第55話 黄金の刻
ウノはランマの横に行く。
「リューさんは安全な場所まで運んだ。ステラちゃまはあっちで気を失ってる。バトルに混ざるのは無理だ」
「わかった。俺たち2人でやるしかないわけだな」
「そゆこと」
ケネディは残った右手でけん玉を持つ。
「いいねェ、命がピりつくこの感じ……天界では味わえないものだ」
ランマは前に出て、ウノは後ろに下がる。
結界士は後ろ、アタッカーは前。チーム戦闘の基本だ。
「自ら距離を詰めるか! 面白い!」
ケネディも前に出ようとするが、その足を見えない結界に阻まれ、躓く。
「ぬっ!?」
ランマの突きがケネディの肩を掠める。
攻撃しながらランマはある日のスウェンの言葉を思い出していた。
『天使は人間界に堕ちた際にいろいろなハンデを受けた。その内の1つが心臓だ』
『元々は持ってなかったのか』
『うん。心臓というより核と言うべきかな。大体の場合、胸の中心にそれはある。これを破壊することで堕天使は死に絶える。さっき君はアディガロスの首を斬って満足していたけど、アレじゃいずれ復活される恐れがあるから気をつけて。堕天使を壊すなら、核を必ず破壊すること』
ランマはケネディの胸に狙いを定める。
ケネディは腕を振るおうとするが、それも見えない結界に阻まれる。
「邪魔だ!」
ケネディは結界を無理やり破り、けん玉を振るう。
「ゴオオオオォォォォルデェン!」
「うおおおおおおおおお!!!」
けん玉の玉が黄金色に輝く。
ランマの剣が届くが先か、黄金の玉がランマを殴るのが先か。ギリギリの間合い、タイミング。どちらの攻撃が先に届くか、もしくは同時に届くのかわからない。お互いの命を賭けたギャンブル。
ランマもケネディもその賭けに乗るつもりだったが、ただ1人それを拒絶した。拒絶したのはウノだ。ウノはランマの足元から結界をセリ上がらせ、ランマをけん玉の間合いから逃がした。
ランマの突きは空を切り、ケネディのけん玉は結界に激突。結界を粉々にした。
「……ウノか!?」
「無粋な真似を!」
「無茶すんじゃねぇよアホ!!」
ランマはけん玉の衝撃波で空に投げられる。
ケネディはケネディは玉を大皿→小皿→けん先の順番に置く。
「……まずは邪魔な貴様を!!」
ケネディはウノに殺意を向ける。
ランマはまだ受け身の途中。ウノの護衛にはいけない。
「ちょ、まっ!」
「死ねぇ!!」
「ご勘弁をぉ!!」
ウノは膝を床につけ、頭を下げた。土下座である。
その行動にケネディは一瞬思考を停止させる。当然、ウノは謝るためにこの姿勢を取ったわけじゃない。
「なーんて♪」
ウノが頭を下げたのは、射線を通すため。
――ズガン!!
遠方で発砲音が鳴り、ケネディの胸の中心に弾丸が着弾した。
「……馬鹿、な!」
遥か遠く、メイド服のスナイパーの弾丸がケネディを撃った。
「『舐めてんじゃねぇぞ租チン野郎!』……ってきっと言ってると思うぜ」
「……奴は、気絶しているのではないのか!!?」
「愚かだな。奇術師の言葉を真に受けるなんざ、愚かだぜミスター」
勝ちを確信するウノ。だがランマはある違和感を抱いていた。
(弾丸が貫通していない……!)
もしも核を撃ち抜いたのなら、弾丸は背より出ているだろう。なのに出ていない。
弾丸は核には命中している。ただ、核の中腹で止まっていた。
ランマは慌ててケネディとの距離を詰める。
「ゴオオオオォォォォルデェン!」
「なに!?」
けん玉の玉が黄金色に輝く。
「ケネディ!」
ランマはケネディの名を叫び、意識をこっちに向けさせようとした。
このままケネディがウノを狙えば、ランマの攻撃を受けるしかなくなる。声を掛けることでケネディの攻撃を自分に向けさせることが目的。
しかしケネディはランマの思考の外の行動をした。
けん玉をランマでもウノでもなく、床に叩きつけたのだ。
「ストラァァァァイク!!!!」
衝撃波が発生し、至近距離に居たウノは衝撃波で吹き飛ばされた。
床が崩れ、ランマとケネディは落下を始める。
(床が崩壊!? なんだ、下に空間がある!!)
「ハハハハ!! だーっははははははははははは!!!」
狂ったように笑うケネディ。
ランマは着地し、周囲を見渡す。
「な、んだよここ……!?」
そこは蒸気がこもった部屋だった。
円形の木の床、その周囲には目隠しされ、薄着で、ひたすら祈る大量の人間が居た。手・足・首に錠がされている。彼らは三段の檻に入れられ、ひたすら祈っている。
「私の特性サウナ室さ。攫ってきた人間をひたすら炙り、窮地に立たせ、祈りを抽出する。この部屋の中心で眠るとさいっこうに満たされるのだ……」
――『最近、闘技場付近で誘拐事件が相次いでいてな。金持ち共が闘技場に権力シールド張ってたせいで捜査はできてないが、誘拐も連中がやってる可能性がある。その辺の調査も頼みたい』
誘拐事件の犯人、それもケネディだったとランマは確信した。
「お前ェ!!!!」
ランマは怒りのまま叫んだ。
ケネディの失われた左腕が再生する。
(信仰の力か!!)
ここは、堕天使の領域。
「今頃上には私の眷属たちが到着している頃だ。あの2人は彼らに手いっぱいでここには来れないだろう。さぁ少年! もう我々の戦いには何者も介入しない!! 楽しもうではないかぁ!!!」
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