第49話 初任務!
ブーン、ブンブンブン。
「……」
ブーン、ブーン。
「ちっ」
明朝、ランマは蝿の羽音によって目覚めた。
起き上がり、周囲を見渡すが、蝿の姿はない。
「外、か。くっそ、うっせぇな蠅がよ……」
コンコンと、扉がノックされる。
「はーい」
「……ランマさん、私です」
ステラの声だ。
ランマは扉を開ける。
「どうしたステラ、こんな朝っぱらから」
「ギネスさんがお呼びです」
「わかった。すぐ仕度する」
制服に着替え、外に出る。
「ウノさんも呼ばれてます」
「オーケー」
ランマとステラはウノの家の前に行く。
ランマが強くノックするも、返答はない。
「まだ寝てるみたいだな」
扉は鍵が掛かってなかったので、ランマは扉を開き、中に入った。ステラも続く。
「あり?」
部屋はもぬけの殻だ。荷物はあるが、ベッドの上には誰もいない。
しかし妙な点があった。
ベッドのシワがなぜか動いている。ランマがベッドの上に手を伸ばすと、コツンと見えない壁に阻まれた。
「結界を防音代わりに使ってやがんのか……」
ウノの結界“タネも仕掛けもある箱”は結界内の物体を透明化させる効果がある。
ウノは自身の結界でベッドと自分を囲み、自分のみを透明化させているわけだ。
「壊しましょう」
「そうだな。せーのっ!」
ランマとステラは足を上げ、踵落としを同時に繰り出す。
踵落としは結界を突き破り、結界内のいるウノまで到達した。
「いってぇ!!」
ウノの悲鳴が〈ハウスツリー〉内に轟いた。
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「さて諸君、早速任務だ」
一階事務所。
ランマ、ウノ、ステラの3人の前でギネスは話を始める。
「〈イースト・エンド〉の最南に非合法の賭博闘技場がある。そこに堕天使がいる疑惑がある。お前らにはそこへ潜入してもらい、堕天使を見つけ、討伐してほしい」
「非合法の賭場なんてよく魔法士団の連中が許してるな」
魔法士団は王国直属の兵団。古くは騎士団と呼ばれていたこともある。
街の取り締まりなどはこの魔法士団の役割だ。
「〈イースト・エンド〉はその辺ゆるゆるだからな。しかもその闘技場には権力者も多く通ってるらしくて手が出しづらいんだ。場所も地下だから目立つこともない。黙認されている状況だな。それと〈ロンドン〉に関しちゃ射堕天サークルが魔法士団の役割を担っているから、こういうの取り締まるのは俺たちの仕事なんだぜ」
「ですが、今回は取り締まるのが目的ではないんですよね?」
ステラが聞く。
「そうだ。あくまで目的は堕天使の討伐。この闘技場は別に人殺しとかはしてない。試合もグローブ付きの拳闘試合や鎧をつけたフェンシングとかで、命のやりとりじゃなく、そこまで闘技場自体を危険視する必要はない。――しかし、結果的に闘技場を潰すことになる可能性はある」
ギネスはある男の写真を出す。
「先日、街でたまたま射堕天の1人が眷属を発見した。それがコイツ。コスタ=ハンエス。闘技場で案内人をやっていた男だ。コイツは情報を抜いた後、処分した」
「なるほど。ってことは、闘技場のオーナーサイドにコスタを眷属にした堕天使が居る可能性が大きいと」
ランマが言うとギネスは頷いた。
「もう一つ耳に入れてほしい情報がある。最近、闘技場付近で誘拐事件が相次いでいてな。金持ち共が闘技場に権力シールド張ってたせいで捜査はできてないが、誘拐も連中がやってる可能性がある。その辺の調査も頼みたい」
ギネスの顔つきが変わる。
クールな面持ちだが、内に怒りが秘めてある。
「しかしよギネ君、潜入ってどうやるんだ? 俺の能力でコソコソ行くのにも限界があるぜ。特にオーナーサイドを探ろうっつーなら、それなりに深部に潜らないとならねぇ」
「ちゃんと策は用意してある」
ギネスは悪い笑みを浮かべ、ハンガーを取り出した。ハンガーにはバニーガールの服や、ピエロの服、タキシードなんかがある。
「試合の前座にサーカス団が芸を披露することになっていてな、その1プログラムにお前ら3人をねじ込んだ」
「……おいおいまさか」
「じょ、冗談ですよね。その服を着て――」
「お前らの能力って演芸向きだろ?」
「そんな理由で俺たちをこの任務に選んだのか……」
にっひっひ! とウノは笑う。
「どうやら、今回のエピソードの主人公は俺みたいだな」
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