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第6話 卒業試験

 卒業試験は町の魔術練習場で(おこな)われた。

 古くは闘技場だった場所で、円形のドームの中に正方形の石のフィールドがある。

 ガルード先生に呼ばれた生徒二人がフィールドに上がり、次々と戦っていく。


「うむ。次で最後だな」


 先生が次の受験者を見る。


「ランマとエディック、上がれ!」


 ランマとエディックはフィールドに上がり、向かい合う。


「先生、今一度ルールを確認してもいいですか?」


 エディックが聞く。


「お互いに悪魔を召喚したら戦闘開始だ。召喚士がフィールドの外に出る、もしくは気絶、召喚獣の消滅、降参で敗北とする。最初に説明しただろう?」

「でもさ先生、ランマは悪魔を召喚できませんよ。これじゃ試験を始められない」

「心配は無用だ」


 ランマはミラのサモンコインを見せる。


「おいおい、無駄な足掻きは――」


 ランマはサモンコインをコイントスする。

 天に上がったコインが、落下を始める。コインの落下ルートに召喚陣を展開し、コインを召喚陣にくぐらせる。


「召喚」


 赤いサモンコインは召喚陣に当たると弾け飛び、召喚陣から銀コインが現れランマの手元に落ちる。

 コインの上昇から落下までの一連の流れは実に滑らかで、コイントスの間に赤コインが銀コインに変わる手品のようにも見えた。


鋼剣(2番)!」


 そのままランマはコインを剣へと擬態させる。

 ランマの一連の動作を見ていた生徒たちは「うお~!」と歓声に似た声を上げた。


「おま、いまなにした!? その剣はなんだ!? 武器の持ち込みは禁止だろ!」


 先生は首を横に振る。


「いや、その剣はミミックが擬態したもの……召喚獣の範疇だ。問題はない」

「ミミックだと? ははっ! なにかと思えば卑怯卑劣でお馴染みのミミックかよ!」


 エディックは召喚陣を展開する。


「俺の相手じゃねぇ! 来い、シムルグ!!」


 嵐の怪鳥シムルグ。

 風を纏い現れたシムルグはエディックの頭上を飛行する。


「試験開始!」


 先生の声を合図にシムルグは突風を巻き起こした。

 風がランマを押しのける。


「このまま場外アウトだ!」

「させるかよ!」


 ランマは剣を振り上げた。


「おぅら!!」


 斬撃が突風を斬り裂いた。

 エディックはまだ余裕の笑みを崩さない。


「ほう。悪あがきにしては中々だな。――“四葬暴風(しそうぼうふう)”」


 シムルグが翼から四つの竜巻を放つ。

 竜巻は地面に当たるとその勢いを失わないままランマへ向かってきた。


「目にもとまらぬ速度の竜巻だ! 精々死なないよう気をつけるんだな!」


 目にもとまらぬ速度、そのエディックの言葉に嘘はない。確かに、エディックや他の者たちでは視界の端に捉えるのがやっとの速度だ。


 だが、ランマは違う。しっかりと竜巻を目で追っていた。


「ふっ――!」


 向かってきた4つの竜巻をランマは剣で斬り抜ける。


「はぁ!?」


 3年前、エディックはランマに『体を鍛えれば召喚陣が広がる』と書かれた本を渡した。

 それ以来、ランマは筋トレを欠かしたことはない。

 そして持ち前の集中力。剣術には疎いものの、トランプタワーをひたすら建てたことで身に着いた手先の器用さで剣を巧みに操る。


 ランマの召喚士としての能力は最低レベル。だが戦士としての能力は常軌を逸していた。


「仕方ない……!」


 エディックが呟くと、シムルグが降下を始めた。

 やばい。とランマは口の中で呟く。

 

 エディックの作戦は単純だ。シムルグに自分を背負わせ、空高く飛び上がり、安全圏から風魔法でランマを嬲る。この戦法を取られるとランマに成す術はなくなる。

 この作戦を最初から取らなかったのはひとえにプライドによるものだ。たった3センチの召喚陣しか持たない雑魚相手にこんな安全安定な作戦を取ることはエディックに取って屈辱的なことだった。


 エディックとシムルグの合流は何としても阻止しなくてはならない。ここが勝負時。


コイン(5番)


 ランマは手元のミラを剣からコインへ形状変化させる。

 この番号で形状変化させるやり方は相手に次の形状を知らせないためのもの。剣になれ、槍になれ、と命令すれば相手に次の形状をバラしてしまう。だからランマは番号でミラが変化するよう練習した。


 コインと化したミラをシムルグに向かって投擲する。

 コインは勢いよくシムルグへ向かっていく。


「コインなんて軽く弾いちまえ!」


 シムルグが風を纏う。


鋼槍(3番)!」


 コインが槍へと変化する。


「なに!?」


 シムルグは槍を弾き切れず、その翼を槍に貫かれた。

 エディックの失敗は全力の風の鎧ではなく、微弱な風の鎧を纏ってしまったこと。コインを想定して纏ってしまったために、シムルグは翼を貫かれたのだ。


「ここまでだ、エディック!!」

「こ、の、落ちこぼれが! 調子乗ってんじゃねぇ! 今のお前は丸腰! まだシムルグにも風魔法を放つ余力はあ――」


 シムルグが風魔法を放つよりも先に、

 エディックが言葉を言い終えるより先に、

 ランマは距離を詰めた。


「速いっ!?」


 拳の一撃で意識を刈り取れるかは微妙。

 モタモタしていたらシムルグの風魔法が発動する。


 ならば――

 

ロープ(6番)


 シムルグに刺さった槍がロープに変わる。

 ロープの長さは30メートルほど。ロープへと変化したミラはランマの側まで伸びた。

 ランマはロープを掴み、


鋼剣(2番)!」


 ロープを剣に変化させる。


「ま、待て。降――ぶぎゃ!?」


 エディックが降参を口にするより前に、

 ランマは剣脊(けんせき)でエディックの顔面を殴った。


 エディックの鼻血が飛び散りシムルグが真っ白なコインとなって落ちる。勝敗は決した。


「しょ、勝者……ランマ!!」


 どよめく練習場。

 ランマは拳を振り上げた。


「お、おいまじか。あのランマがエディックを倒しやがったぞ……!?」

「で、でもなんか卑怯じゃない? 戦い方がなんかさ、まっとうじゃないというか」

「いやいや、機転を利かした良い戦い方だと僕は思ったね! 僕は彼を評価するよ!」


 ランマは倒れたエディックに近づいていく。


「お前のくだらない嘘のおかげで、俺はこの肉体を手に入れた。アホみたいにトランプタワー作ってたせいで器用にもなった。この基礎能力がなければ、ミラをここまで使いこなせなかっただろう」

「……何が言いてぇ」

「――ありがとうエディック。お前のおかげで俺はお前よりも強くなれた」


 エディックは悔しそうに眼を細める。


「……わりと本気で、お前のこと親友だと思ってたよ」

「…………とことん、馬鹿だな」


 ランマがステージを降りると、ガルード先生が近づいてきた。


「先生、俺は……」

「合格だ。文句なしのな。よくミミックにたどり着いたな……確かにその擬態能力を活かせば3センチの召喚陣でも召喚できる。いやはや、まったく盲点だった」


 先生はランマの手にある剣を見て、


「しかし、わからないな」

『みら?』


 ミラは宝箱の姿に変化し、体を傾けた。


「なにがですか?」

「ミミックは元となった素材の能力を完璧にコピーできるわけではない。精度は20%程と聞いている。つまり、剣に化ければ元となった剣の20%の切れ味しか再現できない。しかし、お前のミミックは何の変哲もない剣に化けながら名剣の如き切れ味を誇っていた。謎だな」


 それはランマ自身も抱いていた疑問。

 明らかにミラの擬態する武具はオーバースペックだった。ただの剣が風を裂けるわけがない。ただの槍がシムルグの翼を貫けるわけがないのだ。


「ふぉっふぉっふぉ。その疑問については儂が答えよう」


 そう言ってガルード先生の後ろから現れたのは白髭のお爺さんだ。


「校長先生! なぜここに!?」


 このお爺さんはアカデミーの長、アルヴィス校長先生である。

 Sランク召喚獣“破戒竜”シリーズを人類で初めて召喚に成功した傑物であり、それまで人類が召喚に成功した悪魔をほぼ全て調べ尽し、悪魔図鑑を作成した。召喚士として数々の武勲を上げた間違いなくこの町1番の召喚士である。


「ガルード先生が褒めていた生徒を見に来たのだが」


 校長先生は倒れているエディックをチラ見し、長く伸びた髭を撫でながら笑った。


「少々予定が狂ったようじゃ」


 校長先生はランマの方に視線を向ける。


「先ほどおぬしらが話していたミミックの過剰性能(オーバースペック)についてだが、秘密はランマ=ヒグラシの召喚陣にある」

「俺の? 俺の召喚陣は限界の円環(リミットリング)って言う、一切成長しないポンコツ召喚陣ですよ」

「ふぉっふぉっふぉ! おぬしもガルード先生も勉強不足じゃな。おぬしの召喚陣の名は限界の円環(リミットリング)ではない」


 校長先生はランマを指さし、


限界突破の(リミットブレイク)円環(リング)じゃ!」

限界突破の(リミットブレイク)円環(リング)……」

「たしかに略して限界の円環(リミットリング)と呼ぶこともあるがな。生まれつき召喚陣が成長しないというハンデを持つが、代わりにその召喚陣で召喚した悪魔の性能が10倍になる! 中々お目にかかれん。最後に確認されたのは80年前と聞いている」


 ランマは頭の中で計算する。


(ということは、ミラの元々の擬態精度が20%だとして、俺の召喚陣でその精度が10倍に膨れて――)


 単純計算で、


「擬態元の200%の性能を引き出していたのか!」

『みらぁ!』

「ははっ! 俺たち最高の相性じゃねぇか! これなら戦える……3センチの召喚陣でも戦えるぞ!」


 抱き合う一人と一体。

 ガルード先生と校長先生がその光景を優しく見守る。


「以上で、卒業試験を終了とする!」


 こうして、卒業試験は終わりを告げた。

【読者の皆様へ】


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