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プロローグ
やっぱり血は温かい。
江口翔は死に際にそう思った。逆を言えば、そんな事しか思わなかった。
人は、一生の中で平均にして十六回も殺人犯とすれ違っているらしい。あくまで単純計算をした確率論的なものに過ぎないが。
翔は、いわゆる通り魔というやつに殺された。運の悪さがここにきても発揮された。
春の雨の中、翔が視線の定まらない目のまま歩いていた時、路地裏でまんまとやられてしまった。翔は、自分の血が流れ出るのが嫌というほど感じた。ちなみに犯人は、翔が最初の犠牲者となってあっさりと捕まった。
翔は、何ともダサい死に方をしたものだと自分を嘲笑した。こんな事になるのなら、自分で死ねばよかったとも考えた。
しかし、自分が死のうが誰も何とも思わないのだから、もうどうでもよかった。