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赤い扉と雨とあなたと

作者: 牧場のばら

「別れて欲しい」

 

 恋人は隣に女性を連れていた。なかなか都合が合わず、久しぶりにデートに誘われた結果がこれである。覚悟はしていたが、いざ直面するとうまく返事が出来る気がしない。それでもユリアはなんとか冷静を装って、淑女の笑みを浮かべた。


「いつかこんな日が来るとわかっていたわ、さようなら」

「ちょっと待てよ。指輪を返して欲しいんだ」


 ユリアは立ち上がると無言で立ち去った。後ろなんて振り向かない。指輪がどうのこうの言っていたが知らない。

 3年も付き合ったのに、街中のカフェで別れを切り出すなんて、しかも浮気相手を連れてきて。最後まで無神経な人だったわ、泣くもんですかとユリアは唇を噛み締めた。代わりにポツリと空からは涙雨。急がないと濡れてしまう。慌てて走り出したが、同じく雨を避ける人の群れに巻き込まれ流され、つい反対方向へと足が進んでしまった。

 いよいよ雨足が強い。考える暇もなくユリアは目の前の小さな赤い扉を開けて中に飛び込んだ。



 ゆらゆらと揺れているのはランプの灯。外の喧騒が嘘の様に静かな空間がそこにあった。

 ハンカチを出して濡れた髪を拭うと、声をかけられた。

「やあ、いらっしゃい。雨宿りかい?出来たら商品も見ていっておくれよ」


 小さな店だ。道路に面した壁には曇り硝子の窓があり、何の店かわからぬまま、ただ赤い小さな扉に吸い寄せられるかのように飛び込んだのだった。


「あ、ごめんなさい。赤い扉が目についたので」


 ゆっくりと店内を見渡すと、そこは珍しい古道具屋であった。そういえばチクタクと針の音がしている。慌ていたので気がついていなかった。一周ぐるりと目を動かすと、古い時計や装身具、オルゴールに人形達、そして片隅に積み上げられた箱やガラクタの隙間から、眼鏡をかけた男がこちらを見ていた。ユリアは思わず身体を固くした。


「驚かせて悪かったね。ここは常連さんしか来ないから、珍しいお客さんに思わず声をかけたんだけど、君かなり濡れているし泣いている。まあゆっくりしていきなよ。お茶くらい出すよ」


 泣いている?そんなわけないわと頬に指を這わせると、確かに濡れている。これは雨の名残であって、涙なんかじゃない。


 男ががさごそと立ち上がり、ユリアは後ずさったが背面は赤い扉だから逃げ道はない。男は思いのほか背が高かった。黒縁のメガネをかけて長い前髪が垂れているから表情はよくわからないが、まだ若い男だ。白いシャツから伸びる手はシミひとつなく美しい。道具屋さんなのに似合わないほど綺麗な手だと、ユリアは思わずじっと見てしまった。


「あ、ごめん。図体がでかくて大概の客に驚かれるんだ」

「いえ。雨宿りをさせていただいているだけですのでどうぞお気遣いなく」

「まあまあそう言わずに、僕の休憩に付き合ってくれないかい?今日初めてのお客さんだから、冷やかしでも歓迎するよ」



「そう、それはなんともご愁傷様」


 お茶は想像以上に美味しくて冷えた身体を温めてくれた。お茶受けにと出された焼き菓子も上品な甘味で、ユリアはようやく生き返った気分になった。さっきのカフェでは何も喉を通らなかったのだ。

 青年はメガネを外し、長い髪を後ろにひとまとめに結えた。メガネの奥の瞳はブルーグレーで、すっきりと通った鼻梁に形の良い上品な口元、豊かな黒髪は濡れた様にしっとりしている。濡れたのはユリアの方だと言うのに。


「見たところ、良いところのお嬢さんがこんな下町にいたら目立つよね」

「いえ、わたしはただの平民。久しぶりに恋人に会うので精一杯お洒落してきたの。相手は業務連絡のように別れを告げたと言うのに、わたしの気合いが入っていたからさぞかし滑稽だったでしょうね」


 聞けば青年はユリアと同じ22歳で、祖母の残したこの店を守っているのだと言う。ただ本業との兼ね合いで開いているのは週末のみ。

「だから君は運が良かったんだよ。ここはいわゆる知る人ぞ知る店でね、この店にあるのはいろんな由来を持った珍しい品物ばかりなんだ。だから常連さんしかやってこないんだよ」


 こじんまりした店内は雑多なように見えて、それぞれが各々の居場所にきちんと収まっているようだ。決まったものは決まった位置へ、その正しいあり方がユリアには心地よかった。お茶もきっと高級な茶葉だろう。何より青年の持つ柔らかな雰囲気は、ささくれだったユリアの心の棘を抜くのに役立った。

 だから、どうしてこんなところに?と問われるまま、先ほどの出来事を自嘲気味に話してしまったのは仕方のない事だ。


「でも結婚前で良かったのでは?後から愛人が現れると面倒だよ」

「それはそうだけど、この3年は一体なんだったのかと情けなくて」

 なんとはなしに指輪を触っていたら、お茶のお代わりを注ぎながら青年が尋ねてきた。


「ねぇ、その指輪。恋人に貰ったの?君さえ良ければ作り直してあげようか、もちろん代金はいただくけれど」

「1年くらい前に婚約の証だと貰ったんだけど、縁起が悪いからこれは捨てるわ」


 ヴァルターと名乗った青年は、それは勿体無い、この石は貴重な石だよと言って

「それなら僕が買い取るというのはどう?慰謝料くらいにはなるんじゃないかな」


 婚約の証として恋人から贈られた指輪は、恋人の実家の元貴族の家に伝わる逸品だとは聞いた事がある。新しい物を贈る余裕がないから古くて悪いけどと、申し訳なさそうに渡されたのだ。ただサイズが大きくて指に嵌めたら落としそうだから、いつもは大切にしまっていた。

 ユリアの瞳のような緑色の石は貰った時は曇っていたので、保管が良くなかったのかもしれない。それを気がつくたびに磨いたので、少しは輝きも戻っているはず。


「この大きさの石は中々見かけなくてね。指輪だと目立つけど小さくしてネックレスと耳飾りにしても、かなりの値段がつくよ」


「捨てるつもりだったから、雨宿りと美味しいお茶のお礼に貴方に差し上げるわ。お金なんて要らないわ」


「そう言わずに僕に買い取らせて欲しい。君がお金は要らないと言うなら、欲しい物と物々交換ならどうだろう。君にはガラクタにしか見えないかもしれないけど、ここには価値のある掘り出し物も多いんだよ」

 

 茶目っけたっぷりに片目をウインクしたヴァルターに、ユリアはなんだかどきどきしてしまった。その上楽しい気分になったので、その条件をありがたく受け入れる事にした。


「お勧めの品物を見繕ってくださいな。ヴァルターさんの目利きを信じるわ」

「じゃあ決まりだね。来週またおいで。ああ、雨が上がったみたいだ」


 空には虹が見えた。ユリアは改めて古道具屋を尋ねる約束をして店を出た。

 


 次の休みに店を訪れたユリアは、引越しの世話を頼むこととなった。

 いずれ一緒に暮らすからと借りていた大きめの部屋から、すぐに引っ越すように勧めたのはヴァルターだ。なんだか別れた男が押しかけてくるような気がするから引越した方が良いと言われて、ユリア自身も危機感を覚えたのだ。 

 引っ越すと決めたその日のうちに新しい部屋を決めた。顔の広いヴァルターが紹介してくれたのは、程よく静かで、さりとて家賃はそこそこといった好物件で、ユリアは一目で気に入ってしまった。もともと自分の荷物は少なかったので、2日後には引っ越しを終えていた。ヴァルターが手伝ってくれたのはありがたかった。その上引越し祝いだと美しいステンドグラスを施したランプまで貰ってしまった。

 ユリアは申し訳ない気持ちになったが、あの指輪と物々交換だからと言い切られたので、ありがたく感謝した。


「でもまだこれじゃ追いつかないから、他の品物も探してよ」

 

 ランプは充分価値があると思うのだが、ヴァルターは譲らなかった。だから、交換したい品が見つかるまで定期的にここに通って欲しいと言うのだった。


 元恋人のヘンリーの荷物は全て送り返し、ついでにヘンリーが好む地味で暗い色の衣装も処分して明るい色のワンピースを何枚か新調した。結婚のために貯めていたお金は引越しと衣服や靴に使って、ユリアは生まれ変わった気分だ。

 服に関しては、ユリアが着飾って他の男にもてるのが心配だからという自分勝手な理由で制限されていたが、ヘンリーに束縛されていたのだと思う。

 見知らぬ土地へひとりでやってきて、初めて親切にしてくれたのがヘンリーだったので依存していたのかもしれない。しかし、経理の仕事を得て自立している今なら、ただ優しいだけで頼りないヘンリーがいなくても何も問題なかった。それにヘンリーのその優しさはユリアだけに向いているわけではなかった。


 そもそもヘンリーの浮気は今に始まった事ではなく過去にも2度あって、今回が3度目の正直というわけだ。

 顔はとびきり良いので女の子から言い寄られるヘンリーは、つい魔が差してしまったんだ、すまなかった許してくれと土下座して謝ったので、ユリアは二度とも許してしまった。しかし、そんな事が何度もあると流石に心は冷めてくる。信じたい気持ちもあったがそろそろ潮時だったのかもしれない。

 情はあったが愛とは言えず、それゆえ未練はない。一番辛かった当日に飲んだ温かいお茶が、意固地になっていた心を解きほぐしてくれたとユリアは思った。


 さあ、引越しもしたし心機一転、休みの日に古道具屋を訪ねるのが楽しみだわ、何が見つかるかしら。



 ところがその楽しい気分が台無しにされたのは、ヴァルターの元へ向かう途中、別れを切り出された例のカフェの前に差し掛かった時だった。ヘンリーが強張った表情で立っていたのである。

 ユリアは一瞬眉を顰めたが、ヘンリーを無視して進もうとしたが、いきなり腕を掴まれたのだった。


「ユリア!探したんだぞ!」


 全く今さら何の用事だと言うのだろう。ヘンリーの隣にはあの女も控えている。ユリアはため息をついた。

「何かご用ですか?」

「あの指輪、返して欲しいんだよ。あれは我が家に伝わる価値のあるもので、お前が持っていて良い物じゃない」

「婚約の証に渡したものを返せってこと?みっともないと思わないの?」

「つべこべ言わずに渡せよ」

「無理よ。もう手元にないわ。()()()が貴方を捨てた日に指輪も捨ててしまったから」

「何だって?捨てた?お前正気か?指輪を捨てたって……それにお前を捨てたのは俺の方だ、お前みたいなお高くとまったつまらない女と3年も付き合ってやったってのに、この役立たずが!」


 ああ、こんな男の事が好きで結婚するつもりで、愛し愛されていると思っていたんだ。ユリアは情けなさと悲しさで胸が痛んだ。掴まれた腕も痛い。


「どうせそこにいる貴方の新しい彼女が、強請ってきたのでしょう?あの指輪ってとても貴重な物だったみたいね、知ってるのよ」

「……知ってるってお前。言ってる意味がわかってるのか?それなら何故捨てた?どこに捨てたんだ!」


 元恋人だった男は今度はユリアの胸ぐらを掴んで殴りかかろうとした。ユリアは目を瞑り衝撃に耐えようとしたが、いつまでたっても何も起こらない。


「き、貴様ー!邪魔するな、手を離せっ!」

 叫んでいるのはヘンリーだ。ユリアを掴んでいた手が離れたので素早く離れたが恐怖で足が震えていた。


「騒ぐと困るのはあんたの方じゃないのか。指輪、というよりエメラルドは、黙って正しい持ち主に返した方が良いのではないかね」

「なっ!何の事だか。俺は女にやった指輪を取り返して、新しい恋人に渡したいだけだ」

「あんたの新しい恋人ね、逃げ出したぜ?ついでにあんたの事は恋人ではなく警邏隊がお待ちかねだ」




「つまり、この指輪はずいぶん昔に行方がわからなくなっていた公爵家秘蔵のものだと?」


 その通りと、ヴァルターは頷いた。

「ひとめ見て気がついたので、なんとか君には負担をかけないように譲り受けたのに、あいつが出てきて君に暴力を振るおうとしたからややこしくなった」


「ヘンリーは指輪の事知っていたの?」 


「奴の実家は元男爵家でね。かつて大層魅力的なご令嬢がいたらしいんだ。ヘンリーの祖父の妹にあたる。

 その娘が当時の公爵家の嫡男を誑かして貢がせた中に、先祖代々伝わるエメラルドがあったというわけなんだ。もっとも公爵家は貢いだのではなく盗まれたと主張している。

 いずれにしても正気に返った嫡男から拒絶され捨てられた男爵家の娘は、指輪ごと行方をくらましてしまい、世間を騒がせたと責任を取って、男爵家は爵位を返上したんだ」


「指輪は、ヘンリーの実家、つまり男爵家の人たちがずっと隠し持っていたのね」


 ヘンリーはエメラルドの指輪の持つ正しい価値を知らず、古臭いが悪くはない品物だと聞いていたので、ユリアに婚約の証だとして渡してしまった。精巧な作りのガラス玉だと思っていたのだ。本物そっくりの、悪くない()()()()の逸品だと。

 ところがある日、たまたま読んだ大衆紙に面白おかしく掲載された『毒婦と消えた指輪』なる記事を読んで、自分の家にあったガラス玉の指輪が、公爵家に代々伝わって来た行方不明のエメラルドだと気がついた。

 祖父母も父も没落の経緯を話さなかったが、記事にはぼかしてあるものの、男爵家の系図が乗っていたので、自分の一族だとわかったのだった。


 ヘンリーはなんとかしてユリアから指輪を取り戻そうと考えた。今つきあっている女からも、ユリアと早く別れてくれと急かされた、その結果があのカフェでの別れ話だった。あの日、ヘンリーはユリアから指輪を取り戻すつもりだった。売り飛ばせばひと財産になると、短絡的に考えたのだ。

 ところがユリアは一目散にカフェから出ていくし、追いかけようにも激しい雨にあって、ユリアの後を追う事ができなかった。おまけに新しい恋人は嫉妬深くて、ユリアの家に近づく事も出来ない。夜中にこっそり家に忍び込むつもりでいたら、早々に引越ししていた。

 3年も付き合ったのに、ヘンリーはユリアの私生活を知らない。どういう出自でどこで働いているか尋ねた事がなかった。町でたまたま出会い口説いた女がユリアで、身持ちが固く身体を許してはくれないが、いつも凛として気高く高嶺の花のようなユリアを逃すつもりはさらさらなかった。

 だから浮気はしたものの、本命はユリアだけ。それが新しい浮気相手に出会って身体から籠絡されてしまった。


 その後、暴行の現行犯で警邏隊に連れて行かれたヘンリーは、指輪を取り返そうとしたんだ!あれは俺の物だと大暴れしたらしいが、その指輪とは過去に盗難の届け出が出ていた公爵家のエメラルドの指輪だと判明して、さらに勾留される事となった。

 ヘンリーは元男爵家の人間だが、最近までエメラルドにまつわる事情を知らなかったという事でようやく解放された。ただし、ユリアには今後一切近付かないと念書を書かされた。



「ヴァルターさん、いえ、ヴァルター様。貴方は公爵家の方ですのね」


「いやだな、ユリアさん。そんな畏まらないで欲しいなあ。確かに生まれは公爵家だけれど、僕は後継でもないお気楽な三男坊、ゆくゆくは立派な平民だよ」


「そうだとしても、指輪を見てひとめでそれが公爵家の行方不明のエメラルドだとお気付きになられたんですよね。それならわざわざ回りくどい事をせずに、本当の事を仰ってくだされば宜しかったと存じますわ。

 そのような貴重な物を、わたしのような平民が手にして良いものではございませんから」


 ヴァルターはぷっと吹き出した。

「ユリア嬢こそ、かつての令嬢時代を思い出した?話し方、立ち居振る舞い、平民じゃないよね」


 ユリアは黙り込む。


「僕たちお互い秘密があるようだね。だけど真実を知るのは今必要な事かな?

 僕たちは、あの日雨宿りにやってきた君と、古道具屋の店主、それじゃ駄目だろうか」


 ヴァルターは綺麗な箱に収められた美しい細工の菓子を取り出した。

「これね、チョコレートって言うんだ。とても甘くて少し苦くて不思議に癖になるよ。公爵家へお使いに行って貰ったんだ。さ、どうぞ」

 ユリアは小さなチョコレートを一粒つまむ。花の形の砂糖細工が上に乗っているので甘さが更に増している。


「美味しい」

「でしょ、良かったらこれからもお菓子を食べに来てよ。まだ交換の品を選んで貰っていないしね」

「いえ、あれは公爵家の持ち物ですから。正しい場所へお返しさせていただけて、わたしも安心です」

「ほら、また畏まる。僕たちはもっとよくお互いを知り合った方が良さそうだね」

「え?」

「だって運命じゃないか。大雨の日に君がこの店にやって来たのは、エメラルドの導きじゃないかと思わないかい?エメラルドに縁のある一族の僕と、あの指輪を一年近く持っていた君とが出会うなんてさ」

「ヴァルター様はまさか、エメラルドが導いたとでも?」

「そう思った方が何となく楽しいでしょ」


 ユリアはちょっと呆れた目でヴァルターを睨みつけた。

「ここはね、お祖母様の秘密の隠れ家だったんだよ。お祖母様とお祖父様は婚約していたのだけど、とある男爵令嬢に熱をあげたお祖父様に蔑ろにされてね。

お祖母様の実家の侯爵家は、下賎な女に婚約者を取られるお前が悪いって、放逐しようとしたんだ。その時ここに逃げ込んできた。お気に入りのものを集めて小さな店を開いたんだよ。それがここ」


「それで、お祖母様は?」


「うん。正気に返ったお祖父様が迎えに来て無事結ばれたから、僕が今ここにいるよ」


 ヴァルターは眼鏡を外して磨きながら、何気なくつぶやいた。


「あの雨の日に君をここに連れて来たのは、その指輪だと思うんだよ。だから、僕たちはもっと良く知り合った方が良いと思うんだ。今はまだ友達だけどさ」


「え?」


「僕の秘密も君の秘密もゆっくりと知ればいいって事。あ、また雨が降って来た。しばらく雨宿りしていきなよ、ね、ユリア?」


 照れくさそうにユリアの名前を呼び捨てにしたヴァルターに、ユリアは微笑みかけた。


「そうね、ヴァルター。貴方は古道具店の店主のただのヴァルターで、わたしは平民のユリアですもの。部屋を紹介してくれたし、暴漢から守ってくれた、頼もしい友達ね」


「あ、ああ、まだ今は友達だけどね、そのうち……」

「そのうち?」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。


 曇りガラスの窓の外はしとしとと雨が降り続いている。時計の針の進む音が静かに響いていた。


 

 

 

お読みいただきありがとうございます。

ヴァルターの事情も、ユリアの事情もここでは出て来ませんが、ユリアはおそらくヴァルターのお祖母様と同じ様な立場。だからあの指輪が高価な物である事もわかっていたけれど、敢えて知らんふりをしました。

ヴァルターは三男なので自由気ままです。


誤字脱字、気をつけていても抜けていていつもあります。ご報告いただければ幸いです。




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