第9話 咄嗟の二秒
「あっはっは。身体強化魔法をかけていたとはいえ、さすがに生身だと効くなぁ~」
スウェンは笑いながら地面に座っている。
爆発の規模は小屋ぐらいなら木っ端微塵にできるレベルで、
その爆発を間近で受けたのに原型を留めているスウェンにランマは驚きを隠せない。
(今のを受けてかすり傷程度……!? コートも一切傷ついてない。コートが特別性なのか? いや、それよりなんで――)
ララの姿はない。完璧に弾け飛んでいる。
だがララの消しとんだ跡に、黒こげの物体がある。半分炭化しているが、輪郭はわかる。
(これは……弓矢の矢、か?)
スウェンはコートに付着した土埃をはたき、立ち上がる。
「一応言っておくけど、彼女が死んだのは君のせいじゃない。君と会った時にはすでに彼女は死んでいたからね」
「一体なにがどうなってるんだ? まさか、ララは堕天使だったのか……?」
「いいや違う。色々と説明したいけ、ど……」
スウェンはバタ、と倒れた。
「お、おい! 大丈夫か!?」
ランマは慌てて駆け寄る。
「お前、やっぱりさっきの爆発でダメージ入ってたんじゃねぇか! 待ってろ、いま病院に――」
ぐぅ~、という音がスウェンより響く。
「いやぁ、病院じゃなくてご飯屋さんに連れて行ってくれるかな。朝から何も食べてなくてね。もう限界」
「……ただの空腹かよ」
---
ランマはスウェンを引っ張って近くにあった民衆食堂〈アイスバーグ亭〉に入った。
大量の料理を注文し、席に着く。食事が運ばれ、スウェンが大皿を4つ空にしたところでようやく話が始まった。
「生き返った! 食事は抜いちゃダメだね。反省反省」
「もう話はできるか?」
「うん。なんでも聞いて」
「まず、ララ――俺と一緒にいた女の子は一体何者だったんだ?」
「彼女は堕天使の眷属だよ。一定以上の能力を持つ堕天使は隷属の矢という物を持ってるんだ。これに射抜かれると一生奴らの眷属になる。治す方法はない」
ランマの脳裏に先ほどの黒焦げた矢が過る。
「堕天使ってのはそんなやばい能力を持ってるのかよ……」
「矢はもっとも気をつけなくてはならない攻撃だ。受けたら一発アウトだからね。天使といえば矢で相手のハートを打ち抜き魅了するイメージがあるでしょ? この隷属の矢が転じてそういうイメージを人類に抱かせたのだろうね」
「じゃあ、堕天使の野郎が……あんな女の子を爆破させたのか。あの子を矢で射抜いて、操って、爆破させたのか……!!」
スウェンは頷く。
「彼女は僕を見た瞬間に起爆態勢に入ったように見えた。きっと、この射堕天のコートが近くに寄ったら起爆するよう指示されていたんだろうね」
「……腐ってやがんな」
ランマは怒りの表情を浮かべる。
そんなランマをスウェンは嬉しそうな表情で見る。
「君、堕天使のこと元々知ってたよね。誰から聞いたの?」
「俺が通ってたアカデミーの校長に聞いたんだ。ちょっと待ってろ」
ランマはスウェンに校長からの手紙を渡す。
スウェンは封を切り、手紙に目を通す。
「へぇ、ホントに射堕天サークルに入りたいんだね。推薦者はアルヴィスさんか、凄い大物じゃない」
「俺をお前らの仲間にさせてくれ! 俺も堕天使には少なからず恨みがあるんだ。あと探してる人がいて――」
「お断りだね」
スウェンは手紙を真っ二つに破り出した。
「なっ……なにしやがる!?」
「足手まといはいらない」
「足手まといだと? 俺はお前と前に会った時より成長している! 足を引っ張らない自信はあるぞ!」
スウェンは小さくため息をつき、
「彼女が体に亀裂を入れた後、膨らむまで1秒」
「?」
「それから起爆するまでにさらに1秒。合計2秒、君には時間があった。2秒という時間を与えられながら間近で起きた異常に対し、君はなにもせずにただ突っ立っていた」
「!? それは……」
「咄嗟の2秒が生死を分ける。そういう世界だよ。僕らが生きている世界はね。回避行動をとるのが最善、自己強化魔法をかけるのが次善、防御態勢を取るのが最低限だ」
鋭い視線が突き刺さる。
実際、ランマはあの時、目の前で起きた異常に対し驚くばかりでなにも行動をしなかった。できなかった。
もしもスウェンが助けに入らなければ死にはせずとも重傷を負っていただろう。
失態を自覚した上で、ランマはどうしたらもう一度チャンスを貰えるか、そのことに意識を回していた。
「……お前、どうして一か月前、〈カーディナル〉に居たんだ?」
「僕は二か月前からこの地域に居るはずの堕天使を探しているんだ。君の町に行ったのもそれ関係だよ。その堕天使は間違いなく、ララちゃんを眷属にした堕天使と同じだ」
「お前が必死に探してるその堕天使の居場所に心当たりがある、と言ったらどうする?」
咄嗟の2秒を取り返すため、ランマはある情報を差し出すことにした。
「交換だ。情報をやるからもう一度チャンスをくれ」
「……いいよ」
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