第68話 タワーブリッジの戦い その1
橋の上。
槍と黒腕が交差する。
スウェンと戦いながらワンハンドレッドは疑問を抱いていた。
(おかしイ。なゼ、ついてこれル?)
逃げ惑う人々。
救いを祈り、助けを待つ人々が瞳には映る。
(〈ロンドン〉は元より信仰に満ちた地、加えて今は我々の襲撃により窮地に立たさレ、祈る人間が多く見えル。私の体は間違いなく強化されていル……なのになゼ)
ワンハンドレッドはそのまま疑問を口にすることにした。
「なゼ、私についてこれル? 以前よリ、なぜこれほど強くなっていル……?」
「僕はまだ18だよ? 育ち盛りさ。一週間もあれば強くもなる」
スウェンは優れたバトルセンスの持ち主。未だ、その強さは天井知らず。
骸炎より放たれし黒炎がワンハンドレッドの頬を掠める。ワンハンドレッドは高く飛び上がり、神力を溜める。
「演舞“散雲千矢”」
ワンハンドレッドの天界礼装クモユラが分身する。その数は20。
槍は一斉にスウェンに向かって直進する。
「“骸炎・冠”」
スウェンの右腕から黒炎が放たれる。
黒炎は傘のように広がり槍を全て弾いた。
「!?」
黒炎の傘が消えると、スウェンの姿が見えなくなった。
ワンハンドレッドが周囲を見渡す前に、スウェンは黒炎の右腕でワンハンドレッドの右の羽を焼き払った。〈タワー・ブリッジ〉にある塔を登り、背後からワンハンドレッドに攻撃したのだ。
ワンハンドレッドは飛行能力を失い橋に落下する。
「まさに堕ちた天使だね。君たちには地べたがお似合いだ」
這いつくばるワンハンドレッドをスウェンは見下ろす。
「――満ちる」
ワンハンドレッドの様子が変わる。
「信仰が体に満ちていく……」
スウェンは危険を察知し、ワンハンドレッドに追撃を加えようとするが、ワンハンドレッドは飛んで躱した。焼き払ったはずの右の羽がある。
「羽が回復した……」
階位100番とはいえ、異常な回復スピードだ。
「私は階位100番。それはつまり、強化されればすぐに第二階位の壁を破れるということ……」
ワンハンドレッドを白い光が包む。
「私がアルヴィスの誘いに乗ったのは、この時のため。この状況を作るため。ただでさえ信仰の多い異界都市、その異界都市の信仰を集中させれば……私は人になれる」
キラキラと、眩しい光がワンハンドレッドに集まっていく。
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(信仰が目に見えるほどに濃くなっている)
スウェンとワンハンドレッドのいるこの〈タワー・ブリッジ〉にのみ、異様な量の信仰が集まっていた。
(一体どうやって信仰をここに――)
そこでスウェンは思い出す、ランマとステラが行った教会で札が破られていたことを。
さらに空を飛ぶ破戒竜、その背に、見覚えのある材質の杭が刺されていることに気づく。
「……そうか。聖人像と信仰よけの札を複製して、信仰を誘導しているのか……!」
「その通り。教会にあった聖人像と同質の杭を破戒竜に打ち、杭に札を貼り破戒竜を飛び回らせ、信仰をここへと誘導する……」
ワンハンドレッドの口調がどんどん流ちょうになっていく。
「おかげで私は、進化できる」
ワンハンドレッドの足元に太陽を模した魔法陣が浮かぶ。
(アレは堕天使の転生陣……!)
スウェンは目を細める。
(第三階位の堕天使は召喚陣・転生陣・結界陣の内の1つを持つ。そして第二階位は内の2つ、第一階位は3つ持つと聞いた。ワンハンドレッドは召喚陣を持っていた。さらに転生陣を持つとなると、第二階位と同等の能力を手に入れたということ……!)
「転生術――」
ワンハンドレッドの姿が変わっていく。
「“憧憬空似”」
体毛が生え、肌は金属質から人肌に。肌は白くなり、髪は金色になる。瞳は赤と青のオッドアイとなる。ドレスにガラスの靴を履いた女性にワンハンドレッドは変貌する。
「ふふ……」
ワンハンドレッドは笑う。
「――あったかい、わ。これが人間の体温……素敵、ね」
人の姿をしているが、内に秘める神力は先ほどより禍々しく高密度になっている。
「あなたもこう見ると……良い顔ね。前言撤回だ、わ。あなたのこと……結構好きみたい。これが性愛なのですね……あなたを見ていると、胸が高ぶる」
「ふむふむ成程。害虫に好かれるってのはこういう気持ちなんだね。ゾッとする」
「その物言いも可愛く感じるわ」
ワンハンドレッドは自分の姿を見せびらかし、問う。
「どう? 私――人になれてるかしら?」
「うん! 醜いところがソックリだ」
ブチ。とワンハンドレッドは額の血管を切らした。
ワンハンドレッドは槍を持ち、すぐにスウェンと距離を詰める。
数秒の打ち合い。されど手数は50を超える。
スウェンは捌き切れず体に傷を負っていく。徐々に徐々に掠り傷が増えていく。
「もはやあなたは私の敵じゃない。降伏すれば、私の奴隷にしてあげる。男を知るための道具として、愛用してあげる」
「これのどこが人らしいんだか。化け物め」
減らず口を叩くも、スウェンはドンドン追い詰められていく。
槍の連撃が歯止めなく繰り出される。黒炎で受けるも限界は近い。
(ジリ貧だな。奥の手を出すか? でもアレは反動がキツいしなぁ……)
「終わりよ」
ワンハンドレッドの槍がスウェンに到達する、その直前で、
――ガキン!
結界が槍を弾いた。
「!!」
「!?」
「“腐乱王・右脚”!!」
ゾンビの王、腐乱王の巨大な右脚がワンハンドレッドを蹴り飛ばした。
スウェンの両隣に、ドレスの上に制服を纏った女子と、スーツの上に制服を纏った男が現れる。
「……まったく、待ちくたびれた……」
スウェンは笑う。
見知ったチームメイトが2人、そこにはいた。
「やれやれ。今日は狙っていたドレスが半額セールの日でしたのに、買いそびれましたわ!」
「ボヤくなよ。後でそのドレス買ってやらぁ」
ミカヅキ、フランベル、スウェン。
ここにミカヅキ班の3人が揃う――
「ミカヅキ班現着! 階位100番をぶっ殺す!!」
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