第61話 集結!!
黄金の玉が腹に当たった瞬間、ガルードは魂にまで衝撃が走ったのを感じた。
(い、しきを――! 繋ぎ留めろ……!! セイレーンを消せば骨も残らん…………!!)
凄まじい轟音。
地が割れ、空気が破裂する。
「ぐっぱぁあ!!?」
ガルードは口から血煙を吐き、骨は自身で把握することができない数折れた。1秒経っても黄金の玉から発生した衝撃波から逃れることができなかった。半径1キロ以内の民家は地震が起きたのかと思っただろう。それぐらいの衝撃が巻き起こった。
攻撃を繰り出したランマすら、あまりの衝撃に持ち手の皮がさけ、右腕に螺旋の傷ができる。
ガルードが黄金の玉に弾かれたのは攻撃が発生してから2秒が経過した時だった。
ガルードは瞬く間に木々を7本突き破り、大木に背中を打ち付け止まった。セイレーンによる強化魔法の重ね掛けをしていなかったら四肢はばらけていただろう。
ランマの限界突破の円環、それにより強化されたミラの擬態能力。
200%の出力を持ったアラダマはランマにとって必殺技と呼べるほどの威力を誇っていた。
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「はぁ……はあ……!」
ランマはハッと我に帰る。
(一瞬、いや、数秒か。意識が飛んでた……! 記憶がねぇ! でも、状況はわかる。アラダマを先生に当てたのか……)
ランマはミラをコインに変えて握り込み、ガルードの方へ向かう。
闘技場を壊した程の威力だ。普通ならば確実に死んでる。だが、
「今のは……効いたぞ……ランマァ……!」
ガルードは立ち上がり、ヨロヨロと歩いてくる。
セイレーンの音色が大幅に変わっている。歌が変わった。ガルードの傷が癒えていく。このセイレーンの歌は治癒魔法の類だとランマは推測する。
なんとか歩けるぐらいは回復したようだが、ガルードがもう戦闘不能であることは見てわかった。
「いい加減、聞かせてもらうぜ。なんで射堕天サークルを滅ぼすのか……」
「……」
「――その質問には俺が答えよう」
「!?」
天から、黒き竜が降りてくる。
この暗い夜空の下でもクッキリと姿が見えるほどのドス黒さ。全身に鎖や錠がついた竜、種族の名は――“破戒竜”。遥か昔、魔王に仇なし一族全てがその凶悪性と能力を魔王によって制限された。戒を破り、戒を科せられた種族。封印されてもその能力は魔界のトップレベルである。
そして、破戒竜の上に立ち、従えるのは白い髭の老人。
「アルヴィス校長……!?」
「よう。まさかガルードを倒せるとは思わなかったぜ」
雰囲気が以前とまるで違う。
以前は優しく穏やかな印象だったが、今は荒々しく粗雑な雰囲気だ。
「申し訳ありませんアルヴィス様……後れを取りました」
「気にするな。良い誤算だ。それだけこの男が成長したってことだろ」
「本当に、アルヴィス校長なのか……!?」
ランマは目を疑う。
ポケットに手を突っ込み、大股開けて立つその姿はランマの知るアルヴィス像とかけ離れ過ぎていた。
「くっくっく……! そうだよ。俺がアルヴィスさ。誰かに操られているとか、成り代わられたとか、そんなこともない。お前と前に会ったアルヴィスは猫被った姿だったというだけの話……」
「なんなんだよお前ら……! 一体なにがしてぇんだよ!!」
「そうそう、その話だったな。まぁ聞け。別に血迷ってるわけじゃないんだ。俺たちが射堕天サークルを潰したい理由はしっかりある。お前さんも聞けばきっとこっちに傾くさ」
そうはならないと確信を持ちつつもランマは黙って聞く。
「いいかランマ、射堕天サークルが堕天使を滅ぼせば……我々召喚士はすべて、落ちこぼれへと変わる」
「なに言ってやがる……!」
「前に言ったよな? サモンコインは堕天使を倒すため、魔界から寄越された物であると。ならばその堕天使が消えればどうなる? 当然、サモンコインはすべて魔界へと返却される。そうなれば召喚士などただの無能さ」
サモンコインはあくまで堕天使を倒すための武器。
その堕天使がいなくなれば魔界がサモンコインを貸す理由はなくなる。
「そもそも遥か昔、堕天使が現れる前、サモンコインが人間界に落とされる前、召喚陣を持って生まれた人間は無能の烙印を押され、迫害されていた。堕天使が滅べばまた、召喚士が迫害される時代が来る」
「じゃあアンタらは、召喚士が迫害されるのを止めるために、射堕天サークルを潰して堕天使を生かそうってのか?」
「そうだとも! ――許されることではないっ! 我々召喚士こそが! 人類の頂点! それが脅かせることなどあってはならないのだ!!!」
「だからって堕天使の被害を受ける人間を放置するのかよ!」
「必要な犠牲だ。堕天使が滅べば何十億という人間が苦しむのだぞ! 落ちこぼれの痛みを知っているお前が! わからないはずがないだろう!!?」
「!?」
ズキン、と胸の内に痛みが走る。
落ちこぼれとして生きてきた過去が思い出される。
アレを、何十億という人間が歩む。
そう考えるだけで全身がぞっとする。
「生かさず殺さず……堕天使を滅ぼさず、一定の数を残し、良い度合いに綱引きの状態にする。それこそが最善! 射堕天サークルが掲げる堕天使滅亡論は否定するべきだ! そうだろ、ランマ=ヒグラシ!!」
アルヴィスは竜の上から手を伸ばす。
「――俺と一緒に来い。射堕天サークルを滅ぼし、召喚士の未来を守るのだ……!!」
その誘いに心が揺るがなかったと言えば嘘になる。
だが――
「お断りだ!」
惨殺された両親を、
爆弾にされた少女を、
父を殺された娘を見てきた。
堕天使の残酷さ、凶悪さを見てきた。
だからこそ、言い切れる。
「……俺はまだ、射堕天になって日が浅い。それでも断言できる。堕天使と共存はできないし、堕天使を野放しにすれば召喚士だけでなく人類全部が危ないってな!! アンタは堕天使を甘く見過ぎだ! 堕天使を知らなさすぎる!」
「そんなことはない。堕天使についてはよく知っているさ。なぁ? ――ソラビト」
「思いあがらないでくださイ、あなたたち人如きニ、理解される我々ではありませン」
教会の中から、ステラを引きずって金属質の堕天使が現れた。
「ステラ!?」
「しくったぜ……!」
ステラは息はあるようだが全身傷だらけだ。
(金属質の堕天使……! スウェンから聞いた特徴と一致する。コイツ、ワンハンドレッドか!!)
「ピースが2つ揃えば俺の理想は現実に変わる。2つのピースの内、1つはお前だ、ランマよ。お前の召喚陣が1つ目のピースなのだ。お前が俺の手を取らないのなら仕方あるまい……眷属化か、それともセイレーンによる傀儡化か、好きな方を選ぶといい……!」
破戒竜が他にも7匹、召喚される。
「なぜ俺がお前を射堕天サークルに渡したか。それはお前を成長させるため。お前は堕天使との戦いを通し、本気ではないといえガルードを撃退できるレベルになった。今のお前ならアレの召喚にも耐えられる。もはや野放しにする理由はない」
「おとなしく捕まるわけにはいかねぇな……!」
「抵抗するなよ。その小娘を殺されたくなければな……!」
ワンハンドレッドが槍をステラの喉元に向ける。
絶対絶命――絶望の淵で、どことなく現れた影が、ワンハンドレッドを殴り飛ばした。
「!!?」
人影の正体は男。
男はワンハンドレッドを教会まで殴り飛ばした後、ステラを抱え、ランマの前に移動した。
「やれやれ……嫌な予感ってのは当たるもんだねぇ」
男は紫色の髪をしている。
「……ギネス、さん……!」
「おっす。ナイスファイトだぜランマ。後は俺たちに任せな」
「俺たち?」
何もない空間から、ぞろぞろと人が現れる。
ギネスを入れて8人の射堕天がランマの前に立つ。現在、第七師団にいるすべての射堕天たちだ。中にはウノもいる。
ウノを見て、ランマはギネスたちがウノの結界から現れたとわかった。
「ギネス=ウォーカーか……!!」
「アンタのような偉人に知られてるとは光栄だね、アルヴィス殿。おっと、もう偉人じゃねぇか……ただの悪人だ」
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