第56話 蠅王の因子
熱気漂う中、ランマはケネディに戦いを挑む。
「……よく理解したぜ堕天使! テメェらとは――」
ランマはバーテンダーの堕天使、カラス頭の堕天使、そしてワンハンドレッドの一件を思い浮かべ、歯を軋ませる。
「分かり合えねぇ!!」
コウリュウとアラダマが激しく打ち合う。
「腐りきってやがる……!」
「自分の種を棚に上げるなよ人間!!」
ケネディの頭突きがランマの額に当たる。
ランマの額が割れ、血が滴る。
「貴様らの凶行に比べれば、これすら安い!!」
ランマはある場所に狙いを定めていた。
(ステラの弾丸が通らなかった核。信仰でさらに強化されたそれは、この剣でも貫けるかわからねぇ)
しかし、一点のみ、活路はある。
(再生能力があっても核に突き刺さった弾丸は抜けないはずだ。ステラが撃った楔、それを押し込む形で突く! それしかねぇ!!)
「ここに来てなんという集中力! それでこそだ少年!!」
ランマは垂れてきた汗で一瞬、視界を濁らせた。その瞬間をケネディは逃さず、拳で頬を殴り飛ばす。
「くっ!」
「ハハハハハ!!」
ケネディの笑い声が頭に響く。
「楽しいなぁ! 命の燃える音がする!! まだ精魂果てるなよ! ランマァ!!!」
「付き合ってらんねぇぜ! いかれ野郎が!!」
グラ、とランマの重心が揺れる。
(熱気で、意識が……!)
怯んだランマの腹に、黄金の玉が当たった。
「ゴオオオオォォォォルデェン! ストラァァァァイク!!!!」
人間を潰せるぐらいの巨大な金槌を、正面から打ち付けられたような衝撃。
「っ!!!!」
声にならない絶叫。
全身に焦げるような痛みが走る。
(――――)
大気が振動し、凄まじい衝撃波がランマを中心に巻き起こる。
衝撃波が止むと、ランマは一瞬で壁まで叩き飛ばされた。
全身の骨と肉が動くのを諦め、脳が痛みから逃れるために活動を休止する。
ランマ=ヒグラシは意識の糸を断ち切った、
――はずだった。
---
『みらぁ!!』
ミラは宝箱の姿になり、ランマの元へ駆け寄る。
「無駄さ。信仰によって強化されたゴールデンストライク、耐えられるはずがない……」
ケネディは玉を大皿→小皿→けん先の順番に置く。
「まだ満たされん……この昂ぶり! 貴様の仲間に居たあの女の肉体で鎮めさせてもらうぞ……!」
『みら! みら! みら!! みらぁ~~~!!!』
ミラの鳴き声が響く。
ケネディはそこで違和感を覚えた。
――なぜ、召喚士が死んだのに召喚獣が残っている?
再びランマの方へ目を向けると、ランマは、立ち上がっていた。
その瞳は虚ろだ。
「……」
ランマの頭に鳴り響く、雑音。
ブーンブン、ブーンという音が連続して聞こえる。
「ありえん……! なぜ、生きている!!?」
ブーンブンブンブーン。
ブーン、ブーン、ブンブン……。
「蝿の……」
ブーンブンブンブーンブーンブンブンブーン
ブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブーンブンブンブーンブンブンブンブン――――――
「蝿の――羽音が聞こえる……」
ランマの雰囲気が、これまでと違うのはすぐにわかった。
(なんだ、あの禍々しい魔力は……!?)
どす黒い魔力は形を変え、巨大な蝿の形になる。背に、髑髏の紋章を背負った蝿に。
「ははっ……!」
ケネディは顔中に汗を這わせ、すぐさまけん玉を構える。
「いいぞ! 面白い! ここからが本番と言うわけか!! ゴオオオオォォォォルデェン――」
けん玉の玉が黄金色に輝く。
「――コウリュウ」
――一瞬。
伸びた蛇腹剣が、けん玉を持つケネディの腕を斬り刻んだ。
(まるで見切れなかった。なんという速度!?)
ケネディはけん玉を手から零す。ランマは蛇腹剣が縮む際に、ワイヤーをけん玉に引っ掛けて引き寄せた。
「貴様!!」
ランマはけん玉のけんを蹴り飛ばした。
高速で迫るけん玉をケネディは避けきれず、黄金色の玉を腹に受ける。
「がっ!?」
――轟!!!
とてつもない衝撃波がけん玉を中心に起こり、ケネディは体をくの字に曲げた。
(しまった……! 一瞬の接触ならば天罰によるダメージもない……! 巧くやられた!!)
ケネディは左手をけん玉に伸ばす。しかし、左手がけん玉に到達する前にランマの手から伸ばされた蛇腹剣がケネディの左腕を切断した。
(信仰で強化された私の腕を容易く!?)
蠅のオーラを纏った少年が近づいてくる。
ケネディは恐怖を振り切り、傷だらけの右拳を振り上げる。
「ぬわああああああああああああああああっっっ!!!!」
ケネディの抵抗は無意味だった。
拳は簡単に避けられ、
ランマはすれ違いざまにケネディに斬撃を浴びせる。ケネディはランマの斬撃によって右腕両足首を切断された。
――圧倒。
一切の反撃を許さず、ランマはケネディを圧倒した。
「これが、君の本気か……! はは! 満、足、だ……」
乾いた笑い声が響く。
ランマは冷徹な瞳でケネディを見下す。
「……お前じゃ足りねぇよ」
ランマはケネディの胸に剣を突き立て、核を砕いた。
『みらぁ!』
ミラは宝箱の姿になり、ケネディの天界礼装“アラダマ”をペロリと飲み込む。
『みららぁ!』
ミラはランマに褒めてもらうとランマの足に擦り寄る。
だが、ランマはすぐさまバタンと倒れてしまった。
『みらぁ!?』
ミラはランマの足の裾を引っ張り、ここから逃がそうとするが、ほどなくしてミラも消え、サモンコインとなった。
こうして、戦いは終わった。
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