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ぼくとさいごのたいふう

pixivにも投稿していた作品です

比較的後に書いた作品なのでマシな文章にはなってると思いますなってたらいいなぁなっててくれ

閉めたはずの窓の隙間を強引に抜けてきた風の音

強い強い風に叩かれて揺れてざわめく木々の音

それにどこか似ている我先にと濡れたアスファルトの上を駆けていく車の音

そしてつけっぱなしのテレビから聞こえるニュースキャスターの“音”


『日本南部を直撃する未曾有の巨大台風0号は、以前勢力を増しており、住民は船舶での避難及びシェルターなどへの避難を…』


僕の住んでいる家もずいぶん前からずっとミシミシメシメシと音をあげていて、早く逃げろと言っているようにも行かないでと泣いてるようにも聞こえるのが不思議でどうにも面白い

広くも狭くもない畳が敷かれた部屋で僕は大の字で寝転がり、僕の頭の横には女の人が座っている


「お前は逃げぬのかい?」

「……うん」

「そうか…」


僕の癖っ毛をほぐすように誰かが頭を撫でてくれている

僕はこの日本の隅っこに住むただの中学生の子供だった

ただ人より本を読むのが好きで、普通の子よりも活字を好むだけのただの子供

そんな僕がインターネットで書いていた小説は都会にあるとある出版社の人に見つかり、よくわからないうちに本として販売される事になっていて…たくさんのお金が僕のところへ入ってきた

だけど僕は特にお金を使う目的がなくて、欲しかったゲーム機やゲームを買い漁るとどんどん入ってくるお金が邪魔になってしまった


「少し思い出話をせんか?」

「うん」

「お主と出会って何年じゃったかのう…多分かれこれ5年くらいか?」

「うん」


わしの記憶力も捨てたもんじゃなかろう?と笑う狐の耳を生やした女の人、彼女は5年前に僕がイタズラした神社の人だ


「お賽銭箱に札束を放り込まれたのは流石に驚いたわい、でもお主がわしを見た時の反応はなかなか面白かったぞ?」


そう、引き下ろしたお金を全部神社の賽銭箱へと僕は突っ込んだのだ

奥からドタドタと走ってきた彼女の金色の髪を見て、僕は思わず


『ハロー?』

『日本産じゃい!!』


金髪に狐耳生やした巫女装束の女性なんて日本を勘違いした外国人コスプレイヤーくらいだと思っていたが、どうやら神様も同じ格好をするらしい


「お賽銭は返せと言われても返せぬから入れるなと何度言うてもお主は毎日札束を入れよったなぁ」

「へへへ…うん」


札束を毎日放り込む僕に彼女が問いかけてきた日もあった


『そんな毎日同じイタズラをしよって…もっと自分の人生を豊かにしようとか思わんのか』

『うん』

『そのうんってのはどっちじゃ?豊かにする気がないのか?それともあるのか?』

『うーん……』

『“う”と“ん”以外の文字も使わんか!残りの44音が泣いておるぞ!?』

『……僕ね、生きたくないんだ』


その時の会話を神様も思い出しているのか、どこか寂しそうな顔をしながら僕の顔を見ている


『お父さんもお母さんも僕を置いてお家に帰っちゃった』

『そいつは難儀な親じゃのう』

『ううん、毎日怒られて殴られてたから今の方が幸せ』

『……そうか、そいつは難儀な大人たちじゃったのう…』


僕の顔や腕にある火傷の痕を撫ぜられるのを感じながら、なんとなく遠くの音に耳を澄ます

あぁガラスの割れる音がする、きっとどこかの家に何かが突っ込んだな

これは木材が折れる音かな?確か近所のお婆さんが住んでた家は木造だったっけ

瓦割りの映像はテレビやネットで見たことがあったけど、本物の瓦が割れる音もなかなか小気味いいな

なんとなく見た庭は雨と海水で水浸しを超えてちゃぷちゃぷと潤っていた


「お主が来るようになってから、何だかんだと退屈せんかったわい」

「うん」

「そういえばお主はわしのことは怖がらんくせに寝こけて夜の神社から帰るとなった時は随分と怯えておったのう」

「…………」

「かっかっか!そう睨むな睨むな、可愛らしかったという意味じゃよ」


それを理解した上で睨んでるんだよともう一度睨んでやると、彼女はヘラヘラとした顔のまま頭をもう一度撫でてくれる

それで僕も嬉しくなって誤魔化されてしまう流れも、もう数え切れない

外ではついに自転車が飛んだり車が流されたり、自販機って空を飛ぶんだな…びっくりしてしまった


「毎年過去最大の台風だ〜なんて人間は騒いでおったが、これからはそんな事も言えんじゃろうなぁ…くくっ」

「うん」


これを超える台風が来たら今度こそ日本は沈没するだろうな、僕どころか僕の親の親の親の親の親よりもきっと長生きしてきたであろう彼女は今後の人類を憂いて笑った

そしてもう一度僕の顔を覗き込んでくる…さっきと同じように頭を撫で、そしてポロポロと涙をこぼして僕の顔を見つめていた


「……お主は本当に逃げぬのか?」

「……ここが良いんだ、貴女の隣がいい」

「そうか……くくっ、物好きめが」


そう言って笑う彼女の頬を僕はそっと撫で

飛んでくる瓦礫や押し寄せる津波を見つめながら、不思議なほど静かに感じる数秒を過ごして

神社から持ってきた狐のお面を抱きしめて、僕は崩れる家に、僕の体は押しつ…





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