第63話 開戦
「こりゃあんまりじゃねーっすか」
病室にランマは居た。
傷はリリアーナの踊りの効果もありほとんど回復している。
ランマはベッドごと囲むように結界を張られていた。結界を張っているのはミカヅキだ。サングラス越しに本を読みながら、ミカヅキがランマの監視をしていた。
「今回の“玉”はお前みたいだからな。玉は動かず城の中に匿うのが定石だ」
「こんな結界なんてなくても動きませんって」
「嘘が下手だな。目が血走ってんぜ」
「……」
「射堕天の制服脱がねぇし、サモンコインも手放さないし、明らかに戦闘態勢じゃねぇか」
「アンタこそ落ち着かないみたいだけど? 本逆さだし」
ミカヅキはゴホンと咳払いし、本の向きを整える。
「ステラは……大丈夫ですか?」
「かなりズタボロにされたからな、三日は動けないとよ」
「そうですか」
ランマは強く拳を握りしめる。
「……好き勝手やりやがって……!」
「闘志は秘めとけ。いざという時のためにな」
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エマ=ランバードは花屋に居た。
(まったく、気づいたら入院してるんだからあの男は。この前も知らぬ間に大けがしてたって言うし)
ニット帽を被った男を思い浮かべ、不機嫌になるエマ。
「これください」
見舞い用の花を買い、エマは外に出る。
エマが病院に向かっていると、
「あ、エマさん……」
1人の少女に呼び止められた。
黄緑髪の少女、ランマとエマのクラスメイトのアムリッタだ。
「アンタは確か、アムリッタ……だっけ?」
「う、うん。そうだよ。えっと、もしかしてだけど、ランマ君のお見舞い?」
エマは咄嗟に花を隠す。
「えっと……その、ま、まぁそんな感じ」
「そうなんだ! わたしもなんだ」
アムリッタは果物の詰め合わせを見せる。
「一緒に行かない?」
「別にいいけど……」
エマとアムリッタは2人で街道を歩く。
「へぇ、ランマがアンタをね……」
アムリッタからランマと初めて会った時の話をされ、エマは感心する。
「そうなの! ランマ君、すっごく強くて。バッタバタとケイネス君たちを倒したんだ」
「すっごく強いんなら入院なんてしないでしょ」
「いや、それはそうなんだけどさ……」
「冗談よ。アイツが強いのは私も知ってる。喧嘩売って負けたし」
「喧嘩!? もしかして2人が停学になったのってそういう……」
アムリッタはクスりと笑い、
「――でもね、きっと強くなくても、ランマ君はわたしを助けてくれたと思うの」
「なんでそう思うわけ?」
「なんとなく。ランマ君はきっと、『助けて』って言われたら絶対に助けてくれる人なんだよ。わたしの――お父さんがそうだった。ランマ君はお父さんに似てるんだ……」
エマは苦笑する。
「早死にするね、そういう奴」
エマは自身の父を思い出し、そう言った。
「……そうだね、ちゃんと見張らないと駄目だよね。ああいうタイプは」
アムリッタも同意し、苦笑した。
「すまんな、お嬢さん方」
談笑する2人の前に、1人の老人が訪れる。
「楽しい話の最中に失礼。俺も混ぜてくれんかね?」
「あ、えっと……」
戸惑うアムリッタ。
エマはアムリッタの腕を引っ張り、素通りする。
「行こ。相手するだけ無駄よ」
「――本当にそうかな?」
老人はもったいぶった風に言う。
「俺の命令でゴネリスが死んだと聞いても、『相手するだけ無駄』か?」
エマの顔つきが変わる。
「アンタ……!」
エマは立ち止まり、サモンコインを握りしめる。
老人――アルヴィス=マクスウェルはニヤリと笑う。
「――開戦だ……!」
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