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第47話 ブリック・レーン・マーケット

 翌日。

 何やら事務所が騒がしかった。


「俺たちは第三師団と合同で〈イースト・エンド〉を中心に探す! さぁ動け動け! Hurry Hurry(急げ 急げ)!!」


 ギネスが陣頭に立って指示を出している。


「ギネスさん、なにかあったんすか?」

「ランマか。まー、ちょっとな。宝探し、ってところかな」


 ギネスは書類を見ながらランマの対応をする。


「俺も手伝いますか?」

「いいよ。お前は探索向きの能力じゃねぇしな。落ち着いたらちゃんと説明するから、今は勘弁してくれ」

「はい、了解です……」


 ギネスは本当に忙しそうだ。

 これ以上邪魔しちゃいけないと感じたランマは詳しい事情は聞かず、事務所を後にする。今日はエマと買い物する予定だ。



 --- 



 ランマは公園のベンチで項垂れていた。


「あちぃ~」

「……じゃあなんでその暑そうなニット帽外さないのよ」


 集合時間ぴったりに来たエマが言う。


「寝癖治すの面倒くさいから。ニット帽被れば隠せるだろ。ま、ある人の受け売りなんだがな。つーかお前だって帽子被ってるじゃねぇか」

「これは日光対策よ」


 エマはため息交じりに、


「アンタさ、女の子と出かけるのにもうちょっとマシな格好できないわけ?」


 ランマは白Tに捲った黒の長ズボンというザ・ラフな格好だ。

 一方、エマは白のショルダーカットトップスにホットパンツというそれなりに気合の入った格好。エマは服装に気を使ったことを後悔した。


「普通、私に誘われたら男は全財産かけてオシャレするものよ」

「もしかしたら俺が着ているこの服は高いブランドの物かもしれないだろ」

「……首から値札出てるけど。200ゼラ(約160円)」

「あ、やべ」


 ランマは値札を引きちぎる。


「……まずはアンタの服選びね」


 エマは心底呆れたように言った。

 


 --- 



 〈ブリック・レーン・マーケット〉。

 〈イースト・エンド〉にある市場で、〈バラ・マーケット〉と違って食品に限らず様々な物が並ぶ。古着やアンティーク、ヴィンテージ品、その辺にあるような石ころから高名な画家が描いた絵画まであらゆる物がある。激安店、高級店が並び立つ。


 〈イースト・エンド〉の自由奔放さを反映したような市場で、若者を中心に人気を集めている市場だ。


「うお~! すげぇ~!」

「ちょっと……」


 ランマはある露店の前で足を止めた。

 その露店はコインショップ。サモンコインショップではなく、ただのコインショップである。古今東西、あらゆるコインを展示している店だ。


「この銅貨、東の〈シグ〉のやつだよな! 確かザクス王が即位していた時にしか使ってなかったやつだ。ほら見ろ! このコインに描かれた肖像画がザクス王だ!」

「だからなに」

「へぇ。なかなかの見識ですね少年。ではこちらの硬貨がなにかわかりますか?」


 露店のお姉さんは真ん中に穴の空いた硬貨をランマに見せる。


「なんだこれ? 見たことないな」

「これは〈キョート〉で見つかった硬貨です。異界都市〈キョート〉には江戸という歴史分類があり、その時代に使われた硬貨なんですよ」

「へぇ~、欲しいなぁ~! でもたけぇなぁ~!」

「ねぇ」


 痺れを切らしたエマ。


「アンタ、コイン集めが趣味なの?」

「まぁな。色んな国、歴史のコインを集めるのが好きなんだ」

「変な趣味。使えもしないお金集めてなにが楽しいの?」

「コインには浪漫が詰まってるんだよ。その国の歴史、時代の背景、優れたデザイン性。この小さな器にすべてが詰まってる。たった三日しか使われなかったコインとかもあるんだぜ。この店のコイン、全部コレクションにしたいけど、今はあんまり財布に金ないしな~……! でもこの〈キョート〉の硬貨はぜひともコレクションに加えたい……!!」

「はぁ。ばっかみたい」


 エマは〈キョート〉の硬貨を手に取り、


「欲しいのはこれね」


 エマは硬貨を店員に渡す。


「買ってあげる」

「いいのか!?」

「これまでの色んなことのお礼。ハイ」


 エマはケースに入れられたコインをランマに渡す。


「ありがとうエマ! 一生大事にするぜ!」


 無邪気な笑顔でランマは言う。

 あまりの真っすぐな視線に、エマは思わず目を逸らす。


「別にそんなものすぐに捨ててもらって構わないって。ほら、古着屋に行くわよ。早くそのダサい格好をどうにかしないと!」


 エマはそそくさと古着屋に向かう。


「アンタ、なにか欲しい服はあるの?」

「いんや。選んでくれると助かる」

「仕方ないわね」


 エマが古着屋でまず手に取ったのは袖の長い上着だ。


「おい待った、さすがにこんな暑い日にそれは……」

「いいから、これを腰に巻いて」

「腰に巻く? こうか?」


 ランマは上着を羽織らず、腰に巻いた。


「うん。いいわね」

「……なにが?」

「私、腰巻き男子がツボなの。これにしましょう。買ってきて」

「……お前も変な趣味あるじゃねぇか」


 エマは古着屋に居座り、今度は自分の服を見る。

 ランマは一足早く古着屋から出て、近くを適当に見て周っていた。


「おにーさん」


 その途中で、男性に呼び止められる。


「そこのニット帽のおにーさん」

「ん? 俺か」

「うちの商品見てってよ」


 ランマに声を掛けた男性は怪しい格好をしていた。

 褐色肌で、ローブを羽織り、顔は銀マスクで見えない。

 銀マスクの男性の前に広げられた風呂敷、風呂敷の上には銀の腕輪や髑髏の皿、紫色の光を放つ水晶などが置いてある。


 暇なのでランマは男性の相手をすることにした。


「結構珍しそうなもん売ってるな」

「うちの商品は全部掘り出し物だよ。しかも激安!」


 確かに。ランマの財布でも余裕で買える値段の物ばかりだ。


「これはなんだ?」


 ランマが気になったのは小さな布の袋。中身は見えない。


「これはお守りさ」

「お守り?」

「異界都市〈キョート〉にあるものでね、魔よけの効果があるんだよ」

「中には何が入っているんだ?」

「ああ! 開けちゃダメだ。中を開くと加護がなくなると言われている。このお守りを持っているとあらゆる災厄から身を守ってくれるんだ。そういうまじないがかかっている」


 ランマはお守りを凝視する。


(言ってる通り、なんか妙な力を感じる……惹かれるっていうか)


 ランマはお守りの値段を見る。


「ふーん……これ、格段に安いな」

「買うかい?」


 ランマは一度、エマの方に視線を送り、


「うん。買う」

「まいど♪」


 ランマはお守りを買って、ポケットに入れた。

読んで頂きありがとうございました。

この小説を読んで、わずかでも面白いと思っていただけたら評価とブクマといいねを入れてくれると嬉しいです。とてもパワーになります。

よろしくお願いします。

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