第65話 それぞれの戦い
跳開橋〈タワー・ブリッジ〉にて。
スウェン=バグマンは1人、とある堕天使を見上げていた。
「やあ、また会ったね」
羽の生えた金属質の堕天使、階位100番――ワンハンドレッド。
ワンハンドレッドは空を飛び、スウェンを見下ろしている。
「どうやら僕らは赤い糸で結ばれているらしい。互いの血で染まった赤い糸でね」
「堕天使に血液はありませン」
「ああ、そうだったね。君らって血も涙もないんだった」
「……」
わざとらしく肩を竦めるスウェン。
ワンハンドレッドは遊槍クモユラを召喚する。
「……私ハ、あなたのことが嫌いなようでス」
「へぇ、そうなんだ。……ふむふむ成程。害虫に嫌われるってのはこういう気持ちなんだね。特になにも感じないや」
スウェンは骸炎を起動する。
「今度は逃がさない。君はここで確実に破壊する。
――ウチの上司を落ち込ませた罪は重いよ?」
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巨大市場〈ブリック・レーン・マーケット〉にて。
ギネス=ウォーカーは瞳が虚ろな市民たちと相対していた。
天鏡で市民を映すも天の輪は見えず。
「……やれやれ、狡い真似しやがる」
耳に届くセイレーンの歌声、それに応えるように市民たちはギネスに向かって動き出す。
「【008-1189】」
ギネスは地面に手をつく。
「“雷番・落花放電”」
ギネスの手から地面に雷が伝わり、地を伝って市民たちの足元から雷の槍が出現。雷の槍は市民たちを痺れさせ、無力化させる。
「お見事。傀儡化された市民をほとんど傷つけず、一瞬で無力化するとはな」
市民の背後から現れたのは眼鏡を掛けた男、ガルードだ。
「なんだ、アンタが相手か。ガッカリだぜ。アンタの手札はこの前全部見たからな~……攻略のし甲斐がない」
「アレが私の全力だとでも?」
ギネスの耳に歌声が届く。
歌声の数は――4。
「セイレーンの歌声が4つ、か。この前の倍だな」
「先に言っておく。全力の私に一切の隙はない」
ギネスは拳を鳴らす。
「それを攻略するのが楽しいんじゃねぇか♪」
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噴水が中央にある広大なスペース〈トラファルガー広場〉にて。
アルヴィス=マクスウェルは紫と緑の竜を携えて来客を待っていた。
アルヴィスの背後にある噴水には血みどろの少女が浮かんでいる。
「……来たか」
アルヴィスの背後から突如として現れたランマがコウリュウでアルヴィスに斬りかかる。
「アルヴィス!!!」
アルヴィスは飛び退き、これを回避。左右からランマを喰らおうと迫る竜。
ランマはコウリュウを伸ばし、ワイヤーを緑竜の首に巻き付け、ワイヤーの伸縮を利用して緑竜の上に移動。ミラをコインに戻し、緑竜の頭を殴って地面にめり込ませる。
紫竜は諦めずランマを追跡するが、透明な結界に顔をぶつけて怯んだ。その隙にランマは噴水に浮かぶエマを抱き抱え、アルヴィスと竜から距離を取った。
ランマの側に、透明な結界から出てきたウノが着地する。
ランマはエマに視線を向ける。
「エマ……!」
「ラン、マ……」
エマは額、腕、足から出血している。特に足の損傷は激しく、歩けないほどズタボロだ。
「……アイツ、アイツが……お父さんを……!」
悔し涙がエマの瞳から流れる。
「ああ、わかってる。アイツは必ず俺がぶん殴ってやる」
エマはその言葉を聞くと、安心したように眠った。
ランマの視線がアルヴィスに移る。
「……アンタ……召喚士を守るために戦ってるんじゃないのか。コイツは! アンタが守ろうとしている召喚士じゃねぇのかよ!!」
「大願を果たすためには小さな犠牲はつきものだ」
「小さな、犠牲……?」
ランマの脳裏に、エディックの姿やアルヴィスの策謀によって死んだ数々の人間が浮かぶ。
「ウノ、エマを頼む」
「お、おう」
ランマはエマをウノに託し、アルヴィスに歩み寄る。
そんなランマを通さないよう、番犬たる双竜が迫る。
(音が聞こえる……)
ランマの耳に蠅の羽音が届く。
(蝿の羽音が、雑音を消す)
ブーン、ブーンという蝿の音が頭に響く。恐怖や心配、それらの雑音を羽音が相殺してくれる。
――ランマは一瞬で、2匹の竜の首を断ち切った。
「ラン、マ……?」
ウノはランマの様子に異変を感じるも、その場を離れた。
(集中力が、深く、深くなっていく)
ランマの瞳に殺意が宿る。
(見えなかったモノが、見える。相手の急所、死角、思考が見える……!)
ランマの魔力が禍々しく跳ね上がる。
魔力はうねり、そして、蝿の形になる。
「蝿の、羽音が聞こえる……!」
ランマの纏う気配。
ビリビリというプレッシャーを浴びて、アルヴィスは歓喜に体を震わせた。
「そうか……そうかそうかそうかそうかそうかぁ! 接触したのだな!? お前の内にあるのだな!? 奴の因子が!!!」
アルヴィスは新たに4匹の破戒竜を召喚する。
「……平和の完成は――近い!!」
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