第74話 吾輩は
吾輩は蝿である。名前はアルヴィス。
遥か昔に生まれたような、ついさっき生まれたような、よくわからぬ。
吾輩は羽を動かし、空を飛ぶ。
吾輩は蝿でありながら自分の羽で飛ぶのは初めての経験だ。とても優雅な気分だ。
ワガハイハ、ハエデアル。ナマエハアッタハズダガワスレタ。
ワガハイハ、タイソウナユメヲイダイテイタ。ソレガナニヤラ、オモイダセヌ。
ナニカニサソワレルママ、ワガハイハソラヲトブ。
ソウダ、ワガハイニハゴシュジンサマガイタ。ワガハイハゴシュジンサマノモトへイカネバナラヌ。
わがはいははえである。なまえはまだない。
くそだめでぶーんぶーんとさわいでいたこといがいおぼえていない。
なにかにさそわれるまま、わがはいはだれかのゆびのうえでとまった。
ぷち、とおとがきこえた。
わがはいがつぶれたおとだった。
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“死の宣告”の矢で射られた者はベルゼブブの眷属、蝿へと転生する。
“死の宣告”を受けたアルヴィスは蝿の姿となり、ランマの命令に従うままランマの人差し指に止まり、親指を押し付けられて潰された。
こうして、戦いは終わった。
「不思議だな」
『なにがだい?』
「お前とはずっと前から一緒だった気がする」
『うん。だってボクぁキミの側にいたから。あの〈ブリック・レーン〉に居た行商人、彼からボクのサモンコインを受け取った時、ボクぁキミの体内に因子を残したんだ』
転生術が解け、蝿が集まり、1人の美女の姿を取る。真っ暗な瞳の女性だ。
『改めて自己紹介するね。ボクぁ蝿の王ベルゼブブ、暴食を司る悪魔だ』
「……なんで俺に力を貸してくれたんだ?」
『キミにボクのある願いを果たしてもらうためさ。きっと、ボクのサモンコインは返却されちゃうけど、ボクの因子はキミの中に残せる。詳しい話はまた後にしよう』
ランマはグラ、とよろめき、その場に膝をつく。
「……つっ!?」
『体力も魔力も万全だけど、意識の疲労まではボクぁ癒せない。初めてボクと完全同調したんだ。キミの意識はもう限界だろう』
「ウノは、ウノはどうなった?」
『さぁね。ボクぁ全力を尽くした。後は彼の意思の力に依るかな』
ランマの調子に比例して、ベルゼブブの体が透けていく。
『そろそろボクを顕現するのも限界かな』
「……ベルゼ。腹はいっぱいになったか?」
ベルゼブブは顔を赤くして笑う。
『前菜を食べただけで満足はできないよ。ボクが喰いたいのはもっと別にある。ボクにとってのデザート、彼を食べるまで――ボクの腹が満たされることはない』
ベルゼはそう言い残して消失し、真っ白なサモンコインとなった。
ランマは急激な眠気に襲われ、その場で倒れるように眠った。
破戒竜、眷属、魔法士、堕天使。約1000体を全て討伐・無力化し、後に千魔決戦と呼ばれる戦いは終結した。
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