第5話 ミラの能力
さらに翌日、ランマは学校に卒業試験までの間休学することを伝えてきた。
これまで一度として休んだことなかったし、出席日数は問題ない。
あと約一か月、卒業試験に向けての修行を始める。
「なぁミラ、お前の擬態バリエーションを知りたいんだ。いま記憶している物体に片っ端から化けていってくれるか?」
『みら!』
滝の側で一人と一体は向かい合う。
ミラは順々に己の内に眠るアイテムへ化けていく。
コイン。
鋼の剣。
鋼の槍。
鋼の盾。
宝箱。
現状、ミラのバリエーションはこの5つだった。
宝箱はミミックが生まれついて記憶しているもの。コインはおやっさんが記憶させたもの。
剣と槍と盾、これについてはこれまでの持ち主が記憶させたものだろう。とランマは推測する。もしくは機能テストでおやっさんが記憶させたのかもしれない。
「OK。ちなみにあとどれくらい記憶できる?」
『み、ら、ら、ら、ら、ら!』
ミラは5回飛び跳ねた。
「あと5つってことか?」
『みらぁ!』
悪くない。とランマは考える。
空き5つもあればいろいろと悪さができる。
「グルル……!」
殺気の滲んだ声が森から聞こえた。
ランマは振り返る。鼻息の荒いイノシシが一匹、ランマ達を睨んでいた。
「イノシシか。ちょうどいい。ミラ、お前の力を見せてくれ!」
『みみぃ!』
ミラは跳ねながらイノシシに突進する。
「いけぇミラ! 体当たりだ!」
『みみみみみ~~~! みらぁ!!』
「ガルゥ!!」
『みらぁ!?』
ミラは逆にイノシシの体当たりをくらい、宙を舞ってランマの足元に落下した。
『み……み』
「大丈夫かミラ!」
ミミックは弱い。そもそもが物に擬態して相手の不意をつく不意打ち専門の悪魔だ。
ゆえに戦闘力に期待はしてなかったが、しかしイノシシに負けるとはランマの予想外だった。
『みみぃ……』
ミラは申し訳なさそうな顔でランマを見上げる。
「落ち込むなよ。一対一で勝つ必要はないんだ」
「グルル!!」
イノシシが突進してくる。
大きさにして闘牛と同じくらい。ランマの胸下ぐらいの大きさだ。
「おぅ――」
ランマはイノシシの突進をスレスレに躱し、
イノシシの頭を脇に挟み込む。
「――らぁ!!」
ランマは森の方へイノシシを投げ飛ばした。
「がる!?」
イノシシは木にぶつかって地面に落ちるが、すぐさま立ち上がる。
「ミラ! 剣になってくれ!」
『みら?』
「二人でアイツを倒すぞ!」
『みらぁ!』
ミラは剣に擬態する。
ランマは剣となったミラを構える。イノシシは真っすぐと突進してくる。
「切れ味は如何ほどかな……と!」
イノシシに向かって剣を横に振る。すると――スパッと、イノシシを斬り裂くことができた。
「うおっ!?」
――なんだ、この切れ味!?
ランマはほとんど力を入れてないのに、綺麗に真っ二つにできた。
剣が止まらなかった。イノシシは体を真っ二つにしても勢いを損なわずに血をまき散らしながら数メートル前進した。切れ味の悪い剣なら、いや、普通の剣なら骨や筋肉に突っかかってイノシシは勢いをなくしていただろう。
見た目は特に何の変哲もない剣、とても名剣とは思えない剣だ。なのに、この切れ味。ランマは僅かに疑問を抱くも、今はただ喜ぶことにした。
「すげぇぞミラ! これなら悪魔だって斬り裂ける!」
『みみぃ♪』
ランマはミラを抱き上げ、存分に撫でる。
(ミラを武具に擬態させて俺がその武具を使う。この戦法なら……!)
それから一か月、二人は修行を続けた。そしてあっという間に決戦の日がやってくる。
――卒業試験当日。
ランマが久々に登校すると、早速エディックが教室で絡んできた。
「よう落ちこぼれ。来年使う教科書はもう買ったのか?」
したり顔のエディック。
「なぁエディック、今日の卒業試験、俺と戦わないか?」
「あぁん?」
「お前が先生に直談判すればきっと許可してくれると思うんだ。お前は先生に好かれてるからな。今年の一番株として」
「はは! よかったよかった。お前も同じことを考えていたんだな」
エディックはランマを指さす。
「喜べ。ついさっき、先生に頼んできたところだ。俺の卒業試験の相手は……お前だよ、ランマ。引導を渡してやる」
「なんだ、話が早くて助かる」
「……っ!?」
ランマが微笑むと、エディックは一歩後ずさった。
ランマの自信に満ちた表情に気圧されたのだ。
いま、ランマはウズウズしている。
エディックへの仕返しとか、卒業試験の合否とか、今はどうでもいいと思っている。
ただ早く試したかった。己とミラの力を……。