第59話 窮地&旧知
「ぐっ!?」
ランマとステラは礼拝堂にてその歌を聞いた。
思わずウットリしてしまう美しい声、脳が甘い快感に泥酔する直前で2人は耳を塞いだ。
(なんだこの歌! 頭が馬鹿になりそうだ。間違いなく誰かの攻撃!)
ガタン! と礼拝堂の四か所の出入り口から人間が現れる。
誰も彼も格好こそ一般人。だがその瞳は虚ろだ。
雰囲気からステラは彼らを眷属と認識し、舌の大砲で迎撃しようとする。ランマはステラの尻を蹴って止めた。
「……テメェ!」
「へんほくはねぇ(眷属じゃねぇ)!」
「あぁ!?」
ランマは天鏡を口に咥え、ステラに見せる。
ステラは天鏡に映る人たちを見る。
――天使の輪がない。
つまり、眷属ではない。ただの操られている人間だ。
ある意味でランマ達にとって厄介な事態になった。眷属でないのなら容赦なく殺すことはできない。手加減が求められる。
ランマ達ほどの力を持つ者なら相手を気絶させるより殺す方が遥かに簡単なのだ。救える余地があるのは良いことだが、状況は難しい。
召喚術、結界術、転生術を使い、総勢22名の人間が迫りくる。その人間たちを――なんとステラは両手の指を銃に変えて撃った。
「ステラさぁん!?」
「馬鹿! 殺しちゃいねぇよ!」
撃たれた人たちは倒れ、寝息を立てている。
「麻酔銃だ。眠らせてるだけだよ」
「お前の能力、応用幅広いな~……」
「いいからテメェは歌の出所を叩け! 銃声で歌の邪魔はしてやる!」
現在、ランマもステラも耳を塞いでない。だが歌の錯乱効果は受けてない。なぜならステラが一定間隔で銃声を鳴らし、歌を妨げているからだ。
「麻酔銃にしたことで普通の銃より威力は下がる。結界士連中は特に静めるまで時間がかかる! こいつら相手してる間に本丸に逃げられたらウゼェから早く行け!」
「了解!」
ランマは礼拝堂を出て、歌のする方へ走る。
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セイレーンの召喚士は外である男の到着を待っていた。
「そろそろか」
教会から待ち人が出て来る。ランマ=ヒグラシだ。
「この距離なら銃声による防音は難しい。かと言って、両手で耳を塞いだまま私とは戦えまい」
ランマは両耳に、濡らした紙を詰めていた。
水は音の伝達を妨害する。即興ながら良い対策である。
(濡らした紙で耳を塞いだか。ならば)
召喚士は右手を挙げる。するとセイレーンの声量が上がった。
「くっ!?」
ランマは耳栓をしているにも関わらず、脳を揺さぶられた。
「耳栓だけではセイレーンの全力は防げないぞ。さぁどう――」
「わあああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
ランマは――ただひたすらに大声を出した。
自分の声でセイレーンの歌声をかき消す。
(なんて原始的な――!?)
ランマはミラを蛇腹剣に変化。
そのまま召喚士が乗る木を斬り倒す。召喚士は木から飛び跳ね、ランマの正面に降りる。
セイレーンはゆったりと空を飛び、召喚士の側に来る。
「砲葬歌」
召喚士が番号を呼ぶと、セイレーンの腹が大きく膨れ上がった。
「鋼盾!!」
嫌な予感を察したランマはミラを盾に変える。
セイレーンは大きく口を開き、叫ぶように歌う。ビームのように指向性を持った音の塊がランマにぶつかる。
「く、うっ――!!」
ランマは耐えきれず吹き飛ばされた。
ゴォン!! と大きく音を鳴らし、教会の壁に激突。土煙がランマを覆う。
「死にはしないだろう。昔からタフだからな。――睡眠歌」
セイレーンが歌おうとした時、コツン……と、召喚士の頭にコインが当たった。
「……ロープ」
コインはロープへと変わり、召喚士の首に巻き付こうとする。
「ぬっ!?」
召喚士は首とロープの間に指を挟み込むことに成功するが、ロープはしっかりと召喚士を掴んだ。
ランマはその剛力でロープを引っ張る。召喚士の足は地から離れ、ランマに引き寄せられる。
額から血を流し、怒りに目を血走らせたランマは右拳を引いた。
「――――――らぁ!!!」
ランマの拳が召喚士の顔面に炸裂。召喚士の唇から血が舞い散る。
「さあって、正体明かしてもらおうか。陰険クン」
召喚士は外套ごとロープを脱ぎ、着地する。
「……まったく、あの落ちこぼれがここまでやるようになるとはな……」
ローブが脱げ、顔が晒される。
ランマは召喚士の顔を見て、目を見開いた。
クセのある濃い緑の髪、雑に生えた顎鬚。
ランマの知っている人物だった。
「ガルード先生……!?」
召喚士アカデミーで己の担任だった男――
「久しいな。ランマ」
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