第52話 ケネディ=ディズバーグ
「続いては飛び入り参加の演芸団! 稀代の魔術師ウノ=トランプが率いるトランプ演芸団だぁ!」
拍手の嵐の中、ランマが現れたのはステージ上に建てられた高台の上。
高台から向こうの高台に向かってロープが伸びている。
ランマが挑戦する演目は“綱渡り”。
(集中集中集中集中……!)
ランマはクラブ(ジャグリングの道具。棍棒のような形)でジャグリングをしながらロープの上を歩く。
観客はランマの芸を見て歓声を上げる。だが、このままロープを渡ったところでついさっきまで演芸をしていたサーカス団のインパクトは越えられない。
ランマは天高くクラブをトスする。そして、すぐさま足元のロープを蹴り、合図を出す。
ロープは突如として消えた。ランマは落下を始める。
歓声と悲鳴が巻き起こる。
(今だミラ!)
ランマの手の中にはコインがある。もちろん、これはミラが化けた姿。先ほどランマが渡っていたロープもミラが化けた姿だ。ミラはランマに蹴られ、それを合図にコインに変化し、ランマは空中でコインをキャッチしたのだ。
ランマはコインを上に投げる。するとコインはロープに変化し、天井から吊るされたフックに引っ掛かった。
ランマはロープを掴み、空中を移動して先ほどばら撒いたクラブを華麗にキャッチ。そのままステージに着地し、どや顔で正面を向く。
「「「うおおおおおおおっっ!! すげええええええええっっ!!!」」」
大歓声が巻き起こる。
ランマの超人的な集中力、器用さとミラの能力を応用した芸。他に類を見ない、即席とは思えない完成度の芸だ。
(……気持ちいい……! こういうのもたまには悪くねぇな)
『みみぃ!』
ランマがステージを降り、続いてステージに上がるはステラ。
ステラはバニーガール姿でステージの中央に行く。観客(主に男性客)から口笛が鳴り響く。当初の予定では転生術を使ってからステージに上がるはずだったが、なぜかステラはバニーガールの姿で上がった。せっかく着替えたのだからバニーガール姿を見て欲しかったのか、それとも緊張で転生術を使うのを忘れていたのか、真相はわからない。
ステラは深々と頭を下げる。それを合図に、ステージサポーターの人間たちが大量の風船をステージに投げた。風船が上に上がっていく。
ステラは足元に星形の転生陣を出す。
「転生術――“銃装冥土”」
ステラの格好がメイド服になる。また鳴り響く男性客の口笛。
ステラは両指と髪を銃に変える。
「よく見とけ租チン&下げマン共!! 俺様の打ち上げ花火をなぁ!!!」
ステラは観客席とステージの上に打ちあがった風船を全て撃ち抜く。風船は割れると、大きな火花を散らした。花火がステージと観客席を照らす。
ステラは転生術を解く。
「……ランマさんに比べて荒っぽい芸でしたが……皆さん、喜んでるし、大丈夫……かな」
ステラは頭を下げ、ステージを降りる。
そして、入れ替わりに今宵の主役が登場する。
「おい! 見ろよアレ!」
「そ、空を……歩いてる!?」
ウノ=トランプは観客の頭上に現れた。観客席の上空を歩いている。ワイヤーで吊らされているわけでもなく、なにか足場があるわけでもない。目に見える範囲には。
ウノは空を歩き、ステージに舞い降りる。
「ここまで上等なオードブル出されちゃ、とっておきを見せなきゃ割に合わねぇよな」
ウノは結界を活かし、マジックの数々を披露する。
当たり前のように空中を歩き、当たり前のように物を消したり出したりし、姿を消して突然別の場所に移動したり、観客を巻き込んで手品を披露したり。
その姿はまさにエンターテイナー。ランマとステラはステージの袖からその姿を見て、素直に感心した。
「凄いんですね、あの人」
「……天職ってやつなんだろうな」
同時に疑問が浮かぶ。
これだけの腕があってなぜ射堕天の道を選んだのだろうと。
ウノはある女を殺すために射堕天になったと言っていた。だが、ただの復讐心でこれだけの道を手放すような人間にも見えない。
ウノは前座として最高の盛り上がりを作り、ステージから去った。
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公演後。
ランマは待合室の隅に座り、体を休めていた。
「ふーっ、ちょっと休憩」
ウノは先ほどの芸を見た連中に囲まれ、ステラはナンパの嵐に遭っている。
「よう、お前ウノの部下だろ」
ランマの元に、1人の男が訪れる。
開演前、ウノと仲睦まじげに話していた男だ。
「アンタはたしか、ジェイドだったか」
「そうだよ」
「なにか用か?」
「忠告しようと思ってな」
「忠告?」
「ウノを信頼し過ぎるなよ」
嫌な言い方だった。
「お前さ、アイツの奇術団がどういう結末を辿ったか知ってるか?」
「知らねぇな」
「堕天使に襲われたんだよ。それでアイツ以外は全滅さ。俺はその襲撃事件の一か月前に奇術団を離れてたから無事だったがな」
「!? そう、なのか……」
ジェイドはなぜか、怒ったような表情をする。
「でもそれはウノのせいじゃねぇだろ。なんでウノを睨むんだよ」
「そうだな。堕天使に襲われたのは不運としか言いようがない。でもさ、なんでアイツだけ生き残ったと思う?」
「たまたまその場に居合わせなかったとかじゃないのか」
「違うよ。アイツは居たんだ、あの場に。でも、生きていた。それはなぜか……1人だけ結界に閉じこもっていたからさ」
「……」
「知ってるだろ? アイツの結界の能力。アイツは奇術団の人間が貪られている中、部下が惨殺されていく中、1人結界に引っ込んでいた臆病者さ。マジックの腕は確かだが、いざという時は仲間を見捨てる。そういう男さ」
「……アンタ、ウノのこと嫌いなのか」
「嫌いじゃないと思っていた。さっきまではな」
ジェイドの表情が暗く落ちる。
「奇術団には俺の弟が居たんだ。ウノが楽しそうにマジックを披露している姿を見ていると、弟のことを思い出して……腹が立った。アイツは死んだのに、ウノがのうのうと生きているのが……許せなかった」
「だからって俺を使って八つ当たりするなよ」
「……そうだな。悪かった」
ジェイドはウノから視線を切り、待合室から出た。
「トランプ演芸団の御三方」
黒服の男、闘技場スタッフがランマ達を呼ぶ。
「オーナーがお呼びです。こちらへ」
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ランマ達は黒服に連れられ、豪奢な廊下を歩く。
「……予定通り、だな」
小声でウノが言う。
「……警戒してください。なにかの罠かもしれません」
「……そうだな。すんなりいきすぎな気がする」
ランマが言った。
黒服はこれまた豪奢な扉の前で立ち止まる。扉の前には男が2人。
「どうぞ」
黒服が扉を開く。
ランマ達が中に入ると黒服が扉を閉めた。
正面には闘技場のオーナー、ケネディ=ディズバーグが居る。ケネディは両腕を広げ、
「ようこそ射堕天サークルの諸君! 私が堕天使ケネディだ!! さぁ座りたまえ。異文化交流といこうではないか!」
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