表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/74

第57話 最前席

 ユラユラと揺れる景色。

 ランマは赤毛の男の背の上で目を覚ました。同じくステラも男に背負われている。


「ウ、ノ……」

「だーくっそ! 重いんだよガキども!」


 ウノが、ランマとステラを背負って運んでいた。

 化粧を汗で崩しながらも足を進める。


「すみません、ウノさん。あっしも手伝えたら良かったのですが……!」

「リューさんは自分の足で歩けてるからいいよ!」

「すみません! 帰ったら小指詰めますんで……!」

「詰めんなバカ!」


 ウノは体力のある方ではない。

 加えてケネディとの戦いで体力も魔力を使っている。ギリギリだ。それでも、闘技場の通路を歩く。2人を背負って歩く。


「絶対死ぬんじゃねぇぞお前ら……! もうごめんなんだよ。死んだ仲間を夢に見るのも、死んだ仲間の幻聴を聞くのも、幻覚を見るのも、ごめんなんだ……!」


 ウノは待合室まで気合でたどり着いた。


「ウノ! どうした!?」


 ウノの元同僚、ジェイドが駆け寄ってくる。


「ジェイド、か。頼む、医者を呼んでくれ! 仲間がピンチなんだ……」

「お前……!」


 ウノは気力を使い切り、その場に倒れ込んだ。



 --- 



「……」


 次に気づくと、どこかの病室のベッドの上だった。ランマは全身に走る痛みに顔を歪ませる。だが、思っていたよりは痛くない。あのゴールデンストライクとかいう技を受けた時、確実に瀕死になった。そこから先の記憶はないが、満身創痍だったはず。なのに上半身を起こせるぐらいには回復している。


 タン、タタ、タン。という気味のいい足音が聞こえる。音の方を向くと、踊り子が踊っていた。褐色肌で、スレンダーな女性。ハーレムパンツにへそ出しの服を着た彼女は陽気に踊り続けている。


「えーっと?」


――なんだこの状況?


「あ! やっと起きたよもうっ!」


 踊り子はランマの目が覚めていることを確認すると、バタンとその場に倒れた。


「もう~~疲っれたぁ! 一晩中踊り続けたぁ!! 無茶し過ぎだよキミさぁ!」

「えーっと、どちら様でしょうか?」

「射堕天サークル第七師団所属、リリアーナ=バスティ! キミの先輩だよ!」

「……なんでダンスを?」

「キミを治療するためだよっ!」

「意味がわからねぇ……」


 嚙み合わない会話を嚙み合わせるため、灰髪の男が部屋に入る。


「リリアーナの踊りはね、様々なバフを与えてくれるんだ。例えば治癒能力促進のバフとかね」


 スウェンがいつもの笑顔でやってきた。


「お疲れ様。リリアーナ」

「スウェン! もうボク帰っていい? 帰っていいよねっ!?」

「ごめんね、まだステラちゃんが目覚めてないんだ。すぐにそっちに向かってほしい」

「やーだ! やーだ! もう帰るごはん食べる寝るぅ!!」


 バタバタと暴れて抗議するリリアーナ。


「お前の踊りが治療になるってんなら、俺からも頼む。ステラを助けてくれ」

「……もう、そんな風に頼まれたら行くしかないじゃん! べーっだ!」


 リリアーナは舌を出して病室を出た。


「さてと、なにから聞きたい?」

「……ウノとステラとリューさんの怪我の調子は?」


 スウェンはベッドの側の椅子に腰かける。


「ウノ君とリューさんは軽傷、入院するまでもないレベルだ。ステラちゃんはかなり重いダメージだったけど命にかかわるほどじゃない。一番の重傷者は君だよ」

「そっか、よかった。そんで、ここはどこだ?」

「第五師団傘下の病院だ」

「闘技場の連中はどうなった?」

「眷属は蒸発。眷属になってないケネディの部下は全員検挙。客や演者、剣闘士は事情だけ聴いて解放した。ケネディに奴隷扱いされてた人たちは救出したけど、3分の1はそのまま衰弱死しちゃったね」

「……そっか」

「闘技場は解体された。施設は射堕天サークルが引き取って修練場にするんだってさ」


 任務は大成功さ。とスウェンは言う。

 スウェンは本心から言ったが、ランマには皮肉に聞こえた。


「初任務にしてはハードだったね。お疲れ様」

「あ~……ほんっとに疲れた。なぁスウェン」

「なんだい?」

「ハンバーガー食いてぇな……」


 スウェンはクスっと笑う。


「ちょうど〈テムズ川〉沿いに新しいハンバーガー屋さんができたんだ。そこにする?」


 ランマは疲れ切った顔で、


「……いいや、定番のとこにしてくれ」



 --- 



 街道にて。


「ジェイド」


 ウノはジェイドを呼び止めた。


「なんだよ、なにか用か?」

「お前に言っておきたいことがあるんだ。その……俺はもうマジシャンは辞めてる。わりぃ、嘘ついた」


 ジェイドはため息をつき、


「薄々勘づいてはいたさ。で、今はなにやってんだ?」

「アイツらを殺した堕天使を追ってる」

「……お前のような臆病者がか」


 ジェイドは「アホくさ」とウノに背を向ける。


「どうせまた逃げるに決まってる」

「逃げないさ」


 一切茶化さず、まじめな声色でウノは言う。


「この道からは逃げない。お前の弟の仇を、アイツらの仇を、必ず取る。そして、妹の魂も――解放する」

「……そうかよ」

「それでよ、仇討ちが終わったらさ、また……手品してもいいかね?」

「なんで俺に聞くんだよ、そんなこと……」

「お前の許しが無きゃ、俺はマジシャンには戻れねぇよ」

「この前闘技場でマジシャンやってたじゃねぇか」

「あ、あれはやむを得ずだな……!」


 まったく。とジェイドは笑う。


「条件がある」

「お? なんだ?」


 無理難題を吹っ掛けられないか、とウノは不安がる。


「最前席のチケット」

「え?」

「復帰一発目のショー、その最前席のチケット、2枚寄越せ。それが条件だ」


 ジェイドは歩き出し、手を振る。


「俺たち兄弟は、お前のマジックが大好きなんだ……」


 ウノは空を見上げて笑う。



「――約束するよ」



読んで頂きありがとうございました。

この小説を読んで、わずかでも面白いと思っていただけたら評価とブクマといいねを入れてくれると嬉しいです。とてもパワーになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『リミットリング』第一巻発売中! 素晴らしいイラストの数々、必見ですよ!( ´艸`)

https://img1.mitemin.net/2s/cm/1y4577nyd7rs9fwfgxni28kdcsfz_hk3_1d0_1zz_1rlkb.jpg

※クリックするとAmazon販売ページに飛びます。 渾身の一作『スナイパー・イズ・ボッチ ~一人黙々とプレイヤースナイプを楽しんでいたらレイドボスになっていた件について~ 』もよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[一言] aka killみたいな終り方しそうで怖い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ