第48話 国宝級
「なにやってんの?」
古着屋から出てきたエマが問う。
ランマはエマの持つ荷物の束を見て気が滅入った。
どうせ持つのは俺なんだろうな。とほほ。とランマが思うと同時に、エマは荷物を差し出した。
「ほら、シャキッとしなさい。まだまだ買い物は始まったばかりよ」
「……もう俺の両手は埋まっているんだが」
ランマがその場を離れると、銀マスクの商人は「またのご来店を~!」と手を振った。
それからスイーツを食べて、食器を買って、またスイーツを食べて、アクセサリーを買って、またまたスイーツを食べて、また服を買って……なんてことを繰り返すうちにあっという間に夕方になった。
ランマとエマは落書きだらけの壁の前に地べたに座る。
「はーっ! 買った買った! たっのしかったーっ!」
満足げなエマ。
先ほどまでは不満だらけだったランマも、エマの笑顔を見て満足げに笑う。
「そっか。良かったよ」
「あ、そうだ。アンタ、ちょっとニット帽よこしなさい」
「え? なんで?」
「いいから!」
有無を言わせないエマの迫力。ランマは渋々ニット帽を渡す。
エマはランマに背を向け、何やらコソコソとニット帽をいじくりまわした。
「はい」
エマはランマにニット帽を返す。
ニット帽にはバッジが付いていた。かわいらしい髑髏が描かれたバッジだ。
「バッジ? だせぇな……」
「いいから、被ってみなさい」
ランマはニット帽を被る。するとエマはクスりと笑い、
「うんうん! ちょっと可愛げ出たわ」
「馬鹿にしてんだろ……ったく。そんじゃ、お返しやるよ」
ランマはポケットから先ほど買ったお守りを出した。
「なにこれ。だっさぁ」
「お守りだってさ。魔よけの効果があるんだと」
「へぇ~」
エマはお守りをつまんで持つ。
「中は開いちゃダメらしい」
「変な形ね。とても魔よけの効果があるとは思えないわ」
「いらないなら返せよ」
「せっかくだから貰ってあげる」
高飛車にそう言ってエマはお守りを紙袋の中に入れた。
「じゃ、帰りましょうか」
「そうだな」
「それとも、ここ寄ってく?」
エマは悪い顔でホテルを指さす。
「ホテル? なんで? 飯でも食うのか?」
「知らないの? ここはホテルの中でもエッチ専門のホテルで……」
「行かねぇよ!」
「冗談よ。顔真っ赤にしてばっかみたい」
「……ちっ。からかいやがって」
こうして、ランマとエマの買い物は終わった。
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その夜。
ランマが〈ハウスツリー〉に戻ると、第七師団全体に招集がかかった。
事務所に第七師団のメンバーが集まる。メンバーの前にはギネスが立つ。
「もう大半が知っていると思うが、王国保有の国宝級サモンコインが1枚、盗まれた」
第七師団のメンバーから重い空気が醸し出される。
「国宝級サモンコインってなんですか?」
ランマが質問する。
「この国には7枚のつよつよバケモン悪魔に繋がるサモンコインがあってな、それが国宝級と呼ばれるモンだ。1枚で小国なら潰せるぐらいの代物だ。この国宝級7枚の内、4枚を王国が保有し、3枚を射堕天サークルが保有していた。さて、なぜ王国が4枚で俺たちが3枚なのか、理由わかるか? ステラ、答えてみろ」
「射堕天サークルが反旗を翻したり、保有する国宝級を盗まれたりしても対応できるよう、必ず国宝級は王国が多く持つようにしていると聞いてます」
「その通り。だがいま、王国が1枚盗まれたことで王国も射堕天サークルも保有する数は同じになったわけだ。そうなると、王国はどういう対応をウチに求めると思う? ランマ」
「……こっちが保有する国宝級を1枚寄越せって言うんじゃないんすか」
「大正解だ」
射堕天サークルは王国には逆らえない。あくまで射堕天サークルは王国傘下の組織であり、例え王国のミスが招いた問題でも射堕天サークルは下手に出て対応しなくてはならないのだ。
「現在、俺たちが保有する国宝級は自在天様と第一、第二の師団長が使っている。普通に考えりゃ、師団長のどっちかの国宝級を渡すのが吉なんだが」
ギネスはため息をつく。
「自在天様は自らの国宝級を渡した。これにより、自在天様の自衛力は大幅に低下。自在天様の首を狙う堕天使、悪党共が一挙に動き出すだろう。はっはっは~、最悪の事態だぜ」
「なんでウチの大将はそんな悪手を取ったんだ?」
ウノが聞く。
「うーんと、ここもまた複雑なんだが、第一師団と第二師団は犬猿の仲、抗争をするぐらい仲が悪くて互いを強くライバル視している。もしも国宝級を失えば拮抗していた戦力バランスは崩れちまう。だから2つの師団は国宝級を手放すことを強く反対した。事態を丸く収めるため、自在天様は自分の国宝級を返納した、ってわけだな」
「ガキかよ……」
ランマが呟く。
「まったくだ。尻拭いさせられるこっちの身にもなってほしいもんだよ。そこでですが、すみませんザイゼンさん、アンタに自在天様の護衛依頼が来ました。お願いできますか」
「かっかっか! あやつめ、ワシをガードに使うとはいい身分じゃのう。あいわかった。受け入れよう」
「助かります。王国から国宝級を盗んだ輩は〈ロンドン〉に入ったという情報もある。その探索にも数を割くことになる。とにかく人が足りない。総動員で動いてもらう。ランマ、ステラ、ウノ。まだ〈ロンドン〉に慣れていない内は任務に行かせたくなかったが、お前らにも明日から任務を回す。悪いな」
「待ちくたびれたぐらいだぜ」
「同感です」
「不同感です。もうちょい観光気分でいたかったよ」
「これから一週間ぐらいは忙しい日が続く。各々体調管理に気を付けて死ぬ気で働け! 解散!!」
話が終わり、散り散りになる。
ランマはギネスに近づく。
「すみません、ギネスさん。ちょっといっすか?」
「どうした?」
「その盗まれたサモンコインって、どんな悪魔に繋がるモノだったんですか」
「あ、言い忘れてたな。盗まれた国宝級は蝿の王――ベルゼブブに繋がるモンだ」
はじめて聞く名前だった。
「蝿の王って、あんまり強そうじゃないですけど」
「強い、ってよりやべぇって表現が正しいかな。話を聞く限り全部の能力がえっぐいぞ。守秘義務があるから詳しくは言えないがな」
ギネスはなにかを思い出したような顔をして、
「そうそう、お前にとっては特別な悪魔かもな。ベルゼブブは」
「? どうして?」
「なんせアレは……」
「ギネスさん! ちょっと来てもらっていいですか!」
サポーターの1人がギネスを呼ぶ。
「悪いランマ、話はここまでっつーことで」
ギネスはサポーターの方へ行く。
ランマは欠伸をし、「……帰るか」と呟き家に帰った。
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