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第66話 ブリックレーンの戦い その1

 〈ブリック・レーン・マーケット〉。


 ギネスと“舞闘歌(ぶとうか)”で強化されたガルードが肉弾戦を始める。

 ガルードは肘や膝をメインに使い、相手の喉や股間などの急所を容赦なく狙う武術を使う。一方ギネスは殴り蹴りの喧嘩殺法に投げや絞めの柔術を組み合わせて使う。


 互角。

 肉弾戦においては互いに一歩も譲らない。


 驚くべきはギネスの戦闘技術。

 ガルードは“舞闘歌(ぶとうか)”の強化比率を自由に変え(例:スピード強化2パワー強化2をいきなりパワー強化4にしたり)揺さぶっているのに、ギネスはそれを完璧にいなしている。ランマと同じように耳でメロディの切り替えを察知し、対応しているのだ。

 4体のセイレーンの歌を同時に聞き分けるなど常人ができる芸当ではない。


「ランマとの戦いでは実力の半分も出してなかったみたいだな」

「あの時の目的は破壊ではなく捕獲、加減もするさ」

「……それだけか?」


 ギネスの揺さぶりにガルードが身を硬直させた瞬間、ギネスはガルードを投げ飛ばした。

 ガルードは露店の1つに突っ込むも無傷。


「わかりやすい奴だな」

「――やかましい」


 ギネスは手首をコキと鳴らし、今の肉弾戦を振り返る。


(体術は俺のが上だが、硬さはあっちが上だな。打撃が通らねぇ)

「しかし驚いた。ただの強化術で四重奏(カルテット)で強化された私についてくるとは」


 ガルードは指を2本立て、


睡眠歌(2番)


 4体のセイレーンの内、2体が睡眠を誘う歌を口ずさむ。

 ギネスは眠気に襲われ、クラッと体を揺らした。

 隙を逃さずガルードは肘をギネスの腹に入れようとするも、ギネスはすんでのところで腹と肘の間に右手を挟み込んでガードした。

 ギネスは血がしたるぐらいの力で唇を噛み、痛みで意識をはっきりとさせる。仕返しと言わんばかりに拳を振るう。ガルードは腕でガードするも威力を殺し切れず、弾き飛ばされた。


「【119-0012】――“音番(おんばん)(なぎ)”」


 ギネスは人差し指を耳に突っ込み、耳に絶音の膜を張る。

 これにより音の妨害は受けなくなった。


「……聴覚を封じるか。だがそれでは、セイレーンの居場所はわからんぞ」

「なに言ってるか聞こえねぇけど、多分『それではセイレーンの居場所はわかるまい!』……とか言ってんだろ?」


 ギネスは地面に手をつき、魔法陣を展開する。


「生憎、かくれんぼじゃ負けたことがねぇんだ」


 ギネスが展開したのは楕円形の魔法陣。楕円の中心には黒く塗りつぶされた円があり、上から見るとまるで人間の目のようだ。この独特な魔法陣は――


「鑑定陣だと……!?」


 ガルードが驚くのも無理はない。

 なぜなら鑑定士の兵士などありえないからだ。鑑定術は鑑定陣に乗った相手の情報を調べる、ただそれだけの能力しかない。他の3種の魔法陣に比べ圧倒的に戦闘能力に乏しいのだ。


 商人が持てば破格の効果であるものの、戦闘において役には立たない。


 事実、鑑定士の射堕天はギネス=ウォーカーの他にいない。


「も~いい……かい!!」


 ギネスの鑑定陣はみるみる広がっていく。

 その大きさは半径500メートルまで広がった。


「これほどの範囲の鑑定陣は初めて見たぞ……!」


 鑑定陣は召喚陣と違い、巨大化させることはそう難しいことではない。ただ鑑定陣を広げようとする者は少ない。基本的に鑑定士は鑑定陣の大きさではなく、質にこだわる。どれだけ鑑定の分析力を高めるか、そちらに注力するのだ。鑑定陣を主に使うのは商人、商人が品定めの精密さを優先することは当然である。


 だがギネスは戦士だ。広げることに意味があった。


「み~つけた」


 戦士にとって大切なスキルの1つ。それは索敵能力。鑑定陣の上に乗る、もしくは鑑定陣の上空に居れば隠れている敵の位置は把握できる。鑑定陣は索敵に長けており、鑑定陣を広げられればそれだけ索敵範囲も広がる。


 建物の影に隠れていたセイレーンたちが鑑定陣に触れた。


(北東143、南東402、南西209、真北333)


 鑑定陣の上に乗った物体、鑑定陣の上空120メートルの物体すべての情報がギネスの頭に飛び込む。


「――記録完了」


 ギネスの背後、南西と南東に居るセイレーンから音の大砲“砲葬歌”が繰り出される。ギネスはノールックで音の大砲を躱した。


「なに……?」


 ギネスは南東に居るセイレーンの方を見る。

 遅れて、ガルードはギネスが何をしたかを理解する。


「ありえるのか……!? まさか、鑑定陣で索敵をしたというのか!!」

「そういうことさ」


 ギネスは返事をした。耳栓の魔法を掛けているのにも関わらず。

 未だギネスは鑑定陣を引っ込めていない。ギネスの鑑定陣の上にはガルードも乗っている。ガルードの声は聞こえないが、ガルードの肉体がなにを喋ったかはわかる。

 ガルードの肉体の情報はすべて、ギネスの手に落ちた。もはや歌を聞かずとも鑑定陣の上に居る限りガルードの強化状態はわかる。


 これが異端児、第七師団副師団長ギネス=ウォーカーの能力。


「へぇ、アンタ牛乳アレルギーなのか。苦労してきたんだな」

「……!?」


 その余裕のある瞳に、ガルードは心の底まで見透かされた気がした。



 --- 



『ギネス=ウォーカーという男、そこまで警戒する必要がありますか?』


 作戦前、ガルードはアルヴィスにそう聞いた。


『他の面々は聞いたことのある名ですが、奴だけは噂すら耳に入れたことがありません』

 

 アルヴィスは顎を撫で、


『……あの男は妙なんだ』

『妙?』

『18から射堕天サークルに入ったのに、射堕天に昇格したのは25歳。そしてヒルスの推薦ですぐさま新設された第七師団の副師団長となった。それからというもの、奴は多くの高名な魔法士たちを葬っている。第二階位と戦い勝利したこともあるそうだ』

『第二階位と!?』

『しかし、だ。それだけの功績があるにも関わらずお前の言う通り奴の武勇伝を語る者は少ない。さらに調べたところ奴の階級はE級。下の下だ』


 アルヴィスは笑う。


『召喚士なのか、転生士なのか、結界士なのか、それすらも不明……一目見て確信した、アレは異端の者だ。先人なき道を切り開いてきた男の目をしていた。この俺と同じな……気をつけろガルード、アレはやるぞ』


 ガルードは回想し、目の前のギネスを見る。


「……確かに異端だな」


 “舞闘歌(ぶとうか)”の四重奏(カルテット)でガルードは自身を強化させる。


「セイレーンが一体でも倒されれば私の敗北だ。お前がセイレーンに到達するのが先か、私がお前を倒すのが先か、勝負だな」

「かくれんぼの次は鬼ごっこってわけか。いいぜぇ、やろうか」

読んで頂きありがとうございました。

この小説を読んで、わずかでも面白いと思っていただけたら評価とブクマといいねを入れてくれると嬉しいです。とてもパワーになります。

よろしくお願いします。

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