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第72話 トラファルガーの戦い その3

「ウ、ノ……?」


 倒れたウノに近づき、ランマはウノの体を抱え、上に向けさせる。


「……わりぃな、ラミー……」


 ウノはランマに向けて手を伸ばす。


「結局、最後まで俺は……どうしようもねぇ、嘘つきだったよ……」


 ウノの手が力なく落ちる。

 ずし。と、ウノの体が重くなった。


「待て。待ってくれ」


 ランマはウノの肩をさする。


「駄目だ! ウノ、駄目だッ!! 逝くな!!!」


 両目から、大粒の涙が流れる。

 ランマが思い出すのは故郷を滅ぼされた時のこと。

 あの時も、同じように叫んだ。


『父さん……母さん……! 1人にしないで……行かないで……!』

「俺を……置いていかないでくれ……!!」


 ウノは返事をしない。


「なにを泣くことがある?」


 アルヴィスは冷淡に言う。


「結界士の役目はチームの盾になること。その男は盾の役目を果たしたのだ。涙を流し、戦闘を放棄することは……その男に対する侮辱だ」


 偉そうに言葉を吐くアルヴィスに、ランマはこれまで抱いたことの無いほどの怒りを感じた。


 自分と他者との繋がりの消失に弱い。そう語っていたガルードの言葉が思い出される。


(俺の繋がりを奪うな……!)


 ランマは知っている。

 絆というものの尊さを。


(絆なんてものは簡単にできるもんじゃない。そのクセ、些細なことで崩れ去る。死や理不尽、第三者の介入であっさりと消え去る)


 家族も親友も恩師も、何の脈絡もなく失った。


(ふざけるな……! 俺の絆を、仲間を奪われるぐらいなら……その他全員ぶっ殺してやる!!)


 ランマの瞳に強く、黒い殺意が宿る。


(俺の仲間に手を出す奴は全員――)


――ぶっ殺してやる。


「なに……?」


 ウノのポケットから光が溢れる。

 ランマは本能的にポケットに手を入れ、光を掴んだ。

 それは、お守り。エマにあげたお守り。怪しい行商人から買ったお守りだ。


(これは……あの時の)


 お守りは()け、中身が見える。真っ黒のコインが見える――


『喰っちゃいなよ』


 コインから、女の声が聞こえる。


『キミの世界に不要なモノは全部喰っちゃえばいい。生も死も、平等も理不尽も、己も他人も、全部喰って糞にしちまえ』


 女性が見える。

 真っ暗な場所で、全身を鎖で縛りつけられた女性の姿が、イメージが、頭に流れ込んでくる。


『ボクならできる。ボクならキミの不要なモノ、全部食べてあげられる』

「……代償に、なにを望む気だ?」

『ボクぁ、お腹がペコペコなんだ。だからさぁ、なんでもいいからさぁ、

――たらふく喰わせてよ』


 ランマはウノを地面に置き、敵を見据える。


「お前が何者でもいい。アイツをぶっ殺せるなら、手を貸せ……!」

『その意気だ。ボクの名前は――』


 ランマは指の上にサモンコインを乗せる。


「そうだ。それでいい。戦士ならば、最後まで立ち向かえ。例え、一切勝ち目のない負け戦だろうがなぁ……!」


 まだアルヴィスは気づいていない。

 ランマの手の内にある化け物に。


「……なあアルヴィス校長、小国を滅ぼせる国宝級……それを10倍の性能で出せたら、一体なにを滅ぼせると思う?」

「なんだと……?」


 コインを指で弾き、召喚陣にぶち当てる。サモンコインは弾け、召喚陣から無数の蝿が沸き上がる。




「飯の時間だ。来い――“ベルゼブブ”」




 ランマはその名を呼んだ。国宝級の悪魔の名を。



 蝿の大群は集合し、一匹の巨大な蝿の形となる。背に髑髏の模様のある蝿だ。


――暴食(ぼうじき)の悪魔が〈ロンドン〉に舞い降りる。



 --- 



 〈ウェストミンスター宮殿〉前。

 大量の破戒竜の遺体の前にはアラヤシキ=ザイゼンと拍手をする自在天の姿があった。


「やぁ、さすがだねザイゼン。相変わらず見事な剣技だ」

「まさかお主、儂の剣技を見るために国宝級を渡したのか?」

「それは自惚れ過ぎだ。私が国宝級を渡したのは罪滅ぼしさ」

「罪滅ぼし……?」


 自在天の笑みの裏にザイゼンは良からぬモノを感じた。


「お主、またなにやら(こす)いことをやったのう」

「あ、わかるかい?」

「もう何年の付き合いだと思っておる。まったく、自在天様には困ったものじゃ」

「よしてくれ。君にだけは自在天と呼ばれたくない。昔通りレヴァと呼んでくれ」

「お主が許しても他の連中が――」


 その時、ある悪魔が〈ロンドン〉に誕生した。


「「!!?」」


 ザイゼンと自在天は目線を尖らせる。

 そのあまりの邪気にザイゼンは敵が目前にいないにもかかわらず刀を握った。


「……レヴァ、お主、なにをした……!」

「ふふ、いやぁこれほどとはね……想像の遥か上をいくコンビだ」


 異変を感じた2人だけではない。


――〈タワー・ブリッジ〉にて。


 ミカヅキ班の3人も異変を感じ取った。


「おいおいおい、なんだこの馬鹿げた魔力は!?」

「スウェンさん! これは……!」

「祈るしかないね」


 いつも余裕をもったスウェンが、額に汗をかいた。


「……これが敵じゃないことを」


――〈ブリック・レーン・マーケット〉にて。


 ギネス=ウォーカーは破戒竜を排除する手を一旦止めた。


(……盗まれたベルゼブブ……〈ロンドン〉に入ったという情報……ランマの召喚陣の効果……ベルゼブブは召喚陣1センチあれば召喚できる……アルヴィスの目的……)


 あらゆる情報を頭の中で並べたギネスは微妙な表情をする。


「……どっちだ」


 ランマが純粋にベルゼブブを召喚したのか、

 もしくはアルヴィスに操られ、召喚させられたのか。

 後者なら最悪の展開。前者だとしても――


「ちっ! ここからじゃ何もわかりゃしねぇ!」


 調べる術はない。

 〈ロンドン〉中の不安を具現化したような暗雲が空に出始める。


――今日、最大の戦いが始まろうとしていた。

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