歓迎の食事会を予定しているから、それまで部屋で休んでいろと伝えろ」


とても一国の王の発言とは思えない。

 それなのに華は顔色も変えずに見事に礼儀正しく言葉を変換する。


 また違う大臣風情が顔では笑いながら華に乱暴な言葉を投げつける。


「若造にはお前が部屋に案内するとも伝えろ」


 またもや華は聴き馴染みの良い完璧な変換をしながら丁寧な言葉で伝えてくる。

 

 私は綽綽と頷きながらも内心この華に興味が湧いていた。

 


「其方の名は?」


 華は一瞬ピクリとしたがすぐに元の澄ました顔に戻り自己紹介をした。


「失礼致しました。国王はじめ大臣閣下殿を差し置き自己紹介をする事が憚られました故。 私は・・・

ピュリモンド侯爵家が次女、

ネヘミア・ピュリモンドと申します 」


 背後の国王や大臣達が騒いでいる。

( チッ! 五月蝿い奴らだ 。それにしても・・・ )

私はある種の考えが浮かび、ネヘミア嬢を試す様に乱雑な言葉を放ってみた。


「 全く五月蝿い小蝿達だ。女性が自分達より先に自己紹介をした事がそんなに気に食わないのか? 肝の小ささに呆れてしまうが? 」


 私がニコリとしてネヘミア嬢のやり様を見る事にする。


 ネヘミア嬢は軽く振り返り通訳?らしきものをした。


「 尊きベルガード皇帝は大臣達との歓迎会を楽しみにしていると仰っております。また通訳をする者の名を聞くのはマナーであるとも・・・国王陛下、また各諸大臣殿、無闇に騒ぎ立てると皇帝陛下は不審に思われるかと・・・」


 途端に小蝿達は静まり返った。


 私の片眉が上がり口元には隠しきれない小さな笑みが浮かんでいた。


 心底感嘆したのだ。


(中々やるな、ネヘミア嬢。見事な立ち回りだ )


それにしても男尊女卑の酷いこの国で女性として、ただ1人同席を許され通訳まで熟すとは。外交力の高さは素晴らしい。

 私は配下に小声でネヘミア嬢について調べる様に命令した。


  たった数こと言葉を交わしただけなのに?


なぜか気になる・・・

 素直に心の声に従ってみたくなった。

こんな事は初めての事で異例中の異例である。ベルガード帝国内でも歴訪中の各国々全てにおいても女性の素性を調べてみたくなる日が来るとは・・・



 ネヘミア嬢は部屋へ案内する為か、私から少し距離を置き待っている。

 その立ち姿は背筋をキリリと伸ばしているのに変な窮屈さは無く悠然と構えていた。

 ときおり風に揺れる真紅の髪が陽の光と同化してキラキラと靡いている。


私はあまりにも美しい光景に目が見開いた。


 その煌めく赤髪の先がどこに向かって流れているのか気になって目が離せなかったのだ。



 赤い髪が特別好きだと思ったことなど無かった。

 黄金色の瞳が特別美しいと思った事も無かった。

 

 それなのに・・・・・・


 無自覚に見惚れていた私と黄金色に輝くネヘミア嬢の瞳がかち合った。

 

 ネヘミア嬢の真っ直ぐ向ける視線から私が先に目を逸らしてしまった。

 気持ちが昂る感覚を自覚すると赤くなりそうな顔を誤魔化す事が出来そうになかったからだ。


 私はそっと胸を押さえて繰り返し深呼吸をした。


(くそっ!)

 ドキドキと止まない胸の高鳴りに困惑するしかなかった。

 噂では聞いていたし知識では理解していた。


まさか!私が!?

 これが・・・恋というモノなのか・・・? 馬鹿なっ。


 今まで知らなかった感情を素直には認めたくない。


 まだ分からないじゃないか! と心の中で無駄な抵抗してみる。


 私は確かめるようにもう一度ネヘミア嬢を見つめると、またしても視線に絡めとられてしまった。

 


 ドックン!ドックン!・・・・・・

 痛いほど強く高鳴る心臓が・・・ それは恋なのだと・・・

素直に認めろと告げて来た!



(・・・はあ・・・参ったな・・・)








これから10話完結のお話にお付き合いください(*^-^*)

リヴァイ皇帝とネヘミアの二人交互の気持ちを伝えていけたらいいなぁと思いながら書きました。

ああ、読者様へ伝わる事を祈ってます(;´・ω・)


最後まで読んでいただいてありがとうございました(#^.^#)

とても嬉しいです。本当です!


よろしければブックマークの登録と高評価をお願いしますm(__)m。


そしてこれからの励みになりますので

面白ければ★★★★★をつまらなければ★☆☆☆☆を押して

いただければ幸いです。



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